第13話:ダム・ガール、自宅謹慎中に妹を可愛がる。
王都での洪水騒ぎ。
冠水した街から水が完全に引くまで一週間弱掛かった。
避難指示は早期に行われてはいたが、平民街では逃げ遅れた人が多数発生。
多くの犠牲者を生んだ。
……逃げ遅れた老人が水死した事例が多かったの。これは『前世』の事故でも同じだったわ。
「はぁ。どうせお義母様から叱られるのが分かっていたのなら、もっと早く行動していたら良かったわ。それで犠牲者が減ったかもしれませんし」
「アミータ姫さま。無理をおっしゃられてもしょうがないです。お話によれば亡くなった方が多かった場所は堤防が最初に決壊した周辺。姫さまが急がれていても残念ながら間に合わなかったと、イグナティオさまもおっしゃられていましたよ」
「それは、そーなんだけどね、ヨハナちゃん。それでも一人でも沢山助かる方がいいわ。わたしが一人叱られるくらい、今更だから別に構わないし」
事態が落ち着いた数日後。
わたしは、義母や妹らと共に領地に帰った。
領地でも豪雨による被害が一部発生したものの、わたしが無理を言って改修していた堤防や水路では被害が出なかったと後から聞いた。
「あれだけ奥様がお怒りなら、この先何があってもおかしくは無いです。確かにアミちゃん姫さまは立派な事をなさって、多くの民を救いました。ですが、貴族令嬢としての行動では無かった。そういう判断に奥様の中ではなられていますね」
「ありがとね、ヨハナちゃん。しばらくは家から出られない分、勉強をしておきますわ」
「奥様なら、勉強よりも嫁入り修行をなさいって言いそうですぅ」
洪水対策の作業を終えて王都の別宅に帰ったわたし。
先に帰っていた義母は既に意識を取り戻しており、わたしは彼女から酷く叱責を受けた。
「貴方という子は、いったい何を考えていますの? 自分の立場、伯爵家令嬢であるのをどう思っているのですか? 昔から平民街に勝手に一人で遊びに行ったり、孤児院に入り浸ったり。今回は、幼い公爵閣下を色気でたぶらかして、雨の中ずぶ塗れになって泥遊びを……」
「お義母さま。そこは修正お願い致します。わたくしが、公爵閣下をたぶらかしたかどうかは今は置いて。わたくし、泥遊びではなく治水。決壊した堤防を直していたのです! 人々を助ける為に貴族が動く。ノブレス・オブリージュの精神を忘れては……」
「屁理屈を言うんじゃないです! どれだけ、わたくしやエリーザが恥ずかしい思いをしたのか、理解していないんですか、貴方は!?」
人々を助けるための行動を「泥遊び」と言われた事に怒ったわたし。
義母に言い返したのだが、それが火に油を注ぐことになってしまった。
「貴方は、しばらく自宅謹慎と致します。王家からお達しがあり次第、処罰をします。しばらくは大人しくしていなさい!」
そしてタウンハウスでも、領地のカントリー・ハウスでも私は外出禁止。
貴族学校へも行けず、悶々としているのが現状だ。
「アミお姉さま、少しは大人しくなさっていますのでしょうね」
「エリーザ、今回は巻き込んでしまいごめんなさい。ええ、あまりに派手に動き過ぎましたから、しばらくは大人しく蟄居してますわ。ただ、学校に行けないのは寂しいですけれど」
妹も監視の意味もあってか、時折顔を見に来る。
完璧な貴族令嬢として躾けられている妹、エリーザから見ればわたしは意味不明な存在だろう。
「まだ、そんな事をおっしゃっているのですか、お姉さま。学校でも問題多発と聞いております。お母さまは、以前お姉さまを監禁するか、家から追い出さないとまでお話していましたわよ?」
「そこまでお義母さまはお怒りなのね。しょうがないですわ、わたくし。衝動を止められないのですもの。エリーザもわたくしを切り捨てても良いのですよ?」
心配そうな顔で態々わたくしにお義母さまの様子を教えてくれる妹。
わたしが姉でなければ、伯爵家の次女として気楽に生きていけたのだろう。
……もしかして『未来』でのバッドエンド。ゲームシナリオの都合とかで、わたしや妹の運命を狂わされたんじゃないよね?
「未来」の事は、夢で見る様なぼんやりとした情報でしかない。
「前世」みたいにはっきりした記憶でもないので、フラグが何処にあるのかもわからないのが残念。
どうやら、何かの乙女ゲーム世界らしいのだが、わたしの「前世」記憶にも無いから、マイナーな同人ゲームとかかもしれない。
誰が作ったシナリオなのか分からないが、わたしは絶対にゲームマスターの思い通りには動いてあげない。
……昔、ステイタス・オープンって叫んだのはここだけの話。もちろんステイタス・ウインドウは出てこなかったんだけど。それにしても、大陸一つ巻き込んでの無理心中なんてヤなの!
「そんな! わたくし、昔からお姉さまの自由さには憧れがありましたの。お母さまはお姉さまの事をひどく言いますが、今回の事は本当に人々を助ける立派な行動。その前後はさておき、王家から褒章がでてもおかしくありませんのよ?」
……あれ? この子ってば、可愛い事言ってくれるの。お義母さまが暗躍しなきゃ立派になれそう。ん? もしかして、わたしが『未来』でお義母さまを倒すから聖女役、乙女ゲームの主人公になるのかも。
妙なフラグが重なり合っているのを感じるが、悪に見える義母も権力抗争に生きる貴族婦人としては、まだ普通の範疇。
たまたま、「前世」思考に引きずられたわたしと相性が悪いだけの事。
……じゃあ、どうして『前世』の記憶がないはずの『未来』のわたしは、悪役令嬢に落ちていったんだろうね? ますます意味不明なの。それこそ、ゲームマスターの悪意?
「そこまで褒めなくてもいいんですよ、エリーザ」
「褒めてません! 前後で令嬢らしからぬ行動をなさりすぎですの! はぁ、お姉さまは自覚があっても行動に問題がありすぎますわ。お母さまもお姉さまにイジワルすぎるとは思うのですが……」
「あー、可愛いの。エリーザは今のままスクスク育ってくださいませ。わたくしみたいにならないようにね」
「髪型が崩れますの! わたくし、お姉さまは大好きですが、お姉さまみたいには、ぜーったいなりません」
可愛い妹の頭を撫でながら、わたしは思う。
……イグナティオさまのプロポーズ。あれ、本気だったのかな?




