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第1話:ダム・ガール、異世界に建つ!

 新たなる悪役令嬢の物語をどうぞ!

 降りしきる豪雨の中、敵対する姉妹が向かい合う。

 二人の顔には大粒の雨が当たり、頬の上を涙と共に流れ落ちた。


「アミお姉さま、どうしてこんな事に……」


 周囲には倒れ伏した兵らが多数転がる。

 彼らの身体から流れる血潮が、水たまりを黒く濁らせていく。


「オホホホ!」


 泥の海の上。

 血の気が失せた蒼白の肌に長い「ぬばたま」の黒髪、黒玉髄(ブラックオニキス)の瞳を持つ、痩身で何処か幼げな娘が狂気じみた表情で高笑いをする。


「エリーザ。貴方、まだ分からないのかしら? わたくしの運命は、あの洗礼式の日から全てが変わりましたの。水属性の名家であったヴァデリア伯爵アヴェーナ家にただ一人、土属性として生まれてしまったわたくし。家族や国家に迫害され、追放の末に救って下された魔族国家の先兵となりましたのよ」


 立ち向かうは、黒き娘とよく似ている少女、エリーザ。

 幼さが残るも体格は黒き娘よりも豊満な肉体を持ち、亜麻色の長髪を編み込んでいる。

 金属製の胸当てを装備したエリーザの亜麻色な瞳は、狂気じみた「(アミータ)」を睨んだ。


「くっ!」


 しかし聖剣を持ちながらも、実の姉に剣を向けられないエリーザ。

 姉が王国を裏切り魔族側に付いた理由を知り、自分達に姉を責める資格がない事を今更ながら実感して唇を噛みしめた。


「でもね、もう全部バカらしくなりましたわ。わたくしが復讐したかったのはお義母様(かあさま)であり、愚かな王国。でもね、復讐が終わってみれば、わたくしには何も残りませんでしたの。命乞いをするお義母様をゆっくり泥に沈めて殺すのは楽しかったのですが、国王や王国軍を底なし沼に沈めても何の感情も湧きませんでしたの。残るは貴方、エリーザだけですわ」


「……バカなお母様を止めれなかったわたしも同罪です。ここまで壊れてしまうまで、お姉さまを追い詰めてしまっていただなんて」


 黒きドレスを纏い魔女じみた姉が淡々と継母や国王らを殺した時の事を無表情で話すのを見、エリーザは姉、アミータを「壊して」しまった事を後悔した。

 「化け物」を生み出す前に、何処かで止める事が出来なかったのかと。


「もう遅いわ、エリーザ。さあ、わたくしと一緒に沈んでいきましょう」


 持っていた魔術師杖(メイジスタッフ)を地面にぽとりと落とし、笑みを浮かべながら手を広げて妹を招くように囁く姉。

 彼女が捨てた杖は、水たまりが深くなっていた地面にずぶずぶと沈んでいく。


「いえ。わたしは王国最後の一人になってもお姉さまを止めます。お覚悟を! やぁぁ!!」


 姉に聖剣を突きつけ騎馬槍(ランス)のようにして、妹は泣きながら突撃した。


「ぐぅ!」

「お姉さまぁ」


 妹の聖剣は避けなかった姉の薄い胸を簡単に貫き、真っ赤な血潮が吹き出す。

 しかし姉は苦しそうな顔を見せず、吐血しながらも優しい表情のまま。

 広げていた腕で妹の身体をぎゅっと抱きしめた。


「やぁっとつかまえたぁ、エリーザぁ。さあ、一緒の地の底に参りましょう」

「……お姉さま。ごめんなさい」


 幼げな笑みを浮かべながら、妹に微笑む(アミータ)

 そして、姉を討った事に後悔の涙をこぼす(エリーザ)


 二人の姉妹は、底なし沼となった地面にずぶずぶと沈んでいった。

 彼女らが沈んだ沼は、その後もどんどん広がっていく。

 そして最終的には、国はおろか大陸ひとつを地の底へと飲み込んでいった。

 こうして、一つの惑星において文明が滅んだ。


<BAD・END>


  ◆ ◇ ◆ ◇


「そんなの、いやぁぁ!! わたし、ダムをもう一度作るのぉぉ!」


 わたしは、毎度見る悪夢。

 「未来」において「わたくし」アミータが起こしてしまう「はず」だった悲劇を垣間見、悲鳴を上げて飛び起きた。


「アミータ姫さま、大丈夫ですか?」


 天幕付きベットの上のわたし、寝汗でびっしょりになって起き上がった。


 声は、窓の方角から聞こえてくる。

 視線を声の方に向けると、朝日を引きいれるべくメイド姿の若い女性がカーテンを開いていた。


 ……ここは王都内にある別宅(タウンハウス)の部屋ね。見覚えがある天幕や壁紙なの。


「ありがとう、ヨハナ。いつもの悪夢だから大丈夫よ。もう朝なのね。暗いから良く分からなかったわ」


 側仕えメイドからタオルを貰い、顔を拭うわたし。

 視線を枕もとにおいてある小型ゼンマイ式時計に向け、時間を確認する。

 その間にメイドは、枕もとの水差しからコップに水を汲んでくれ、ベットに座ったわたしに差し出してくれた。


「いつもすまないねぇ、ヨハナちゃん」

「それは言わない約束ですわ……って、他の人が聞いたら変に思いますわよ、アミちゃん。いえ、アミータ姫さま」


 わたしがフザケてボケると、昔教えたギャグで返してくれるメイドのヨハナ。

 彼女は神殿併設の孤児院出身で、わたしと同い年の女の子。

 お屋敷を抜け出した時に、一緒に遊んでいた幼馴染でもある。


 ……こげ茶色の髪をアップにしてて、ソバカスが可愛いの!


