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第4話:ダム・ガール、少年公爵と友達になる。

「イグナティオさまは全然悪くないです!!」


 わたしの大声で演奏が止まり、舞踏会の参加者や王らの視線がわたしに向かった。


 ……あ、あちゃー。また、やってしまったの。どうしよう。


「ご、ごめんなさい。み、皆さまのお邪魔をしてしまい……」


 わたしは思わず頭を下げ、ペコペコと謝ってしまった。


 ……しまったぁ。この世界で頭を下げて謝罪するしぐさなんてメジャーじゃないのにぃ。こと、貴族が頭を下げるなんて普通やらないよぉ。


 パニック状態のわたし、どんどんミスを重ねてしまう。


「アミータ。貴方って子は、どうして残念なのぉ……」

「お姉さまが大変な事に……。一体、どうしたら」


 継母から叱責の声が飛ぶが、その顔は真っ青。

 エリーザも気が気ではない様子だ。


 ……陛下の御前、更には王弟君(おうていぎみ)の近くで大声出しちゃったんだもんね。せっかくの舞踏会を台無しにしちゃったの。


「皆さま。ボクの連れが大声を出してしまい申し訳ない。変人どうし話がもりあがってしまったんですよ。ですので、ご勘弁を。陛下、誠に申し訳ない」


 だが、イグナティオさまは、わたしの無礼を庇ってくれた。

 そして自分は一切悪くないのに、兄である王陛下にまで頭を下げたのだ。


「よい。全て許す。お前に良き『友』が出来たのなら、私も兄としてひと安心だ、イグナティオ。あ、すまない、今はヴォルヴィリア卿であったな」


 なんと王陛下。

 わたしに対しにっこり笑みを浮かべ、わたしの無礼を許してくれた。


 ……陛下、ワザとイグナティオさまを弟と呼んで、王家の兄弟間の話にしてしまったんだ。それなら普通の貴族なら口出しも出来ないし。


「御意、陛下。ありがたきお言葉でございます」

「あ、ありがとう存じます、陛下」


 イグナティオさま、膝をつき兄王に対し、臣下の証を示す。

 わたしも急いで腰を下ろし、イグナティオさまの横でカテーシーをした。


「うむ。ヴォルヴィリア卿、後で話がある。詳しく聞かせよ。さて、皆の衆。舞踏会の続きをしようぞ!」


 陛下の粋な計らいで、わたしのミスを助けてもらった。

 本来、伯爵令嬢如きを切り捨てても問題がないのだが、実に解せない。


 ……どうして助けてくれたのかな、陛下?


「ごめんね、お姉さんに迷惑かけちゃった」


「いえ、イグナティオさま。大声を出してしまったわたくしが全部悪いのです」


 視界の端で、泡を吹いて倒れそうな継母、そして何故か頬を染める妹がいた。


 ……陛下、まだお若くて独身。かっこよくて実に美形だものね。


「ボクね、嬉しかったんだ。お姉さんがボクは悪くないって叫んでくれたのが。実はね、お兄ちゃん。陛下もボクに言うんだ。お前は全然悪くない。王家の厄介事は全部俺が被るから、お前は自分の幸せを見つけなさいって」


「それで、陛下はわたくしを助けてくだされたのですね」


 わたしを見た陛下の眼、それはイグナティオさまとそっくりで優しい瞳だった。


「お兄ちゃんったら、お姉さんの事をボクの友達だなんて凄い事を言うよ。男と女の間に友情なんて難しいのに。でも、良かったら友達になって欲しいな、お姉さん」


「イグナティオさま、もしわたくしで宜しければお友達になりますよ? というか、わたくし如きが女友達で良いんでしょうか? 『泥かぶり』姫って貴族界隈じゃ評判悪いんですけれど?」


 わたしは頬がとても熱いのを感じながら、イグナティオさまに尋ねる。

 地味なダム女のわたしが、超絶美少年王子さまの友達で良いのかと。


 ……こんな美少年がわたしの友達になってくれるだなんて、夢みたい! そりゃ、身分差に年齢の差があって結婚は無理だろうけれど。


「うん、喜んで。お姉さんが一緒なら、楽しい事がいっぱい起きそうだもん。それにね、ボクの領地を改革するのにお姉さんの知識が欲しいんだ。国境の荒れ地を貰ったんだけど、色々困っていたんだよ」


「わたくし如きで良ければ、力を貸します。というか、貸させてください。うわぁぁ、夢の領地改造計画! これで『ダム』建築も夢じゃないのぉ!」


 わたしは、すっかり舞い上がってしまう。

 わたしの土木知識で、イグナティオさまの領地を改革してほしいと頼まれたから。


「その『ダム』とか、母の死にボクは関係ないとか、どうしてお姉さんは知っていたり、分かったりするの? 貴族学校の先生も知らない事だと思うんだけど?」


「あ、そ、そうですね。話せば長い事になりますし、信じてもらえないかも……」


 わたしはイグナティオさまの好奇心いっぱいの緑な瞳を受けて、黙ってしまう。

 今のところ、私は奇行が目立つ只の変な姫で済んでいる。

 だが、『前世(まえの)』記憶だの、『未来(このさき)』の運命を話してしまえば、気狂い扱いをされ、良くて座敷牢で一生飼い殺し。

 最悪は、魔女扱いをされて火炙りとかになりかねない。


 ……この国の宗教は、輪廻転生の概念がないからなぁ。こと、貴族は神から与えられた魔法を使う関係で信心深いから、不味い事になりかねないわ。


「……なるほど。情報は高く売り込みたいんだね。女性の秘密を暴くのは失礼な事。ボクにとれば、有用な情報を貰えて楽しくお話出来るなら、情報の出どころなんて気にしないよ」


「ご、ごめんなさい。イグナティオさま。貴方が信用ならないとかいう話じゃないのです。友達に隠し事は……」


 イグナティオさまが悲し気な顔をして、わたしの秘密を探らないように話すのを見て、わたしは涙をこぼす。

 こんな幼い子が一生懸命、国や民。

 そしてわたしのような友人まで守ろうとする心意気に感動したのだ。


 ……うん、話そう。イグナティオさまなら絶対に大丈夫。


「無理はしなくていいよ。ボクらは友達なんだからね」

「いえ、お話します。実は……」


 わたしが一世一代の勇気を集めて話し出した時。


「陛下、緊急事態でございます! 舞踏会のさなか、申し訳ありません」


 騎士団の偉い方らしき、金属鎧にいっぱい彫刻(エングレーヴィング)をしたオジサンが、大声を上げて、舞踏会会場のドアをばたんと開いた。


「一体何が起こった、騎士団長? 簡潔に報告せよ」


「御意。せんだって王都内を流れる河川が急激に増水。一部堤防が決壊をしました。既に王都内で浸水が発生しています」


 ……え! 堤防決壊!? はやく何とかしなきゃ!!

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