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第10話(累計 第54話) ダム・ガール、意外な人物と再会する。

「センパイ! 本当に高貴な方が簡単に剣を抜こうとするのはどうかと思いますよ?」


 騒然としている現場。

 今にも上級生とダークエルフ美女が切り合いを始めるために剣を抜く寸前。

 人ごみをかき分けながら細身で黒髪の少年が出てきた。


「あ、あの子は!?」


 その少年、目を閉じたまま。

 白い杖でコツコツと床を突きながら、争いの中に踏み込んできた。


 ……もしかして目が見えていない、視覚障がいがある子なの?


「事情を知らぬガキが、何を言う!? 貴族には平民の代わりに戦う義務がある。ゴブリンの様な悪を倒すのが我らの責務だぞ」


「それで、先輩は罪のない少女を殺すのですか? 悪意を持つ存在だと、どんな証拠で判断なされましたか? 思い込みで動いていませんか、先輩?」


 怒りを覚えたのか、小剣を抜き剣先を少年に向ける上級生。

 しかし見えていないからなのか、目を閉じたまま恐怖を一切見せず淡々と説得にかかる少年。


「ゴブリンが邪悪で無かった事など、王国の歴史では今まで無かった。彼らに殺されたり純血を汚された者がどれだけいたと思うのだ!?」


「僕もかつての悲劇は否定しません。襲ってくる者を退治することは悪では無いでしょう。ですが、無害の幼くか弱い女の子にまで剣を向けるのが、先輩の正義ですか?」


 強い殺気を上級生から向けられても目を閉じたまま涼しい顔の少年。

 そんな様子にますます怒りを増し、顔を赤黒くする上級生な侯爵子息。


「何も見えぬガキが偉そうに! オマエは何者だ。名を名乗れ」


「僕はエルメネク子爵家次男、ルキウス・デ・モンテヴィア。御覧の通り、目も見えぬ哀れな新入生でございます。誇りを間違えた先輩さま」


 自ら哀れと言うが、顔をはっきりと上げ堂々と二分の笑みを浮かべつつ、上級生を正論であしらうルキウスくん。

 その佇まいに、わたしは以前彼と何処かで出会った印象を覚えた。


 ……エルメネクっていえば、王国の南西部。ウチとは王国の反対側くらいに離れているから会った事あるはずないんだけどなぁ。


「し、子爵家の次男ごときが、我がカピトリノ侯爵家に逆らうというのか! ゆ、許さん! ゴブリンの小娘なぞ、何時でも処分できる。先にガキを殺す! 我、ミルコ・デ・ジュスティはルキウス・デ・モンテヴィアに決闘を申し込む」


 馬鹿にされたと気が付いたミルコ。

 手に付けていた白い皮手袋を脱ぎ、ルキウスくんに投げつけた。


「決闘ですか? 短気な先輩ですねぇ。当学校の規則に許可なき決闘は禁止とあったはずです。もし、僕と決闘を行うのなら、正式な届け出が承認されてからにしてくださいね。さて、いつまでも姫ぎみを座り込ませているのも悪いですし、間に割り込むはずだったアミータお姉さんにも悪いですね」


 なんと、ルキウスくん。

 見えていないはずのわたしの方へ、二コリと二分では無い本当の笑顔を向けてくれた。


「ふ、ふん! 決闘の時に、命乞いをしても知らんぞ。おい、こんな場所になんていられるか。河岸を変えるぞ!」


「はい、ミルコさま。また『泥かぶり』ですか……」


 ミルコに従い中庭を去る金髪縦ロール碧眼の令嬢。

 わたしの方をフンっと一瞥して去っていく。


 ……前に食堂で論破しちゃった子よね。恨み買っちゃったかなぁ。でも、リナちゃんを助けない選択肢は無いし。しょうがないね。


「あのぉ。何処かでわたくしとお会いしたことがあるんですか、ルキウスさま? わたくしの名前までご存じとは……」


 リナちゃんを助け起こすディネリンドさんの側に行くと、ニコニコ顔のルキウスくんが白杖を使いながら、危なげもなくわたし達の元まで歩いてくる。

 わたしは気になって、名前まで知られている事を尋ねてみた。


 ……このひょうひょうとした感じ。覚えがあるんだけど、何処で会ったのかなぁ?


「そうですねぇ。この姿でお会いしたのは初めてですね。ですが、『ワシの言葉を覚えているかい? 大事なのは、一番怖いタイミングでの踏み込みってな。ダム好きなお嬢さん?』」


 すると、ルキウスくんはいたずらっ子っぽい顔をして、突然なんと日本語を話した。


 ……に、日本語だよね。ワシ? ダム好き? 踏み込みのタイミング?? あ、も、もしかしてぇぇ。で、でも、そんな事がぁぁ!??


「え!!!! ま、まさか道場のお爺ちゃん!?」


「正解。『お前さんが海外派遣先で亡くなったと聞いた時は泣いたぞ。ワシより若いもんが先に逝きおって』、とあの時は思いました。うふふ」


 またまたルキウスくんの口から爺臭い口調の日本語が飛び出す。

 その違和感が変なのだが、今のひょうひょうとした印象にあっているのが逆におかしくもある。


「え? え? な、何がどうして??」


「詳しい話は、また後日に。リナ姫さまや従者のお姉さんが困惑してますよね。では、良き再会に感謝して、また」


 呆然とするわたしを放置し、ルキウスくんは、笑みを浮かべたままコツコツと白杖を叩きながら去っていった。


「アミちゃん姫さま。あの男の子、何か他所の言葉をお話されていましたよね。そこに『ダム』ってアミちゃんがいつもお話している言葉がありました。もしや?」


「えっと……、ヨハナちゃん。わたくしも混乱気味だから、また後で詳しく説明しますわ。はぁぁ、一体何がどうなったの??」


「アミ―タさま? 今、ワタクシを庇ってくださった男性、ご存じなのですか?」


「え、ええ。多分」


 わたしは混乱する頭を抱えたまま、更に混乱しているリナちゃんを介抱した。

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