赤い薔薇
フリネラの後を追いかけていくテオール。
部屋の鍵もかけず、ベッドの手前で転がっていた。
「フリネラ、大丈夫ですか?」呼びかけるが起きない。
「フリネラ?」
「うぅ…ルオールか?」
「今はテオールですよ。水を持ってきますから」
「テオール…」ぎゅっと後ろから抱きつく。
「私みたいながさつな女は嫌いか?」
「嫌いではありませんよ」
「酒豪だぞ」
「はい、飲み比べで負けました」
「素手で獣を倒したぞ」
「そうですね、そのおかげで食事に困りませんでした」
「お見合い相手に逃げられた」
「相手が浮気をする男だと聞いたのでおこったのでしょう。ほら良い女性ではないですか」
「ふ、ぐすっ…」
「あなたは皆の為に戦う勇気のある強い女性です。そこは昔から変わっていません。私は尊敬していますよ」
本当はこんなに繊細な人だとも知っている。それは自分だけが知っているだけで良い。
「私は食堂に戻りますね」
「嫌だ。私から離れないでくれ」フリネラに先程より強く抱きしめられる。
「私も男です。これ以上は保てません」
「知っているぞ、魔法院の女性と良い仲だと。他の隊員が話しているのを聞いたぞ」
「何ですか、それ?」
「薔薇園でプレゼントを渡していたとか」
「プレゼント…ああ!妹です。本当は任命式の後に渡そうと思ってたのですが、バレちゃいましたね」少し待っていて下さいと言って部屋を出ていくテオール。
戻ってくると、きれいな包み紙の箱を渡される。
「個人的なプレゼントなのですがどうぞ開けて下さい」
言われた通り開けてみるとそこにはきれいな赤い薔薇のブローチが入っていた。
「これを私に?」
「はい、女性へのプレゼントが思い付かなくて妹に相談していたんですよ」
「後は妹に魔除けを施してもらったのです」
「う…ふぇ」
「どうしたのですか?気に入りませんでしたか?」
「違う。男性からこのような贈り物をもらった事がなくて嬉しくて…」
「良かった、是非明後日の任命式にはこれを付けて出席して下さい」
「ありがとう」
テオールが食堂に戻ると皆が戦々恐々としていた。
「隊長、フリネラさんは?」
「酒に酔ってあとは寝てしまった」
「良かった、何か気に障るような悪い事をしてしまったかと思いまして」
「大丈夫だ。ただ稽古相手になる者は気を付けろよ」
次の日、第2番隊からは悲鳴が聞こえてきたと言う。