第31話:ダム・ガール、作戦を立案する!!
「で、ここまで情報を纏めているのなら、アミお姉さんには策があるんだよね?」
「いくつかはありますが、順番に公開します」
わたしが伯爵領奪還を告げると、ティオさまは既に策があるのだろうと尋ねてくる。
その信用に、わたしは自信をもって答えた。
……今回は、いつもの考え無しの暴走じゃないもん。
「伯爵領を奪還するのは、敵の首魁を討つ必要があります。この場合はお義母さま、マリーア・デ・アヴェーナ。そして彼女を唆して魔神召喚をさせています魔神官です」
わたしは、作戦の目標。
敵集団の首魁を討つ事を告げる。
「お母さまぁ……」
「といっても、お義母さまの命までは取りたくありません。罪は全部、魔神官におっ被せてしまうつもりですわ」
わたしの横に座り、泣きそうになる妹の頭をわたしはそっと撫でる。
そして、義母を救いたいと皆に告げた。
「……お姉さんなら、そうお考えだと思っていました。幸いにも、ヴァデリア伯爵家の正当なる継承者はアミお姉さん。お姉さんが女伯爵となれば、後はどうとでも出来る事でしょう。ボクは最大限協力しますね」
「お、お姉ちゃん!?」
「ティオさま、宜しくお願い致します。エリーザ、昔の呼び方になっちゃったね。でも、可愛くて良いよ。わたし、貴女も貴女の母親も救って見せるわ。だって、そうじゃないと、わたくし気楽にダム建設できないんですもん!」
わたしは妹の涙を拭うべく「お題目」を上げたのだが、恥ずかしくなって屁理屈をこねた。
……そりゃ、平和にならなきゃダム建設なんて出来ないんだけどね。だから、嘘じゃないもん!
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ね、アミ姫さまに任せておけば、なんとかなるってお話した通りですよね、エリーザ姫さま。えっへん!」
「なんとまあ、ウチの姫さんはワガママで欲深くて情に深く豪気だねぇ」
「で、無茶を言われますアタイらは泣くんですけどね」
なんか、周囲。
こと、ドワーフ族親子から酷い事を言われている気がしないでもないが、今は無視しよう。
「おっほん。では、作戦ですが少数精鋭による拠点への強襲作戦で参ります。と、言いますのも、公爵領から大部隊で伯爵領へ攻め入るのは悪手ですから。ティオさまなら、御理解できますわよね」
「公爵領は北から攻めてくる魔族国家への睨みを効かせています。そこの軍隊が留守になれば……。ということですね、お姉さん」
「はい、わたくしはそう思っています。先日のティオさま暗殺未遂事件の敵兵が、どのルートを通って侵入してきたかも不明ですし。おそらく、今回の事件の背後にも魔族国家が暗躍しているかと」
守るべき土地と民が居るティオさまに、無理は言えない。
伯爵領を取り返しても公爵領が魔族の手に落ちれば、意味がない。
「そうなんですか、お姉ちゃん? 敵がそんな事を考えているなんて」
「エリーザ。この公爵領が魔族に占領されたらどうなると思いますか? おそらく、伯爵領の件は陽動牽制。本命は、公爵領です」
まだエリーザがピンと来ていないので、わたしはヒントを加えて尋ねてみる。
「ここが本命……。あ! 北山脈のこちらがわに魔族が拠点を作れるのですか!? そうなれば、王国は大変な事になりますわ」
「アミータ姫さんは、すげぇなぁ。技術だけでなく戦い方も御存じとはぁ」
「だから、いつもアタイらに妙な武器を作らせるんですねぇ」
「アミちゃん姫さまは、なんでも凄いんです!」
……なんか、外野が今日もうるさい気がするけど、まあ良いの。
「そういう訳で、絶対に公爵領の戦力をあまり減らす訳にはまいりません。もちろん、王家に討伐依頼をするのも論外。お義母さまは間違いなく殺され、伯爵家は改易、お取り潰し。伯爵領は王家直轄の天領になるでしょう」
「それは、ボクも望まない結末だね。だから、まだ兄さま。陛下には正確な報告をしていないんだ。伯爵領の偵察は、別にお願いしているけれど」
「私も、そろそろ上空から偵察に行く予定でした」
ティオさま、王様にまだ状況を話してくれていないのは、とてもありがたい。
こちらで作戦を決めて、わたしとエリーザが義母を倒すという「伯爵家内の問題」にしてからで知らせてもらえれば、なんとかなるかもしれない。
……ファフさんの航空偵察はありがたいよね。おそらく、今回は対空高射砲なんで持ち込んでいないから、航空優位は間違いないし。
「後は、兵器開発です。兵の数が少ない以上、圧倒的に優位になる武器運用で勝利しなくてはなりませんですもの。ドゥーナちゃん、お願いしていたリボルバー拳銃の開発はどうなっていますか?」
「既に試射も終え、初期ロット分の三十丁は使用可能です。小銃型も、小数なら数日後には形になりそうです」
わたしは、魔族国家の開発した鋳鉄製ライフルド・マスケット・キャノンから敵が高度な技術を擁している事に気が付いた。
なら、こちらは更に上の技術で対抗すればよい。
……幸い、倒すべき敵は手加減の要らない魔神だしね。
「それは何より。出立日までに少しでも多く銃器と弾丸、火薬の量産をお願い致します。あと、お話していた小銃用の銃剣もお願いしますね」
「御意、アミ姫さま」
ドゥーナちゃん、真面目にしてくれるのが実に頼もしい。
これで武器の心配は無くなった。
……さて、次は。趣味だしちゃうよー。
「親方。お願いしていました魔導モーター駆動の荷馬車は、どうなってますか?」
「試作型は既に運用をしてますぜ、姫さん。二号機以降も量産に入ってるぞ」
「なら、それを兵や武具の運搬に使います。少しでも多くの製造をお願いします。後は……。ティオさま。ゴーレムのパワーアップ計画はどうなってますか?」
機械化歩兵の運用。
これは、二十世紀の軍隊の手法。
いかな魔族国家でも真似は出来ないだろう。
……戦記物を読んでいたのが、役に立つなんてね。
「関節部に『ベアリング』や『グリス』とかいうものを使うんだったよね。お抱えの魔術師が驚いていたよ。アイアンゴーレムの動きは倍以上早くなっていたからね」
「では、一台。わたくしにお貸し願えないでしょうか? 親方、魔導荷馬車の思考制御型運転システムをゴーレムにくっつけられないかしら? ドゥーナちゃん、鹵獲した大砲をゴーレム手持ちに改造出来ないかしら?」
……こうなったら、手加減なんてしてやらないの!
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