第34話(累計 第166話) ダムガール、テロの事後報告を聞く
法王国の聖都で吹き荒れた大規模テロから三日後。
まだ聖都から離れられないわたし達の元に、枢機卿さまの代理人として見知った顔の二人が状況説明と感謝の意を告げに来ていた。
……無理しすぎた二機のゴーレムの修繕に時間が随分とかかっているの。帰りで戦闘に巻き込まれる危険性もあるから、動かないのでは困るし。ただ、溶けた高機動用スラスターは予備の耐熱金属が無いから正直お手上げ状態ね。
その上、聖都ではまだ沢山の家屋が倒壊しているから、その復旧作業のお手伝いもあって中々帰るって言い出せない状態なのだ。
「今回、我が法王国の危機を二度にもわたりお救い頂き、国民すべてになり替わり感謝いたします。公爵閣下、リナ姫殿下、アミータどの」
「いえいえ。力あるものの義務を果たしたまでの事です、ミコスどの。本来であれば、内政干渉の上に勝手な武力行使をしてしまった訳で、こちらとしても感謝されるほどの事ではございません」
「わたくしは、あまりお役に立てなかったので、感謝されても心苦しいですわ。ですが、この度の悲劇に際し父ゴブリン王の名代として被災された方々には心からお見舞い申し上げるとともに、復興に尽力されている皆様には安全に留意されご活躍されることをお祈りいたします」
「これからが大変な時期に、わざにわたくし共への挨拶と説明に来て頂きありがとう存じます、ミコスさま。枢機卿猊下にくれぐれもお体お気をつけてとお伝え下さい。また、災害救助及び復旧に携わる皆さまに、作業ご安全にともお伝えくださいませ」
聖都を襲った同時多発なテロ。
わたし達と元法王、そして政府中枢部の暗殺及び「外典」などの証拠隠滅が主目的だったのではと、わたしは推理している。
だが投入された戦力があまりに多い上に、敵集団がどの勢力なのか不明なのも実に気になる。
……魔王の手の者……、にしては只人族だけだし、CQCの基本を知っているのは、ちょっとおかしいのよねぇ。近接戦闘術は、わたしかルキウスくんくらいしか、この世界じゃ知らないはずだし。それに前込め式とはいえ銃剣付きの小銃を沢山使っていたのが気になるわ。
有人型ゴーレムまでも複数機投入された大規模テロの結果、多くの血が流れ、白磁な大理石で作り上げらえていた優美な神殿宮殿は、ほぼ壊滅した。
……新しく法王さまに就任予定の枢機卿さまが無事だったのは、不幸中の幸いね。元法王を簡単に失脚させた手腕から考えて、彼が自分からテロを行うメリットも無いから、多分今回の事件ではシロなんだろうとは思うの。それでも状況を自分優位に動かせる知略を油断はできないけど。もう、わたし面倒ごとには巻き込まれたくないよぉ。
「そんな他人行儀な挨拶は今更必要いらないですよ、アミータ姫。そして、皆さま。俺は、貴女がたの素晴らしき行いと思いを幾度も与えて頂き感謝しておりますが、それ以上に同じ思いを持つ大事な友と思っております。なので、俺は先日も自分から率先して皆さまの護衛任務を志願しました」
「こら、ソル! ここに居られる方々は、王族に近しい方々。いくら顔見知りだったとしても、気軽すぎるぞ! すいません、愚息がとんでもない事を申しまして。他国の尊き方々に友などと……」
今回、わたし達に事態の説明に訪れたのは、ソルくんと騎士団隊長のお父さまであるミコスさま。
枢機卿さまは、事後処理に追われていて多忙。
今は、仮設王宮から一歩も出ることができないらしい。
……ソルくんのお父さま、先日まで牢屋に居てボロボロだったのに回復が早いのね。今は立派な騎士さまに見えるわ。流石は騎士団の部隊長になれる人なの。
「いえいえ。ソルくんは、わたくしにとって可愛い弟分。大事なお友達だと思っております。そうですわよね、皆さま?」
「はい、アミータお姉さま。わたくしにとって同じ年ごろな只人族の男の子な友人がまた増えました」
「ええ、ボクもソルさまは友人と思ってます。お互い助け合える友は嬉しいものですね」
「僕は、ソルさまとはあまりお話できませんでしたが、同じ思いで助け合えるなら、それはもう友ですね」
わたしに合わせてくれたこともあるのだろうが、皆がソルくんを友達と呼んでくれたのは嬉しいことだ。
別の国だろうが、別の種族だろうが。
同じ思いを持てるのなら、それは友達。
そう、わたしは信じている。
「我が愚息を、ここまで大事に思って頂き、父として感謝しかございません。こと、アミータ嬢には酷い事しかしてこなかった私は恥ずかしく思います」
異端審問官と一緒だったころのミコスさまは、横暴で独善的。
他の騎士らに比べればまだマシだったものの、魔族の子どもらに剣を向けることを肯定していた。
だが、今はあの頃の狂気じみた目をしておらず、ゴブリン姫であるリナちゃんに対しても優し気な笑みを浮かべている。
「もう過ぎた事はしょうがありませんです。なので、未来を見ましょうね、ミラコさま」
わたしはミラコさんの手をそっと握り、笑みを浮かべる。
そして宣言する。
「これからの未来。魔族も只人も、他のヒトたちも。皆仲良くできれば最高ですものね」
「はいです。アミータ姫! 俺も共に頑張ります!」
ソルくんもわたしの手を握ってくるので、最高の笑顔で握り返す。
「ええ、ソルくん」
「あーあ。アミちゃん姫さま。またやらかしてますよぉぉ」
ヨハナちゃんが小声で呟いたのを、わたしは聞き逃していた。
なお、この時ティオさまの顔を見なかったのが、わたしの大失態。
ソルくんたちが帰った後、怖い笑顔で嫉妬しているティオさまから存分に詰問されました。
ぐすん。




