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ライナ・オルド

「ふぅ…。これでお祈りの儀式はおしまい。速く着替えましょう。それにしても今日もミディエラ様はいらっしゃらなかったわ。やっぱりミハエラ様から聞いたお話は本当なのかしら?」

一人、神殿で祈りを捧げていたライナ。暖かくなってきた今の季節でも服が濡れたままは寒い。お祈りのときは禊ぎの為、冷たい水で体を浄めるからである。

「いいえ。そんな事考えてはいけないわ。私は私で

聖女のお務めを頑張らないと!」


ライナ・オルド。

帝都の西にある小さな農村で生まれた。父親を流行り病で亡くし、母親は足が不自由で自由に動けない。他には幼い弟や妹達がいる。母親が働けない代わりに朝は早くから近所の牧場で家畜の世話。作物の収穫時期になると手伝いに行き、夜は遅くまで針仕事。家族全員の食費を賄うのも大変だ。

「済まないね、ライナ…ごほっごほっ!」

「良いのよ、お母さん。私は大丈夫。それよりも風邪なんだからちゃんと寝ていてね」

「ありがとう…」

「姉ちゃん、腹減ったー!」

「はいはい。今用意するからね」

「お姉ちゃん、ぬいぐるみの足が取れたー」

「あとで直してあげるから」

そんな忙しい日々が続いたある日。

母親の風邪が悪化して病気になった。医者に診せると長くはないかもしれないとの結果だった。

「…ライナ、あとは頼んだよ」

「お母さん!そんな事言わないで!」

涙を流しながら母の手を握るライナ。

「うっ、うう…」

もう神に縋るしかないのか。

神様…。

そうだ。聞いた事がある。山の上には聖女の祠があると。母の病気が治るのだったら何でも良い。こうなったら行くしかない。

それからライナは僅かな供物を持って通い続けた。険しい山道を登り、長年放置されたであろう祠もきれいに手入れをした。そして祈る。

母親の病気が治るようにと。その一心で。


通い続けて一ヶ月。

その日の夜、夢に白い百合を持った少女が現れた。

『あなたは…?』

少女は白い百合をライナに渡すとこう言った。

『お母さんの手を握って祈りなさい』

『待って下さい。あなたは聖女様なのですか?』

少女は黙って微笑むと消えていった。

渡された白い百合は手のひらにすうっと吸い込まれるように消えた。

「聖女様!」

夢から目が覚めると手の平が熱い。

「これは…」

何故かこれが聖女の力だと分かった。

急いで母親の寝床に向かう。相変わらず顔色が悪い。咳も続いている。

「…ライナかい?」

「そうよ。何で?」

ライナの頭に手を伸ばす母親。

「髪の毛が…色が白くなっているけどどうしたんだい?」

「え?」

近くにある鏡を手に取って見てみると確かにブラウンだった髪色が白くなっている。

「何で…?」

顔と瞳の色は変わっていない。

思い出した!夢の聖女様だ!

聖女様の髪色だ。

『お母さんの手を握って祈りなさい』

そうだった。髪色どころではなかった。

「お母さん、夢に聖女様が現れたのよ!」

「まあ、すごいわね…」

「本当よ!私、治せるかもしれないわ」

「そうだったら良いね…」

「やってみる」

そう言うと母親の手を握り締めて祈る。

『神様、聖女様。どうか母の病気を治して下さい』

すると、母親の体がしばらく淡く光ったと思ったら母親の顔色がみるみる良くなってきた。

「どう?」

「…不思議だわ。あんなに辛かったのに体が軽い」

「本当!?」

起き上がって立ってみると不自由だった足も治っているではないか。

「治ってる!治ってるわ。足まで!」

「ありがとうございます!聖女様」

この奇跡は瞬く間に村中に広がった。

「聖女様、父のケガを治して下さい」

「分かりました」

ライナが祈りを込めるとケガが治った。

「痛くない!ちゃんと動く。ありがとうございます、聖女様!」

「私は聖女ではありませんよ」

「いいえ。この奇跡は聖女様にしかできません。これは私の村で採れたリンゴです。王室にも献上していますので味には自信があります」

「そんな立派な物なんて受け取れません」

「良いんですよ。これでまた仕事が再開できます。どうか受け取って下さい」

「それでは…」

今や、村以外の所からも聖女の奇跡を求めてライナの所にやってくる。


それは領主のラデル男爵の耳にも届いた。

「これをどうにか利用できないものか…」

コンコン。

そこにドアをノックする音が。

「何だ」

「お父様。私、街に出掛けて来ますわね」

娘のミディエラだった。ラデル男爵は一人娘のミディエラを大層可愛がっている。その為、自由奔放に育ってしまった。

「おお、ミディエラか。そうだ!お前が聖女になれば良いのだ」

「聖女?」

こうして話は帝都まで伝わり、二人は城に招かれる事となった。

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