手紙
最近、私宛の手紙が増えている。
恋文、なのだが全部「女性」からだ。中にはプレゼントもある。
何故だ?
男性から欲しいという事ではないが何故、女性からばかりなのだろう。新人大会も近い。気を引き締めなければならないというのに。
バンッ!
「おい、テオール!」
第2番隊の詰め所のドアを勢いよく開ける。
「隊長です」
「隊長!」
「何でしょう?」
「最近、私に女性からの手紙やらプレゼントが多いのだ。何故だ?」
「私に言われましても…ん?もしかしたら」
思い出そうとするテオール。
「何だ!」
思わずテオールの両肩を掴む。
「痛っ!手加減して下さい」
「すまぬ、つい。それで?」
素手で獣を倒す程の握力だ。それは痛い。
「第1番隊のミハエラと手合わせしたとき、ちょうど任命式の後で魔法院と看護見習いの女性の方々が城内を覚える為に近くを通ったんですよ。そのとき確かフリネラに視線が集まっていましたね。『かっこいい』とか『女性騎士様』とか」
「何だそれは!?」
「憧れ、ですかね?まあ、良かったじゃないですか。好意を持たれるというのは」
「そういうものか?」
「そういうものです」
「では、テオールにもいるのか?憧れている、好意を持つ女性が」
すごく気になってしまう。相手はテオールなのに?
「私は…ゴニョゴニョ」
「ハッキリ言え!男だろう」
「先に聞いたのはフリネラではないですか。あなたにはいないのですか?」
「いるぞ」
「だっ、誰ですか!?」
思わずイスを蹴飛ばして立って、転がしてしまった。
「軍神イシュミル様だ!騎士なら憧れるのが当然だろう。あの神話を読んだときは感動したものだ」
聞いた自分が悪かった…。
「隊長~、フリネラに聞いても無駄ですよ」
「そうですよ。フリネラですよ?」
同期のライネル・テハードとルシェルド・ファバルが笑いながら言う。二人とも地方出身組だ。
「お前ら何だ…。バカにしてるのか?夕食のハンバーグの挽肉になりたいか?それとも今から稽古でもするか?お前ら最近サボり気味だったからな」フリネラが目を光らせながら木刀でまな板を叩いている。
「悪かったって!お前は勇敢な騎士だって言いたかっただけさ」
「そうそう!」焦った二人が言う。
「それなら良いだろう」
挽肉も稽古もごめんだ。
何故かテオールはガッカリとして肩を落としている。
「どうした?テオール」
「隊長です…」
「ああ、ここにいましたか。フリネラさん」
そこにまた同期のユーリ・ネイラーが紙の束を持って入ってくる。
眼鏡を掛けた大人しく真面目な性格で、ライネル・ルシェルドと同じ地方出身組だ。頭が良いのだが家が貧しく、進学は諦めて騎士団に入団する事を決意。弟や妹の為に仕送りをしているらしい。
「どうした?」
「フリネラさん宛の手紙を預かってきました。ここに来るまで大変でしたよ」
ハハハと少し困ったように笑う。
大人しい性格だからきっと押し付けられたのだろう。
「すまないな」
「いいえ」
手紙を受け取る際に手がユーリの手に触れた。
それと同時に頭に映像が流れる。
『ー隊長!』
『ルオールか!良く生きていてくれた』
『隊長もご無事で何よりです』
『隊長!副隊長!』
『〜〜〜!お前、ケガを。見えてはいるのか?』
『問題ありません。それよりもここは危険です。あちらに避難しましょう』
『分かった』
行き着いた先には敵が待ち構えていた。
『どういう事だ』
『では、ご健闘を。お二人さん』
『裏切ったな、〜〜〜!!』
「フリネラさん?」
ユーリの声で我に返る。
「…悪い。ボーッとしていた」
何だ?今の映像は。
「そうだ。手紙だったな」
一通ずつ確認するがやはり女性達からの恋文ばかりだった。
「…ん?これは男性か」
「男性!?」
テオールが復活したようでこちらに勢いよく向かってきた。他の二人も興味津々で手紙を覗き込む。
「送り主は…ヒュース・フォン・バルロット!」
「バルロットといえば魔法四大貴族ではないですか!」驚くテオール達。
「そのお貴族様が私に何の用だ?」
手紙の内容を見てみると
『きみのことをきいてきょうみをもった。
きみのことをしりたい。はなしたい。おしえてほしい。さわりたい。きみのからだのすみずみまで。しらべつくしたい。ふかいところまで。みせてくれ。おねがい。まほういんでまってる』
まるで子供が書いたような文章だ。
「「告白だー!!」」騒ぐライネルとファバル。
「皆さん、隊長が息をしていません!」焦るユーリ。
「落ち着け、お前ら。これはおそらく挑戦状だ」冷静に間違うフリネラ。
その日の第2番隊の稽古は休みとなった。