『具現』の能力者
今日は……そうだ、僕の誕生日だったっけ。
今日、僕は生か死か、どちらかを選ぶことになる。
とはいえ、選ぶのは神様だけれど。
僕は生まれつき重い病気を持っていて、今日、その手術をするんだ。
手術の日と誕生日が重なるなんて、奇跡だよね。
じゃあ、誕生日のプレゼントに……手術の成功を祈ってもらおうかな。
でも、もし僕がもう助からないなら。
最後に、とびきりのプレゼントが欲しいな。
◇
”ますい”って凄いね。
もう……眠くなって……きちゃった。
◇
……………………あれ。
意識がある。
おかしいな。”ますい”が効いてないのかな。
違う。ここ、病院じゃない……?
どういうこと?
◇
ツー、ツー、ツーーーー
◇
わかった。
これは……異世界転生ってやつだね。
本で読んだことがある。
だって、病院にいたはずなのに、今僕は草原にいる。
それにほら。体が軽いし、服装も変わってる。
腕が動く。足が動く。こんなに体を動かせたのは久しぶり。
病気が治ってるんだ。
……でも、転生したってことはつまりさ。
僕は死んだんだね、地球では。お母さんとか、泣いてないかな。泣いてるだろうな。
でも、神様は僕に……第二の人生をくれたんだ。
きっと、これが誕生日プレセントだ。
やりたかった事、やれなかった事。
いっぱいあるんだ。全部やってみたい。
まずは、友達!
友達が欲しいなあ。ずっと、病院の中にいたし。
―――ガタガタゴトン。
近くで音が聞こえる。
あ、あれは……なんだろう。
馬が荷物を引っ張ってる。なんて言うんだったかな。
「おーい、そこの人! そこで何やってるんだ?」
「え!?」
わぁ、いきなり話しかけないでよ。びっくりするなあ。
その何か……車? に乗ってるのは誰だろう。
うーん? 男の人だってことしかわからない。
で、でも……この世界で初めて出会った人だし、せっかくだから友達になりたいな。
「いや、べつに……その」
「じゃあなんでこんなとこにいるんだ? 何の目的もなく来るとこじゃないぜ、ここは」
「そ、そういうわけじゃ」
う……緊張する。
初めての人と話すときって、こんなに緊張するんだね。
あ、そうだ。馬車だ。馬車って言うんだよね、ああいうの。
男の人が馬車から降りてきて……あ、近づいて来る!
「ふーん、ここいらの人じゃなさそうだな」
「ま、まあ……」
はえー。かっこいい人だなあ。
この……好青年っていうの? まさにそんな感じ。
「この後、暇か?」
「は、はい」
「じゃあ、手伝って欲しいことがあるんだけど。いい?」
「あ、はい!」
「そりゃ助かるぜ」
手伝って欲しいこと?
なんだろう?
「ここらへんじゃ貴重な薬草が採れるんだ。まあ、滅多に生えてないんだが。実際、俺も何回もここに来てるけど、一回も見つけたことがない」
「そ、そうなん、だね」
それを一緒に探して欲しい、ってことかな。
何回も来てるってことは、よっぽど探し求めてるんだろうね。
見つかると良いな。
「おっと。名乗り遅れたな。俺はアレス。そっちは?」
「僕は……ショウ。よろしく」
「ショウっていうのか。こちらこそ、よろしくな!」
「う、うん」
アレスがニコッ、と笑う。
笑顔が眩しい。
「それで、さ。その薬草? を探して……欲しいんだよね?」
「ああ、よく分かったな。ショウは人の心でも読めるのか?」
そんな。人の心を読める人なんて、いるわけないじゃんか。
「そ、そんなわけ……!」
「まあ、だよな。じゃ、薬草を探してくれるか? ほら、こういうのだ」
アレスが何やら図鑑を見せてくる。
おお、これは……ただの草だ。
普通の草と見分けがつかない。
ブチッ。
ほら、これなんてそっくりだよ。
むしろ本物じゃない?
「おい、それ」
「え?」
「その草、ちょっと見せてみろ」
「い、いいけど……適当に引っこ抜いたやつだよ?」
「いいから」
「ど、どうぞ」
アレスに持っていた草を渡す。
まさか、これが本当に?
