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第7話:ダム・ガール、空を舞う!

「ド、ドラゴン!?」

「ファフは代々の王家に仕えてくれる(ドラゴン)さんなんだ」


 わたしが思わずつぶやいた言葉に、イグナティオさまが答えてくれる。

 執事をしていたファフさんの正体が(ドラゴン)だったと。


<怖がらせてすまない。うら若いお嬢さまには刺激が少々強かったですかな?>


 頭の中にファフさんの声が響く。

 竜の口からはグルグルという唸り声が聞こえる事から、竜の姿では人間の言葉を紡ぐのが苦手なのかもしれない。


「き、き……」

「どうしましたか、お姉さん。ファフが怖いのですか?」


 わたしはリアルでドラゴンを見た衝撃からか、身体が震えて声が出ない。


 ファンタジー世界での最高峰な生物。

 古代種ともなれば人類以上の知性を持ち、高度な魔法も使う。

 前世世界の戦車並みの装甲となる竜鱗(ドラゴンスケール)

 敵を薙ぎ払う激しい吐息(ブレス)

 巨体を自由に浮かばせる重力制御魔法と、すさまじい膂力(りょりょく)

 簡単に人など殺せる、史上最強の生物。


「き、綺麗ですわー! まるで黒曜石みたいなの!」


「はい? お姉さん、大丈夫……みたいですね。(ドラゴン)を見てパニック起こす方は貴族でも多いんですが、綺麗とは。流石、アミータお姉さん」


<お褒めに頂き光栄です、アミータさま。今まで恐れられたことは多いのですが、綺麗という言葉は初めて頂きました>


 ……漆黒の鱗が焚火灯りを受けてキラキラしているし、造形全体がシャープですっごく綺麗なの!


 ファフさん、竜の眼でわたしを見るのだが、その金色な瞳はとても優しい。

 眼を細め、どこか笑みを浮かべたような表情だ。


 ……あ!? もしかしてファフって北欧神話の(ドラゴン)、ファフニールからかな? 確かファフニールがモチーフの綺麗なロボットもあったような。



「ファフを褒めて頂き、ありがとうございます。さあ、お姉さん。一緒に雨の飛行と参りましょう」


「はい!」


 すっかり舞い上がったわたしは、イグナティオさまの手を取った。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「でも、やっぱり高いところはこわーい」


「はいはい、アミータお姉さん。では、眼を閉じたままボクにしっかりしがみ付いててくだだいね」


<絶対に、私がお二人を落とすはずはないのですが……>


 竜だったファフさんは全く怖くないが、空を飛ぶのはやっぱり怖い。

 こと灯りが消えた浸水状態な夜の町の上を飛ぶのは、暗黒の中に飛び込む感じで怖いのだ。


「お姉さん、もうすぐ現場に到着します。怖いとは思いますが、見て頂けますか?」


 イグナティオさまの掛け声で眼を開く。


「暗くて良く見えないわ」


 川に流れる水の轟音は聞こえるものの、雨よけフードを被っているからか地面の様子はあまり見えない。

 崩れていない堤防の上にいる魔術師さんらしい人が何かをしているのは、彼らが灯す照明魔法で分かるが詳細は見えない。


「お姉さんは身体強化魔法を使えますか? 暗視強化を使えれば見えるとは思います。ダメならファフに照明魔法を撃ち出してもらいますが?」


「やってみます。うん??」


 わたしは、あまり得意でない身体強化を眼に集中してみる。


 ……地系や水系は学校で勉強したうえで努力したから、かなり使えるけど。身体強化は正直あまり得意じゃないの。


 『未来(さき)』のようになりたくない。

 戦闘なんてする気が無いから、わたしは戦闘にしか使えないと思った身体強化魔法の練習をサボった。

 だが、こんな事になるのならもっと練習すべきだったのではと思う。


「あ、見えました。う、これは酷いです」


 視界が明るく、いや明暗がはっきりしてきた。


 ……色が無いから、これって赤外線映像(インフラビジョン)なのかな?


 竜の背中から見下ろした風景。

 普段は静かにのんびりと流れている護岸の間が幅百メートル程の川。

 それが今は狂暴に暴れ、水の「牙」で地面を削っている。


 増えた水は、堤防の高さにまで水位が上がる。

 曲がりくねった川がカーブを描いた部分で、水は堤防を越えザバンと地面を洗う。

 そして越流した水によって堤防を構築する土砂が流され、十メートル弱幅の堤防が無くなっていた。


「地系の魔術師が土壁を作っていますが、流されている様ですね。お姉さん、どうしますか?」


 魔法で応急処置をしている人たちがいるが、やり方が上手くないから効果が薄い。


 ……ただ砂や土を詰んでも流されちゃうの。袋に入れたらまだ違うけど。


「魔法であっても、ただの土や砂を詰んだだけなら、これだけの水の勢いなら流されてしまいますね。では、わたくしが応急処置しましょう。はぁぁ!」


 わたしは身体の中で魔力を練り上げる。


 ……いつか大規模な土木作業をする為に努力したんだもん。


「行きなさい! <(ストーン・)(ウォール)>、いっぱい!!」


 脳内で魔法陣を組み上げ、一気に展開する。

 ドンドンドンと堤防があった場所の水中に、分厚い石の壁がいくつも突き刺さる。


「もう一列! いーっぱい」


 堤防が切れた部分へ横一直線に石壁を召喚したわたし。

 そのまま隙間を埋めるように、もう一列分の石壁を前の壁に密着するように作った。


「スゴイ! 普通の魔力量なら一列も石壁を作れないです」


 破滅を迎える『未来』では、大陸一つを底なし沼に飲み込むわたし。

 今でも、このくらいなら楽勝なのだ。


 ……大体、手持ち魔力の半分くらい使っちゃったかな? 息が切れちゃう。


「はぁはぁ。これでも、わたくし幼い頃から努力してますから。ですが、この壁は魔法で作った一時的な物。永久に存在するようには、わたくしの魔法技術では無理です。一旦流れをせき止めている間に土を盛り直す必要がありますね」


 わたしが作った石壁で、決壊部分から街に流れ込む水量はぐんと減った。

 だが、既に流れ込んだ水は多く、川の水位もすぐには下がりはしない。


「お姉さんがお話していた『土嚢(どのう)』は、もうすぐ到着する筈です。また、避難指示も同時に行っています。お姉さんのアイデアで小舟を使っています」


 『前世(かこ)』にみたテレビ映像。

 大地震による津波、そして豪雨によって発生する浸水、土砂崩れ。

 日本列島は、災害との戦いの場。

 その地で得られた災害対策の知識。

 それを生かすのは今だ!


「では、わたくし達は下流部に参りましょう。川の流れを少しでもスムーズにして水位を下げないとですわ」


「了解です、お姉さん。ファフ、行こう」


<御意>


 わたしたちは、さらに別の場所。

 河川の下流へと向かった。

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