祝福を受けたのは姉だと思い込んでいる彼らは本当の奇跡の子を見ない〜祝福に生かされていたのは実は逆だったと知った家族達は後悔する暇もない〜
双子が生まれた日、国から魔物が少なくなった。
特にとある村の中が。
周りは、全てから愛される容姿を持つ姉の方だと思い込んで、光から愛される愛し子として扱った。
妹は姉の光に押し潰され、いないものとして扱われた。
両親は姉を貴族に嫁がせる為に心血を注ぎ、妹には必要最低限しかしなかった。
その不幸の妹が私である。
そして、前世持ちである。
定番となりつつある転生をしてしまったが語る本人は別になんてこと思ってない。
へっちゃらだ。
「ってことなの」
切々と語る。
そこに何の感情もない。
「色々聞きたいことがあったが、問題なさそうだな」
せいじゅうとして生息している幼なじみのパッジィへ語りかける。
彼はこちらの感情を配慮して、ただただ聞いてくれる。
それは大変ありがたかった。
今まで無視されてばかり。
そんな人生だった。
彼はかつて前世で仲が良かった男だ。
「つか、お前だろ、祝福持ちは」
そう聞かれたが、そんなもの何のステータスにもならない。
「うん。そう。それが?」
「お前の方にあるって周りは考えねぇのか」
低い声音は確認を行う。
尤もな疑問だろう。
「どうやら姉のギフト、祝福は私依存の能力みたいで、私が居ないと能力を発揮出来ないみたい」
今まで見ていて、判明したこと。
「人の祝福を宛にするタイプのやつか」
サポート特化しているので傍目に姉が祝福持ちに見えるかもしれんが、本当は違う。
しかも、エルセリの魔力を得ないと発動出来ない。
無意識に人から魔力を奪うタイプ。
エルセリが与えねば日常生活だって出来ない。
双子という環境で生まれたからか知らないが、そもそも動くことも難しい姉は、動けているのは無意識に妹の魔力を得ていたからだ。
範囲は広いのでわざわざ近くに居ずともイイ。
でも、もし都会に行ってしまうとダメになる。
「なんでお前はなにも言わない」
少しぐらい言っても許されるだろうと言う意味だろう。
散々ないがしろにされてきたから。
そう言いたいのだろうか。
「んんー……今更言っても手のひら返されて不愉快だし、決めつけられたのなら、私も決めつけてしまおうかなって」
この国の断末を。
「くく、さすが」
彼は楽しそうに笑う。
自分も同じ気持ちだ。
「そうそう。姉の都会行きが決まったんだ」
「カウントダウンだろな」
人生のカウントダウン、運命のカウントダウン。
「そそ。その時どう考えるんだろうね?」
それが待ち遠しい。
「お前のせいにしないか?」
それについては、諸説ある。
「ないない。都会じゃ細かく祝福を鑑定出来る人がいるみたいじゃんか」
どのみちばれる。
その前にとんずらこく。
そうパッジィと話していたのだが、予想外の事が起きる。
なんと、姉が少し外へ出た時に運悪くモンスターが現れてざっくり姉を攻撃した。
貴族の嫁入りは無理になるような傷を負ってしまった。
エルセリでも無理だろうなと、他人事に思ったことをここに記す。
しかし、自分にも思うところがあって、姉が寝ている間に顔にほどこし傷を消した。
翌朝奇跡だと叫ぶ親、涙を流す姉。
治ったので、改めて貴族の嫁入りをすることとなった。
よしよし、これでこの村から離れてくれる。
改めて鑑定することになるから、その時姉は終わる。
貴族を騙した大罪者として。
家族も罪に問われる。
巻き込まれぬ為に自分は死を偽装しておく。
なんか町の人達はエルセリが死んだから傷が治ったとか、傷を治すために対価として命を奪われたと述べていた。
その想像、空想レベル。
両親が妹を蔑んだり差別していたことは知られているので、疑われている。
「しかし、魔物が居なくなる事と比べては」
町の人達は納得した。
でも、姉はそのまま嫁入りする前にギフトの鑑定を受けてとんでもない事実を知る。
「な!?」
両者が驚愕の事実に、唖然としていた。
「う、そ」
妹は自分が歩いて過ごしていることを普通だと思い込んでいた。
夢を見させていた。
だから、叶えてあげた。