「……間違いない。図鑑の草と同じものだ。すごい、すごいぞ!」
「そんなに、すごいの?」
「ああ、すごいなんてもんじゃない。これ一つで十万リテスはするぞ」
「へ、へえ……」
ちょっと反応に困るなあ。
その十万……リテス? が多いのか少ないのかわからないし。
「で、でも……それならここらへんにいっぱい生えてるよ?」
何度みても、図鑑にある草と今ここに生えている草の見分けがつかない。
だって、どう見ても同じじゃんか。
「いっぱい? そんなまさか。そりゃ少し分かりにくいが―――」
アレスが足元の草を見て、固まってしまった。
「ど、どうしたの?」
「まさか、ありえない。これも……これも? そんな、これまでも!? なんてことだ、ここらの草全て……薬草だと!?」
「大丈夫?」
「夢だ……夢を見てるんだ。そうに違いない!」
「そんなこと……」
ない。ないはずだ。
「そ、そうだよな……取り乱してすまなかった」
「だ、大丈夫、だよ」
「ああ……でも、夢みたいだ」
「……冷たっ」
雨だ。雨が降ってきた。
さっきまで明るかったのに、もう暗くなっちゃった。
「急に雨? 変だな……まあいい、いったん馬車に戻ろう」
「待て」
え……?
全然気が付かなかった。誰、この人。いや、人じゃない?
角が生えてるし。
「な、なんで……! なんで【四天王】がここに……!!」
四天王?
「ほう……確かにこれは本物の【アルグラス】だ」
へぇ、その薬草アルグラスっていうんだね。
この四天王って人? は薬草目当てなのかな?
じゃあ僕達はここから離れた方が良さそう。
見た目怖いし。なんか剣持ってるし。
「じゃあ、僕達はこれで……」
「いや、知っている以上、生かすわけにはいけない。死んでもらおう」
「え」
え?
殺されちゃうの!?
どどどどどうしよ!?
「狼狽えるな……すぐに楽にしてやる」
「あ……ああ……」
これは……悪い夢だ。
僕は悪い夢を見てるんだ。
だっておかしいもん。貴重なはずの薬草が、こんなにあるはず無いし。
この四天王も、アレスの発言からしてここにいるような人じゃないんだろうし。
考えてみれば変な話だろ?
「う……あ゙あ゙あ゙ッ!」
「チッ、手間を取らせるなよ」
痛い、痛い。
こ、これは、夢だ、夢なんだ。
「に……逃げ、て……!」
「あ、ああ! ああ!」
せめて、アレスだけでも……
「ふむ」
「あっ……」
ア、アレス、アレスが……
どうして、どうして?
何で僕を先に殺さないんだよ。
何でアレスが先に殺されるんだよ!!
「考えてみれば分かるだろう。瀕死のお前は逃げられない。ならば、逃げられる前に殺しておくべきだとな」
「…………!!」
「さらばだ」
ああ……。
せっかく転生したのに、ここで終わるのか。
まだ何も……!
何も始まってないのに。
やっと自由になれたと思ったのに!
やりたかったこと、やれるって思ってたのに!
嫌だ。
死ぬのが怖い。死にたくない。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!
……そうだ。
あのとき。手術が成功していたら。
僕は今頃……退院して……お家に帰れて……。
それで、学校に通うんだ。
学校で友だちを作って……一緒に遊ぶんだ。
将来は……お医者さんになりたいとか、思うんだろうな。
体が冷たい。重い。
自分を感じない。
もう、眠いや。
「おやすみなさい、ショウ」
「うん、おやすみ」
◇
ふぁ〜あ、よく寝た。
まだ眠いなぁ。
「ショウ〜! 早く起きなさい!」
「…………もう起きてるよ」
「どうしたの? 浮かない顔して」
「いや……なんか夢を見た気がするんだけど……どんな夢だったかな」
「そんなことどうでもいいじゃないの。 今日から大学でしょう? しっかり勉強して、立派な医者になってきなさい。応援してるわ」
「…………うん」
よーし、なるぞ!
いつかの僕みたいな子供達を、救えるような医者に!!
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