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第3話:ダム・ガール、美少年公爵と談笑する。

「何故、わたくしのような地味で可愛げもない女に声を掛けたのでしょうか? 殿下ともあれば、他にも見目麗しい女性を同伴出来ましたのに」


「だから、ボクはもう王族じゃないよ。兄が王になってボクは臣下になった。かつて王家直轄地だった辺境を領地にもらって公爵になったんだ。だから、せめて閣下。もし、お姉さんが良いなら名前で呼んで欲しいなぁ」


 雨が窓ガラスを激しく叩く夜。

 白磁の大理石作りな城内の大宴会場。

 多くのシャンデリアからの魔法灯りの中。

 優雅な音楽が楽団により演奏されており、沢山の男女が楽し気にダンスを踊る。


 ……お義母さまの視線が痛いなぁ。エリーザは心配そうに見てくれているんだけど。


 わたしは、視線を遠くにいる継母から近くの美少年に移す。


「え、えっとぉ、閣下。お答えになっていないのですが?」


「お姉さんの事を教えてくれたら話すね。だから、名前で呼んでよぉ」


 休憩用の椅子に並んで座るわたしと超絶美少年。

 わたしより身長が二十センチ程は小さな体。

 とっても華奢で可愛いプラチナブロンドの男の子が、上目遣いてわたしをじっとエメラルドグリーンの瞳で見てくる。


 ……う! この王子様、可愛すぎない!? どーして、わたしみたいに地味な子に王族、それもこんな超絶美少年が懐いてきちゃうの~??


「わ、分かりました。イグナティオさま。そういえば、失礼ながら名乗っていませんでしたね、わたくしはヴァデリア伯爵アヴェーナ家の長女、アミータでございます」


「巷で有名な『泥かぶり姫』さまですね、アミータお姉さん。お噂は、かねがねお聞きしていますよ。実に愉快で慈愛深い女性ですって」


 わたしが椅子から立ち上がり、カテーシーをしながら自己紹介をすると、にこりと笑う美少年。

 彼の口からわたしの「異名」が出てくることに、わたしは驚いた。


「ど、どうしてわたくしの事をご存じなのですか、イグナティオさま? たかが伯爵令嬢。それも悪名までをご存じだなんて……」


「驚いていないで、横に座ろうよ。アミータお姉さん。ボクはね、お姉さんにずっと注目していたんだ。ボクよりも小さい頃に領地の洪水から沢山の領民を救ったんだって」


 わたしは、促されてイグナティオさまの横に座る。

 しかし、幼少期の武勇伝が知られていたのは少々恥ずかしい。

 背後に立つヨハナはわたしに助けられたことを思い出したのかドヤ顔なのだが、あの時は緊急事態だから勝手に動いたまで。

 本来なら、上手く父を説得してから災害救助を行うべきだった。


 ……といっても、今でも上手くお父さまを説得できるか自信は無いけれど。


「お、お恥ずかしい話です。幼子が勝手に事故現場に飛び出して、危険を冒してしまった訳で」


「だが、それで救われた人々が多くいたのも事実。背後のメイド女史もその一人の様ですね」


 ……ヨハナちゃんの素性まで知っているなんて、どういうことなの!?


 わたしは目の前の美少年が、急に怖くなる。

 あまりに、わたし個人の事に詳しすぎる。


 彼自身は背後に控えし、側仕えらしき執事服の黒ずくめの青年から飲み物を貰い、緑の眼でわたしを笑みを浮かべながらじっと見てくる。


「あ、このジュースは美味しいです。ファフ、お姉さんにも同じ物を」

「御意、閣下」


「イグナティオさま。先程、わたくしにお声を掛けてくださったのは偶然なのでしょうか? お話からすれば、とてもそんな風には思えないのですが……」


 わたしはヨハナ経由で飲み物を貰うが、口に付ける気になれない。

 元とはいえ、王族がわたしに眼を付けている。

 あまりに異常な事態としか考えられない。


 ……まさか、わたしに『未来』と『前世(かこ)』の記憶がある事まで知らないよね。ヨハナちゃんにだって、ぼんやりとしか話していないんだもの。どうして……。怖いよぉ。


「あ、怖がらせてしまってごめんなさい、アミータお姉さん。いえ、アミータ嬢。先ほど、お声がけしたのは本当に偶然です。ボクが以前に個人的にお姉さんに興味をもって調べただけで、貴方を害する気は一切ありません。それどころか、貴方に対し好意や興味があります」


 恐怖でガタガタ震えていたわたしの手を、そっと優しく握ってくれたイグナティオさま。

 その小さな手は、とても柔らかく暖かい。

 その暖かさを感じたのか手足の震えは止まり、わたしの心臓がドキンとひとつ大きく鼓動をした。


「好意!? えっと、わたくし。その、縁談とかは考えていませんし。第一、イグナティオさまとわたくしでは身分が大きく違い過ぎます!!」


 好意という言葉で舞い上がり、急いで否定してしまうわたし。

 前世で酷い失恋をして以降は恋愛に否定的な上に、何故か超絶美少年の歳下王子様から好意を向けられれば、パニックにもなる。


「ふははは! 安心して、お姉さん。まだボクは十二歳。婚約にしても早いですし、それよりは兄、いえ王から頂いた領地の開発が忙しくて大変なんです」


 イグナティオさまは、一瞬視線を遠くに向ける。

 わたしも彼の視線の先を見ると、そこにはこれまた美青年な若き王が多くの上級貴族に囲まれていた。


 ……あれ? どうしてイグナティオさまの周囲にわたし以外の人いがいないの? 王位継承権が無くなったとはいえ、文字通りの王子様。玉の輿、公爵婦人になれるチャンスだよ??


「お姉さんは賢くて凄いね。お姉さんが疑問に思うようにボクの周囲に人がいないのはね、ボクが『忌子(いみご)』だからなんだ」


 ……わたしって、考えている事が表情に出ちゃうの? 王子様に全部見抜かれちゃう!


「それはどうして……。あ!」


 わたしは王家の噂を思い出す。

 それまで幸せいっぱいだった王家。

 だがイグナティオさまが生まれて以降、不幸が立て続けて起きてしまった事を。


「ボクが生まれるまでは、父。先の王と母、兄で幸せな家族だったんだ。だけど、ボクを懐妊してから母の体調はどんどん悪くなり、ボクを生んですぐに母は亡くなった。その後、父も母を亡くしてからは心労が祟り、寝込んだんだよ。後は……お姉さんの知っている通りだよ。幸せだった王家を壊したのはボクなんだ」


 自虐気味に呟くイグナティオさま。

 その悲し気な表情に、わたしは黙っているのが我慢できなくなった。


「そ、それは違うと思います! イグナティオさまは全然悪くないです!!」


 思わず立ち上がって叫んでしまったわたしの声が舞踏会の会場内に大きく響いてしまった。

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