第21話:ダム・ガール、ようやく公爵さまと対面でお話をする。
「アミお姉さん、やっとボクの顔を見ながら話してくれるようになりましたね」
「三日たてば美人も見飽きる……とは、誰かがおっしゃられてますから……、きゃ!」
ティオさまが病床から起き上がって数日が経過。
毎日、顔を合わす様になって、わたしはなんとか顔を見ながら会話を出来るようにはなってきた。
今日は大事な話があるので、二人同士の会談に持ち込んだ。
……もちろん、ファフさんとヨハナちゃんも同席ね。
「い、いきなり顔を近づけるのは禁じ手ですわ! は、恥ずかしいですのぉぉ」
しかし、油断していたらティオさま。
顔を息が届くくらいの距離まで近づけてくるから、恥ずかしくてたまらない。
「ふふふ。恥ずかしがるお姉さんも可愛いです。あ、物を投げるのはダメですよ」
「だってぇぇぇ。真面目にお話出来ないじゃないですかぁ」
わたしは、クッションを思わずティオさまに投げつけてしまう。
せっかく真面目に話をしようと思っているのに、ふざけてくるのには困ってしまう。
……可愛い顔を近づけてきちゃったら、唇に視線を向けてしまうもん。
超絶美少年の桜色な唇。
あの唇にわたしはキスをしたのだ。
「前世」では悲しい恋があり、それ以降は恋なんてしないと思っていたわたし。
しかし、何故か超絶美少年公爵さまと御縁が発生して、このような状況になってしまったのは、今考えても理解不能。
現実を見る事を止めていた義母が「どうして」と叫ぶのは置いておいて、父や妹も訳が分からない状況が今。
「そーなのかぁ。ボク、表情がくるくる変わるアミお姉さんの顔を見ているのが楽しいんだけど。何処の貴族令嬢も冷たい微笑を崩さないから、面白くないんだ。その点、お姉さんはいつ見ても変で面白いね」
「そ、それ、褒めていないですよね、ティオさま。貴族たるもの、表情に感情が出てはダメだと教育を受けるものですし」
貴族の言葉は、平民にとっては絶対。
その一言で多くの人や資産が動く。
また貴族同士でも、お互いの言葉にて大変な事になる。
まだ幼い令嬢の言葉や行動が家全体の言葉や行動となり、最悪は家自体を崩壊させかねない。
なので足を取られない「二分の微笑」が貴族の基本。
……そういう意味では、わたしはアウトな令嬢なの。お作法や所作も理解はしているんだけど、衝動が止まらないわ。
「まあ、普通はそうなんだけどね。こと、元王家なボクの立場を考えれば、うかつに発言できないのは理解はしているけど、少々寂しいのも事実。でもね、そんな中でアミお姉さんは全く違ったんだ。そこにボクは魅かれたよ」
「こ、殺し文句を言わないでくださいませぇぇ。お、お話が出来なくなりますのぉぉ」
間近に顔をくっつけてくる幼い超絶美少年が殺し文句を宣う。
そんな現状に、わたしの脳みそはパンク寸前になった。
「そんな事を言う唇はこーだ」
「きゃぁぁぁ!」
わたしの唇に自分の人差し指をあて、メって顔をするティオさま。
わたしの脳は処理限界を超えて、気絶をしてしまった。
◆ ◇ ◆ ◇
「はぁはぁ。ティオさま、ご自分の魅力を御理解したうえで行動なさってくださいませ。わたくし、気絶してしまいましたわ。ヨハナちゃんまで余波で気絶しているんですもの」
「アミ姫さま、イグナティオさま。実に熱いイチャコラ、ありがとう存じますぅぅ」
「ティオ坊ちゃま、良かったですね。私も早く世継ぎの誕生をみたいものです」
気絶から復帰したわたし。
なんとか息を整えて、ティオさまへ文句を言う。
危険球な行動を連打されてしまっては、身も心も保たないからだ。
……ヨハナちゃんったら、器用にも鼻血出しながら気絶するんだもん。ファフさんに介抱されて、血もメイド服に付かなくて良かったわ。しかし、ファフさんも、変な事言わないでほしいのぉぉ。
「皆、ボクらで遊ばないでほしいなぁ。まあ、ボクもお姉さんとキスしたのは軽率だったと思うから、今回は良しとするけどね」
「はぁ。では、本題に入りたいと思います。今回、関係者のみの話に致しましたのは、ティオさまとわたくしが魔族軍に襲われた事件の事です。あれは明らかに計画的犯行。軍事作戦だったと、わたくしは思うのです」
ようやくわたしは、今回の議題を提示する。
魔族遠征軍による公爵暗殺未遂事件。
一つ間違えば、魔族国家との戦争に突入しかねない案件。
……幸い、陛下とティオさまは正式に抗議文を魔族側へ送ったりはしたものの、攻め入る事はしなかったの。『前世』でも王族の暗殺から始まった第一次世界大戦とかあった訳だし。
「アミお姉さん『も』そう思うんだね。では、お姉さんが推理した理由を教えてくれないかな?」
「はい、ティオさま」
……やっぱりティオさまは賢いの。計画的犯行なのを理解したうえで、うかつに宣戦布告をしないんだもん。
わたしは、想像通りにティオさまが賢くて安心した。
「まず計画的犯行であることに気が付いたのは、飛行経路を予測しての待ち伏せ、かつ対空用の時限信管付き砲弾まで使用した敵軍の構成です」
「お姉さん、敵の武器が何だったのか分かったの? ボクは避けるのに必死で、見えてなかったよ」
「それは私も同じです。爆発する鉄の弾など、初めて体験しました」
わたしの説明に驚くティオさまとファフさん。
必死に回避行動をしてい二人が気が付くのが難しいのは理解するし、「前世」知識があるわたしだからこそ分かる事もある。
「『前世』で戦記ものをいくつか見た事がありまして、大砲について分かりましたの。あれは鋳造された金属製の大砲で、おそらく導線付の榴弾。爆発して破片を周囲に撒きちらす弾を撃ち出していました」
「そんな高度な兵器を魔族が開発していただなんて。大砲は、まだ王国でもそんなに進歩していないんだけれど」
「魔法がある世界で、銃や大砲は進化が遅れるのはやむを得ないですね。ですが、今後の戦争においては多く使われることになるでしょう。悲しい事とは思いますわ」
わたしが示した事実にティオさまは驚愕する。
まだ前装填式でライフリングの無い大砲が主流の王国。
対空に大砲を使うというアイデア自身が存在しない。
……ワイバーンによる飛行竜騎士とか、ペガサス兵団とかは少量存在するけれど、彼らによる対地爆撃とかはまだ行われていないのよね。せいぜいが弓とかアーバレストによる射撃がやっとなの。
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