バージンロードを歩いて向かうことは、永遠にないけど。
祝福がサブに特化していて、魔物を近寄らせてしまう能力を有していたことが発覚した。
発覚した後は、嘘つきとして貴族らに糾弾された。
「そんなはずない!何かの間違いよ!」
当然否定する。
もう一度やるようにとヒステリックな声。
アホはアホなことしかしないんだなとパッジィは笑う。
エルセリはほーっと息を吐く。
現在二人で観賞中。
見えないように祝福を使っているので気づかれない。
「なぁっ」
言っている最中に足が思うように動かなくなり、転ける。
かくんと。
唐突に力が入らなくなる。
魔力がなくなったのだろう。
そもそも姉は、生まれてくることがあり得ない存在なのだ。
形になる前に消える存在。
しかし、いたずらのように愛し子の双子が片割れだったから、奇跡的な体験を与えられた。
「お前は妹に生かされていたのだ」
真実を語られる。
「私は愛し子よ!」
その発言ももうおしまいだ。
当然、彼女はそんなもの信じるわけがない。
今まで自分が上位だったから。
「あ……れ」
急に声が掠れていく。
魔力により声帯が震えていて、それを以て生き長らえていたのだ。
声が出なくなり何度も口をぱくぱくさせる。
しかし、二度と己の声音を聞くこともなく、目も見えなくなっていく。
最後の慈悲として耳だけは残してあげた。
今までのお礼だ。
「まぁ、なんて無様なのっ」
「あんな欠陥が我が一族に入るなど!」
姉が嫁いだ親族や当主が、顔を真っ赤にして憤る。
既に籍を入れているので、飼い殺し後に病気となって処分されるだろう。
それまで残った耳で地獄を味わうと良い。
元両親は貴族を騙したので、一生鉄格子の中だ。
彼女の姉たる女は、目前が真っ黒になり体も動かなくなっていくのを嫌でもダイレクトに理解していた。
動きたいのに動けない恐怖に、こんな筈ではないと妹を罵る。
あの子はお情けで生まれてきた子。
姉のおまけだ。
親には愛されず、それは当然なのだと確定。
自分が愛し子で彼女は只の人。
生き方も扱われ方も違う。
王族とて己に頭を下げるべき。
(私は愛し子で!なんで!真っ暗よ)
夜になったわけでも火が消えたわけでもない。
双子の妹に生かされたという言葉が、耳にねちっこくこびりついて離れることはない。
しかし、叫ぶ声帯さえ二度と戻らないのだから、喉からなにかが漏れることはない。
(どうしてどうしてどうして)
何度も心の声が叫ばれる。
姉はひたすら愛されるべきなのは自分なのにと、まだ自分本位なことを叫んでいた。
そして、愛し子を間違えた両親も罰を受けていた。
「きゃあああ!」
姉が結婚式を挙げたあと、あんなことになった姉を放りさっさと家に帰ってきた男と女。
自分の子供がああなったのに、一切見ることも助けることもなく、位の高い人達に見つけられて責任を取らされる前に夜逃げしてしまおうというのが、見て取れた。
妻は叫び、夫が慌てて駆け寄ると妻の目から血が流れていた。
なにがあったのかと聞いても痛いと呻くだけ。
次は男の番──。
「見るの飽きた」
結末なんて、最初から分かり切っていたし。
「当然だろ。もうほぼ無関心になってるもんほど、つまらねぇよ」
男は笑う。
それならそうだ。早く言って欲しかった。
「あーあ、じわじわやり返せばまだ楽しめたのに」
そんなグチ。
パッジィの隣に居るエルセリはつまらないと、足をぷらぷらさせた。
「こんなもの見るよりも、さっさと祭りでも行けばまだ楽しめる」
誘われたので頷く。
「うん。行く」
記憶があって良かった、とるんるん気分になる。
「おれがお前を全部愛するからなにも気にするな」
愛してくれるらしい。
「うんっ!」
パッジィもまたこうして話すことが出来て、顔を緩ませている。
妹は姉のために祝福を使った。
けれど、だれもが喜んだのに妹を捨てた。
いいことをしたのに。
ならば、ならば……。
妹は家族を振り返らない。
二人は手を取り合って外へ出た。
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