第30話:ダム・ガール、名案を探す!
「ふぁぁ、良く寝たのぉ。おはよー、ヨハナちゃん。ん、あれ?」
昇った朝日が、わたしの顔を照らす。
寝酒したにもかかわらず、快適な朝を迎えたわたし。
横に寝ていたはずのヨハナちゃんを探すが、そこにはいない。
……サイドテーブル上にあった酒瓶も仕舞われているし、グラスも洗っているわ。
「おはようございます、アミちゃん姫さま」
「え、もう起きてたの?」
「はい。側仕え、メイドたるもの。主より後に起きだすことはありません。既に、まかないも食べておりますので、姫さまの朝の支度も全て対応させていただきます」
既にメイド服に着替えており、部屋のカーテンを開けているヨハナちゃん。
ドヤ顔で、自分がメイドとして立派なのを自慢する。
「あまり寝ていないんじゃないの、ヨハナちゃん?」
「いえいえ。昨日は姫さまと一緒に就寝した分、睡眠不足はございません。いつもは、姫さまが寝て以降に残り湯をもらって入浴後、翌日の準備をして寝ますので。えっへん!」
……うん、自慢するだけのことはあるの。
「わたくしに勿体ない忠臣なメイドですわ、ヨハナ。わたくし、貴方のような優秀な配下を持てて幸せですの、おほほ」
「教悦至極にございます、姫さま。さて、さて。遊んでいないで急いで着替えましょう。朝食の準備も出来ておりますし、今日は決め事も多いですよね?」
わたしが、ギャグ気味に褒めると、優雅にカテーシーを返してくれるヨハナちゃん。
実にノリの良い事で、わたしの曇った気分を晴れやかにしてくれる。
「はい、参りましょう。わたくしたちの戦場へ!」
夜着を着替えさせてもらったわたし。
気分を切り替えて、自室を出た。
◆ ◇ ◆ ◇
「エリーザ、少しは眠れましたか?」
「アミお姉さま、おはようございます。久しぶりにベットで眠れました。また、わざわざヨハナを付けて頂き、ありがとう存じました。衣装も助かります」
食堂に入り、妹。
エリーザの顔を見ると、昨日よりは顔色が良くなっている。
ボロボロだった髪や肌も改善されていて、貴族令嬢らしくみえるようになっていた。
……衣装は、わたくしの手持ちの中で着れそうなのを貸したの。三歳年下だけれども、エリーザの体格はわたしとあまり変わらないわ。そう、バストサイズもわたしより……。
「それなら良かったですわ。ティオさま、食事後にお話したいことがありますの。今後の話を含みますので、親方さんやドゥーナちゃんを呼んで頂けますか? ファフさんとヨハナ、エリーザと共に秘密会談をしたいんです」
「……分かりました。では、部屋を準備しますね。さあ、ご飯は楽しく食べましょう」
少しでも楽しくしようと、ティオさまは話題をエリーザに振っていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「あのぉぉ。アタイまで呼ばれて大丈夫なんですかぁ?」
「それを言うなら俺もだぞ。姫さまに呼ばれたはいいが、何を話したらいいのか……」
狭めの会議室に全員入り、遮音結界が魔道具によって起動される。
これで、会談内容は他の人には漏れない。
「すいません。親方、ドゥーナちゃん。今回は、戦争準備もあって技術的に何処まで可能なのか、お二人に聞くことが多いので無理を言いました。それに、親方さんとドゥーナちゃんは、わたくしの『前世』事情を既にご存じですし」
「? お姉さまの前事情とは?」
無理を言った二人に謝るわたし。
その際に『前世』の話をしたので、妹がびっくりした。
……親方やドゥーナちゃんには技術の出どころを聞かれて、内密にする代わりに手加減なしに情報開示するという約束で、『前世』の事を話したの。
「実は……<かくかく・しかじか>で」
わたしは圧縮説明魔法「かくかく・しかじか」を使う。
……本当に、こんな魔法があるのが面白いのよね。お互いに良く知り合う仲間内にしか使えない思考伝達魔法なの。
「え!? じゃあ、お姉さまが奇行を繰り返していたのは……」
「『前世』からの衝動に突き動かされていたのは確かですわ。」
……エリーザからみて、わたしは奇行種だったのね。ぐすん。そりゃ、貴族令嬢らしからぬ行動ばかりしていた気はするけど。
「とりあえず、本題に入りたいと思います。まずは、現状判断から。お配りする資料をご覧ください」
わたしは、ヨハナちゃんに合図して植物紙に印刷した資料を配る。
……なんとか、ガリ板印刷までは実用化できたの。活版印刷までは、まだ時間がかかるけど、これで情報の共有化に使えるわ。
「いつのまに、こんなに情報をまとめたのかな、お姉さん?」
「うふふ。乙女には色々秘密がありますのよ。ヨハナちゃんが頑張ってくれました」
「えっへんですぅ」
印刷をしてくれたヨハナちゃんは、毎度のドヤ顔だ。
「ヴァデリア伯爵領ですが現在、主要な街道筋は封鎖されてる。これは確かですよね、ティオさま?」
「ええ。ボクが集めた情報でも、その通り。伯爵領内にいる『草』からの情報も、ここ数週間止まったままだよ」
妹、そして伯爵領から逃げてきた巡礼者、商人。
彼らから聞いた話では、街道の領境には関所が設置されており、領主発行の許可書が無いものの出入りは禁止されている。
巡礼者が多数逃げてこられたのは、神殿から以前巡礼用の許可書の発行が多数なされており、それがまだ有効だったかららしい。
……エリーザは、巡礼者なら出られるという話を配下に聞いて、彼らに紛れて脱出したそうなの。
「そして、伯爵領内では神殿は閉鎖。今は魔神教徒どもの巣窟となりはて、孤児院の子らを生贄に魔神を召喚しているとの事。もはや時間の猶予はありません。近日中に事態を抑え、伯爵領を魔神の手から奪還しなければならないのです」
わたしの宣言に、全員が固唾を呑む。
今回の戦いは時間との勝負。
一気に決めなければならないからだ。




