第3話(累計 第47話) ダム・ガール、研究バカ仲間と盛り上がる。
「はぁぁあ。死ぬかと思いましたぁ。ワタシ、バリア魔法を覚えておいて良かったですぅ」
「バリアは良いとして。今度から、きちんと部屋を片付けしておきましょうね。ジュリちゃん」
研究室が爆発した後。
わたしは、ドゥーナちゃんに手伝って貰い、ジュリエッタちゃんを現場から助け出した。
そして、今は学校から借りた歓談室で授業が終わった仲間たちとジュリちゃんに手当をしている。
……なお、研究室は学校の調査部が捜査中。爆発の原因調査をしているの。一応、出資責任からわたしからは事情説明はしているんだけどね。
「アミっちに頼まれて作った『雷汞』。上手くできたから大事に仕舞っておいたんだけど、慌てていた時に床に落としちゃって……」
「銃などの雷管に使える薬ですが、衝撃とかで簡単に爆発しちゃうんですよ、アレは。作るときに危険って注意しましたよね、ジュリちゃん?」
……うろ覚えだったんだけど、水銀とアルコール、硝酸で雷管に使える化合物が出来るって覚えてたのをジュリちゃんに教えたの。それが実際に合成できたのは凄いよね。
化学合成は、専門外のわたし。
魔族国家との来るべき戦いに、必要な火薬系を開発すべく友人であるジュリエッタに依頼をした。
そして、「雷汞」の開発に成功したという連絡は、新学期前に受けていた。
……最終的には窒素固定。窒素からのアンモニア合成をしてもらうつもりなの。確か、『前世』でいうところの、ハーバー・ボッシュ法。窒素と水素を鉄系触媒下で高温・高圧にしたら出来るとは覚えているわ。
「ごめんねぇ、アミっち。ワタシ、ついつい、片付けが面倒で……」
「それでも危なすぎますよ、ジュリエッタさま。側仕えの方はいらっしゃら無いんですか? もし良かったらアタシ、片付けお手伝いしましょうか?」
「それは助かるわ、ヨハナさん。ウチの実家は法衣貴族、かつブルジョアじゃないからワタシ専属の側仕えなんて雇えないんだ」
着ていた白衣もボロボロ。
栗色の髪の毛も、すっかりボサボサになっている上に、高価な近視用眼鏡もひびが入っているジュリちゃん。
今は、エリーザの授業も終わったので、ヨハナちゃんに身づくろいと手当をしてもらっっている。
……ジュリちゃん、わたしより少し小柄な眼鏡っこ。可愛いのにあんまりオシャレには拘らないのは、かなり勿体ないのよね。お胸もわたしより大分大きいし……。
わたしは、ついジュリちゃんの白衣を押し上げている豊かな胸部に視線を向け、己の残念な「平原」と見比べてしまう。
「アミっち、何処見てるの?」
「あ、おほん。き、気にしないでね、ジュリちゃん。……そうだ! 今後の事を考えれば狭い試験室で爆発物の合成をお願いするのは危険だわ。ティオさま。わたくし、お願いがあるんですけど?」
わたしの視線に気が付いたらしいジュリちゃん。
その追及を避ける為に、わたしは話題変更をする。
「アミお姉さんの言いたいことは理解しています。『化学肥料』とかも作れるのなら、今後の領内。いや、王国内の人々の為になります。ぜひ、ジュリエッタさまの研究にご協力致しますね。研究施設とかを公爵領内に作ればいいんでしょうか?」
察しが良いティオさま。
わたしの思いを汲んでくれ、早速ジュリちゃんに援助をしてくれる事になった。
「公爵閣下!? ワ、ワタシに出資して下さるんですかぁ! たかが法衣貴族のワタシに!? それも研究施設までなんて!!」
すっかりびっくり顔のジュリちゃん。
「落ち着いて、ジュリちゃん。ティオさまなら、そう言って下さると思いました。では、公爵領に研究施設を作りましょう。そこでは金属関係や土木関係も研究して欲しいです。ドゥーナちゃんも一緒に研究しましょう!」
「それは随分と楽しそうですが、アタイらの身体が持つかなぁ。屈強なドワーフ族も倒れちゃうスケジューリングを容赦なく組ますからねぇ、アミ姫さまは……」
わたしは嬉しさで舞い上がってしまう。
最近遅れがちな領地改革に軍事増強。
化学系のジュリちゃんが加わって、そこに土木コンクリートのわたし、金属系のドゥ―ナちゃんとなれば、姦し娘トリオは無敵になる。
一気に技術革新の針を、百年はすっ飛ばせるだろう。
……ドゥーナちゃんの呟き、今は聴かなかった事にするの。でも、今後はスケジューリングの調整も必要ね。毎回、技術者を使い潰してたら、勿体ないの。
「一番落ち着いていないのはアミちゃん姫さまだと思いますが、どうでしょう。エリーザ姫さま?」
「間違いなくそうですわ、ヨハナ。これはわたしがちゃんと、お姉ちゃんの手綱を握らないと大変な事になるの」
「もう! ヨハナちゃんもエリーザも酷いのぉ。わたくしだって、少しは反省しますわよ、おほほ。まずは、研究棟の破壊された研究室の修繕ね。ヨハナちゃん、ドゥーナちゃん、やっておしまい!」
「あら、さっさー……、ってこういう時に言うんでしたっけ。アミちゃん姫さま?」
「え、え!? 一体、どういうことなのぉ?? また、お貴族ギャグなの??」
わたしのギャグ宣言で動き出すヨハナちゃん。
疑問を浮かべて動けないドゥーナちゃんだった。
「ファフ。このまま、アミお姉さんを暴走させていて大丈夫なんだろうか?」
「正直なところ、先が読めない分。怖いと思いますが、まあ姫さまに悪意が無いので、なんとか……なるといいですねぇ」
わたしが盛り上がる中、ティオさま、ファフさんのコンビがわたしの動向でため息をつくのは、少々気になった。
……ぷんぷんだー! ぜーったいに、ティオさまをぎゃふんって言わせる技術革新をしてやるの。ダムをもう一度作るまで、私は止まんないよー」




