第12話:ダム・ガール、朝日の中でプロポーズされる。
「……つまり、アミータお姉さんは別の世界で生きていたのかな?」
「わたくし、そのものでないはずです。顔や姿が違うので。わたくしには、別の世界で生きていた記憶があるだけですの。どうして、こうなったのかは分からないのですが、その記憶がわたくしに囁くのです。巨大な建築物を作りたい! そして人々の笑顔を守れと」
一通りの事情をわたくしは説明した。
……『未来』の話は、まだ言えないの。迂闊に話せば、別のフラグが立ってわたしが悪役令嬢になってしまうパターンもありそうなんだもん。
「アミちゃん。そんなことがあったんだ!」
「そうなの、ヨハナちゃん。洗礼式の時に思い出して、後は衝動に任せて土魔法を勉強したり、土木作業のまねごとをしてたわ。あ、イグナティオさま。今回の話を陛下にお話しても構いませんが、他の人を巻き込む事だけは……」
「うん、分かったよ。こんな荒唐無稽な話、お姉さんの知識を見ていないと信じないだろうから。あと、ヨハナお姉さんがお姉さんをちゃん呼びしているのもナイショにしておくね。幼馴染なんだろうけれど、貴族令嬢に平民側仕えが馴れ馴れしく話すのは問題になりがちだから」
イグナティオさまの笑顔を見て、わたしは緊張から解放された。
今まで話せなかった秘密の一つを理解してもらえたこと。
そしておそらく洪水災害も落ち着いたであろうから。
……先程から、堤防に使った<石壁>を維持する魔法消費量がぐんと下がったの。多分、川の水位が下がったのね。
白みつつある空を天幕の隙間から見ると、雨足がかなり弱ってきている。
秘密を話し出す前は、天幕を叩く雨の音が大きかったが、今は殆ど音がしない。
「アミちゃん。あ、いえ。アミータ姫さま。雨が止んだようですね。空も明るくなってきました」
「夜明けですね、ヨハナ。ふぅ、後は堤防の復旧と浸水対策。そのあたり、どうなっていらっしゃいますか、イグナティオさま?」
「最後の報告では、避難は終了出来ているとの事です。後は明るくなってから、浸水地帯での捜索が始まるはず。堤防の方は、お姉さんの土嚢が効果あったみたいで、お姉さんの<石壁>以外の箇所も無事に応急処置が出来ました。王になりかわり、感謝します」
イグナティオさまの話では、最悪の事態は免れたらしい。
後は逃げ遅れた人がいない事を祈るばかりだ。
「いえいえ。わたくしが暴走して勝手にやってしまいました事。幸い、上手くいきましたが失敗の可能性も十分ありました。砂の確保など、行き当たりばったりすぎて、今となれば恥ずかしいばかりです。イグナティオさま、わたくしの至らぬ部分を補って頂き、ありがとう存じました」
「後は城に帰って報告を待ちましょう。さて、アミータお姉さん。今回の事でボクは決めました!」
わたくしが頭を下げ、あまりに思い付きで行動してしまった事をイグナティオ様に謝ったが、彼は何かを決めたと語る。
「何をお決めになられたのでしょうか? わたくしに関係するお話ですか?」
「アミータお姉さん、ボクの話を聞いていなかったのかな? ボクはね、お姉さんが欲しい。もちろん、お姉さんの知識は未開発なボクの領地を改革するのに必要だ。それ以上に、お姉さんと一緒にいたら楽しいんだ。王家の『忌み子』なボクを友人と言ってくださるし、お話も楽しい。是非、お姉さんをボクの領地に招きたいんだ。あ、ヨハナお姉さんも、もちろん一緒にね」
なんと、わたしは超絶美少年からプロポーズをされてしまった。
その言葉に、わたしの体温は一気に上昇。
先程まで感じていた寒気など、何処かに飛んで行ってしまった。
「あ、あのぉぉ。『前世』などとおかしな話をする女で良いのでしょうか? 衝動に負けて、すぐに考え無しな行動してしまうバカで良いのですか? 女らしき趣味も貴婦人らしい行いも不十分な娘で良いのですか? 貴族の間で『泥かぶり』とバカにされてきた、わたくしで良いのですか? 別に、わたくしの知識だけ奪って、使い捨てでも恨みません」
しかし、「前世」での恋路で酷く失敗し、もう二度と恋心を抱かないと決めたわたし。
わたしの知識には価値があるのだろうけれど、取り込む為に妻になどせずに妾で充分のはず。
最悪、座敷牢に飼い殺しでも良い。
……ましてや、王家直系な公爵家に伯爵家の嫁では格が圧倒的に足らないものね。こんなところでプロポーズなんてしなくても良いって思うよ。
わたしは、自分に知識以外の価値はないとイグナティオさまに必死に訴えた。
「はぁぁ。お姉さん、自己評価や自尊心が低いとかこれまでに言われませんでしたか? 生前の話でも、今回の話でもお姉さんは自分の命や価値を軽く見過ぎです。自分の命を簡単に掛け金にして、衝動のままに動くのは危険で卑怯です。もう少しご自分を大事になさってください」
すると何故か、怒り顔のイグナティオさまに叱られてしまった。
実に解せない。
「もう一度言いますね。ボク、イグナティオ・デ・ヴォルヴィリアはアミータ・デ・アヴェーナさまが欲しいです。是非、ボクの元に来て下さい!」
「ひゃ、ひゃい! よ、喜んで……。あ、えっと、今のは婚約とかプロポーズなんですか?」
そしてイグナティオさまの勢いに押されて、わたしはイエスと行ってしまう。
そして許可を出した後に、狼狽えて今更な事を聞いてしまった。
「それはお姉さん次第かな? まだまだボクは子供。充分考える時間はあるので、お任せしますね。うふふ。これで領地改革が始められます。実に良き友達を得る事が出来ました」
「イグナティオさま、宜しかったですね。アミータさま、ティオ坊ちゃまを宜しくお願い致します」
「おい、ファフ! 人前で坊ちゃまなんていうなよ、恥ずかしい」
朝日に照らされながら、竜の執事とふざけ合う超絶美少年。
プラチナブロンドの髪が日を受けキラキラと輝いているのを見て、わたしはどうしてこうなったかと天を仰いだ。
「どーして、舞踏会から追い出されそうになったら、美少年な公爵さまに見染められて、一緒に洪水対策をして、プロポ―ズされるのかなぁ?」
「今更、何をおっしゃるのですか、アミータ姫さま。昔から変わっていないですよ? 勝手に首突っ込んでは、話を大事にしちゃうのは」
「ぐぬぬ……」
だが、ヨハナちゃんに突っ込まれて次の言葉が出ないわたしだった、まる。
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