「周囲に余人がいない部屋の中なら大丈夫ですが、お気をつけてくださいね。平民孤児のアタシへ気軽に伯爵令嬢さまが、ちゃん付けでお声かけなんて大問題なんですもの」


「わかっていますわ、ヨハナちゃん。この部屋を出たらちゃんとしますの。では、着替えを宜しく頼みますわ、ヨハナちゃん。寝汗で夜着がびっしょりなの」


「はぁい、姫さま」


 しょうがないと、ため息一つで着替えを手伝ってくれるヨハナ。

 私にはもったいないくらい、実にありがたい側仕えである。


 ベットから降りて、下着ごと夜着を脱ぐわたし。

 ヨハナに昼用ドレス(ローブ・モンタント)へ着替えさせてもらっている間に、視線を窓の外に向ける。

 伯爵家の屋敷らしく豪勢にも平面ガラスにした窓に雨粒が激しくぶつかる。

 朝なのに、外は薄暗い。


「今日も雨ですわね」


 ……まるでわたしの心の中みたい。大好きな研究を封じられて、今日も望まぬお見合いモドキの舞踏会に参加なんですもの。


 八歳で行われた貴族洗礼式において水属性の家系で唯一、土属性であったことが判明したわたし。

 そこから家族や貴族内でのいじめを受けて捻くれ、悪役令嬢化するのが、わたしの「未来」。

 本来の運命だった。


 ……いくら王国随一の水属性貴族家だからって、直系に生まれた娘を土属性が主だったからってひどい扱いするは間違っているって思うよ。水属性も、それなりに持ってるんだし。


 しかし、洗礼式の際。

 「未来」記憶と「前世(かこ)」記憶が、わたしの頭の中に流れ込んできた。

 そして気絶するも、未来と過去の知識を手に入れたわたしは運命改変に動きだした。


 ……妹に刺殺されて、国ごと心中なんて絶対に嫌なの! それにせっかくの土属性が勿体ない! コンクリートを、この世界でも作りたいんだもん。


「これで十日もの長雨ですね、姫さま。出入りの業者から聞いた話では、北の方。国境付近の山村で大きな土砂崩れが起きたとの事です」


「ああ、わたしが自由に動けていれば、傾斜面の土壌改良とか『砂防ダム』で被害軽減できましたのにぃ。もっというなら『治水・発電』も出来る『多目的ダム』がぁ……」


「また『夢の世界』のお話ですか、姫さま。今、実現が不可能な事は、おっしゃらない方がいいですよ。また御屋形様や奥様に姫さまが叱られます。そりゃ、確かに姫さまの作った堤防は立派でしたよ。おかげでアタシも、孤児院の子達も命を救われましたし」


 ……だってぇ、大雨のたびに下町が浸水するのを黙っていられないんだもん! ダムとかがあれば、治水出来るのにぃ。


 わたしが十歳くらいの頃。

 今日みたいな大雨で伯爵領内に大洪水が発生した。

 下町にどんどん流れ込む濁水を見ていられず、わたしは勝手に雨の中に飛び出して暴走。

 魔法で石壁を作って堤防を応急処置。

 下町の人に土嚢(どのう)を沢山作ってもらって、決壊部分を復旧した。


 ……あの時はお父様には複雑な表情をなされ、お義母様にはこっぴどく叱られましたの。でも、友達や街の人が流されるのを放置なんで、わたし出来ないよ!


「あれ以来、お義母様の監視が厳しくなって下町にお忍びできなくなりましたわ」


「それが普通ですよ、姫さま。貴族令嬢、それも領主の娘な美幼女が、騎士さまや側仕え無しで下町を一人歩くなど危なすぎます!」


 ……今思えば、わたしの身分は皆にバレバレだったのよねぇ。上品なジュニアドレスを纏った女の子だったし。


 よくぞ誘拐や暗殺なぞされなかったと思うのだが、街の人々はわたしを愛してくれ大事に見守ってくれていたのだろう。

 だからこそ、わたしも愛する彼らを洪水から救った。


「ええ、反省してますよ。ヨハナちゃん」


「もー、アミちゃんのバカぁ。はい、着付けできました。部屋を出たら、しっかりとしてくださいね、『泥かぶり』姫さま。今晩には宮廷舞踏会がありますから」


「はぁい」


 わたしはヨハナに笑みを返し、朝食会に向かうべく自室を出た。

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