第14話(累計 第146話) ダムガール、検問に文句を言う。
「アミちゃん姫さま、リナ姫さま。そろそろ国境ですわ。警戒を」
「ええ、了解ですわ。ヨハナちゃん」
子爵さまと別れ、国境まで魔導自動車を進めたわたし達。
青々とした木々の間、街道を進んでいく先に大きな門が見えてきた。
「アミータ姫さま。門の向こう側に多くの騎馬兵が見えます。警戒を!」
運転席からドゥーナちゃんの声が響く。
事前に国境を越えるであろう予定日程を法王国側に知らせてはいたが、案外と早いお迎えの様だ。
……法王さまの親書があるとはいえ、向こう側に知らせないで武力を所持したまま国境を越えちゃうと要らぬ警戒をされちゃうから、こちらの到着予定を知らせるのは仕方がないの。
不法侵入は、侵略と見られる場合もある。
以前、王国に入ってきた異端審問官たち。
法王直属の私兵ではあったが法王国の神殿所属騎士という半民半官の立場を使い、わたしを処罰に来ていたのだ。
……国の間の関係は結構ややこしいからねぇ。例えお題目やバレバレの理由であっても守らないといけない条約はある訳で。
車列が国境検問所まで進むと、門の向こうに多くの白い軍馬。
いや多数の天馬が白銀の鎧を着た騎士を乗せて、わたし達を待ち構えていた。
「ほ、本当に馬もいない馬車がこんなに早く走ってくるなんて……」
「空も飛ばずに、こんな速度で走るのか??」
ただ彼らが騒ぐ様子を見るに、わたし達の移動速度は想定外だったらしい。
「これが法王猊下からの親書及び国境通過手形です。ご確認くださいませ」
「はい。お気をつけてくださいませ」
子爵領側の検問は、簡単に通過。
わたしやティオさまに対しては丁寧なあいさつもしてくださる。
こと、子爵次男のルキウスくんのおかげで顔パスなのだ。
……なお、リナちゃんは差別の眼から守るために車内でお留守番してもらっているの。
「本当にオマエらが法王さまの親書を? ドワーフ風情が偉そうに」
「そうです。我が主アミータさまとヴォルヴィリア公爵閣下がお通りになられます」
しかし、法王国側の検問兵らは横柄だし、書類を提示したドゥーナちゃんを疑惑の眼で見る。
よく見れば兵士や背後に控える天馬騎士も全員只人族の男性。
それも金髪や銀、淡い栗毛の髪。
眼の色も薄めの人々が多く、黒髪黒眼なわたしを見る目ですら何処か侮蔑を感じる。
……そういえば、以前の異端審問官もシルバープラチナの髪で碧眼だったっけ? でも、王国よりも南に住む民なのに、皆メラニン色素が薄めなのはどうしてなんだろう? 普通、赤道に近づくほど体色が濃くなるのは前世含めて只人の中では普通なんだけど。
わたし個人に髪や目、肌の色で差別する気持ちは全くない。
前世でNPOにて南国に行った際も、地元の子ども達と仲良くできた。
というか、ゴブリン姫のリナちゃんを可愛がっている段階で、わたしは人種差別大反対派なのだ。
……だって、只人のバカ貴族子息よりもリナちゃんの方が賢いし、可愛いんだもん! ドゥーナちゃんだって、優秀で可愛い技術者。結局は人同士、心の在り方や素養、教養が人を形作るの。最初から見た目で差別するなんてサイテー!
「あら、わたくしの配下に対して何か問題でもあるのでしょうか? わたくし、ヴァデリア伯爵家令嬢にしてヴォルヴィリア公爵閣下の婚約者。王家より直接女騎士の称号も頂いていますのよ、おほほ。こちらには公爵閣下もいらっしゃいますし」
なので、こちらも身分差で相手をぶん殴る。
わたし自身、身分を使った威圧・権力は大嫌いなのだが、相手が先に身分や立場を利用してわたしの仲間を差別してくるのなら容赦はしない。
こんな卑怯者は、敵が使う権力よりも更に上の力で叩き潰してやるに限る。
「ぐぬぬ。そ、そうですか。では、お通り下さいませ。なお、貴女さまたちの護衛は猊下直属の天空騎士団が行います」
悔し気な顔でドゥーナちゃんに封書を叩き返す守備兵。
悔し紛れなのか、ペガサスの乗った騎士団がわたし達の警護。
もとい、監視役に着くと言い放った。
……またこのパターンなのよねぇ。大公さまの時と同じ示威行為だとは思うんだけど、飛行してもわたし達の魔導自動車の方が早いよ。
法王国側の街道、巡礼者を多く他国からも招く関係。
更に小国ながら王国よりも自分達の国には力があると見せるためか、きっちりと正方形な石を組み合わせた石畳舗装がなされている。
……子爵領側の街道は、まだコンクリート舗装前。でも、わたしの技術提供による『土嚢袋を使用した道路修繕』を行っているから、見た目よりはきっちりしているよ。表面の土は石灰で固めてあるしね。
見栄えを重視する法王国に対し、質実剛健なのが王国。
実利を取るのは、わたし個人の考えでもある。
「アミお姉さん、どうしますか? また失礼な感じに思いましたが」
「ティオさま、ご心配頂きありがとう存じます。このくらいの事で今更どうこう思うわたくしではありませんですの。勝手についてこれるのならどうぞですわ」
ティオさまが小声で心配そうにわたしの声を掛けてくれるのに、わたしは感謝しつつ気にしないと伝える。
これから先も色々と妨害行為。
最悪の場合には暗殺すら考えられる敵国内。
油断などする筈もない。
「騎士の方々、警護宜しくお願い致しますわ」
わたしは、奇異な目でわたしを見てくる天空騎士に微笑で声を掛けた。
彼らに対し、宣戦布告の意味を込めて。




