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聖騎士

ついに決勝の日。

会場は熱気に包まれ、大盛り上がり。自然と気合いも入るものだ。

今日は陛下もいらっしゃるらしい。

これは是非とも優勝しなければ。


「やあ、久しぶりだな。我が因縁のライバル、フリネラ。見たよ、準決勝。さすが赤獅子と呼ばれるだけあって獣みたいだったね。とても女性とは思えない姿で驚いたよ。おっと、失礼」

対戦相手、第1番隊のミハエラ・フォン・ハイリッヒだ。お貴族様は戦う前に嫌味でも言わないと死ぬのか?どいつもこいつも。

それに勝手にライバルにするな。

「それはどうも。あれでも全力じゃないんだけどな。こわくなって棄権するんじゃないかと心配してたよ。ちゃんと来れて良かったですね。偉い、偉い。ねぇ、お坊ちゃん」

あー、スッキリした。これくらい返してやらねば。

ミハエラはこちらを睨んでふるえている。

どうやら嫌味の返しが効いたらしい。

それもそうだ。自分より下だと思っている、しかも歳下の女に言われるのだから。

「絶対に勝つ!そしてさっきの言葉は撤回してもらおう」

「こちらも負けるつもりはない。私が勝ったら女装でもして謝ってもらおうか」

睨み合う二人。


「決勝。第1番隊ミハエラ・フォン・ハイリッヒ対第2番隊陸軍フリネラ・フォン・テスミール。始め!」

キンッ!

早速、ミハエラから攻めてきた。

「フンッ!」

こちらからも攻める。

さすが期待のエースと呼ばれるだけはある。私の大剣を受け止めるとは。以前の手合わせのときよりは強くなっているようだ。

ヒュッ!

カンッ!

ビュンッ!

キィンッ!

二人の素早い打ち合いは続いた。

観客席は二人の戦いを固唾をのんで見守っている。特に第1番隊と第2番隊。この二つの部隊は何かと張り合っている。

第1番隊は貧弱な貴族の集まりだとか第2番隊は粗野なマナー知らずの集まりだとか。くだらない。そんな事に巻き込まないでほしい。私はこの生意気なお坊ちゃんを叩きのめしたいだけなのに。


それからも二人は譲らず、決着はまだつかない。

「見ても分かるが話によると、今年の新人は頼もしい者ばかりだな。これは将来が楽しみだ」

「はい、陛下」

こんなに楽しそうに見える陛下は久しぶりだ。

「特に赤獅子、フリネラといったか?あのように小さな体で何とも健気な…」

その目は孫を見るおじいちゃんのように優しい。皇后陛下がいなくて良かった。皇后陛下は昨年産まれた孫(女の子)を溺愛している。「世界一の可愛さ。孫以上の子はいない」と言うほど。ここにいたらどうなるか。心の底から「神様ありがとうございます」と感謝する宰相なのだった。

その一方。

「そろそろ降参したらどうだ?山に帰って狩りでもしていろ」

「そちらこそ息が上がっているぞ。第1番隊恒例のお茶会の時間じゃないか?それに狩りなら今している」

これではいつになっても決着がつかない。

そのときだった。

「ギィエエエーッ!」

奇声を上げて空から怪鳥が試合会場に現れた。

「何だ!?」

「あれ、アヴォーグじゃないか?」

「何でこんな所に現れたんだ?」

アヴォーグとは巨大な赤い鳥の魔獣だ。飛ぶ速さと鋭い爪が特徴で捕まったらズタズタにされて食べられてしまう。普段は「死の森」と呼ばれる獰猛な魔獣が集まる場所を住処としている。そんな魔獣が何故ここに?

これは試合をしている場合ではない。

「第1番隊は陛下と皇族の方達をお護りしろ!」

第1番隊隊長が叫ぶ。

「第2番隊は速やかに避難の指示を!第4番隊も城内に避難させろ。陸軍は迎え撃て!」

テオールは観客達を避難させる。

「空軍もだ!陸軍と共に攻撃開始」

第2番隊空軍隊長フォドル・フォン・ラリーも指示をする。

「第3番隊は防御魔法を発動!避難する者を補助するんだ」

魔法院院長は自らも防御魔法を発動させる。

各部隊、アヴォーグに向かって攻撃をするが当たる前に弾かれてしまう。

「攻撃が当たらない!?」

「どうしてだ?アヴォーグにそんな特性はないはずだ」

焦る隊員達。

「ミハエラ、フリネラ。お前達もそこを離れろ」

そう言われ、一時退避しようとするが何かの壁に阻まれているようで出れない。叩いてみても剣で斬ってみても効果がない。

「何だ、これは!?」

どうやらミハエラも同様らしい。

「特殊な結界で僕達だけが閉じ込められたのか?」

「何の為に誰が!?」

「知るか。確かなのはこのままだとアヴォーグのエサになるという事だ」

「ミハエラ、フリネラ!」

テオールと各隊長達が結界を壊そうと試みるがやはり効果はなかった。


「ふふふ…。焦ってる、焦ってる。良い気味だわ。この私に屈辱を与えた罰よ。まさかアヴォーグが来るとは思わなかった。まあ、ミハエラさんも巻き込まれてしまったけれど恨むならその女を恨みなさい」

「おや、こんな所にいたんですか?ご機嫌よう。ネイリンさん」

「貴方は…確かあの、の…」

「そうです。見て下さったんですね。それよりもお体の調子はもう良いのですか?ああ、愚問でしたね。こうして元気に悪巧みをなさっているんですから」

「大きなお世話よ。何?私を捕まえにいらしたの?」

「そうですね…。このような騒ぎを起こして陛下を危険に巻き込んだのですからタダでは済みませんね。このように魔法珠にも記録させて頂きました」

ニコニコとポケットから魔法珠を取り出してみせる。

「くっ…。何が目的?」

「話が速くて助かります。これはただの復讐ではありませんね。あなた程度の力ではあの魔獣も結界も使えない。裏にどなたがいらっしゃるんですか?話さなかった場合、あなたはここで捕まりこの魔法珠が証拠となって一生牢屋暮らしか反乱を起こしたとして極刑。さあ、どちらにしますか?」

「分かったわよ…。手当てを受けて会場に戻ろうとしたとき黒いローブの男からこれを使うと願いが叶うと渡されてこの計画を聞かされたわ。お互いの利益になると。その男の顔は見えなかったから誰かは知らないけど『魔王ルシウスの遣い』って名乗っていたわ。本当よ!」

ネイリンの手には黒い欠片。

「ほう…という事はそれは『魔王ルシウスの角の欠片』ですか」

「知っているの!?」

「ええ、知る人ぞ知る呪術界最高の逸品ですから」

「じゃあ、私は話したからもう用はないわよね?」

「ええ、大して役に立たない情報をありがとうございました。時間の無駄でしたね」

「何ですって!?」

憤るネイリン。

「良いんですか?今の話を報告しても」

ニヤニヤと笑いながら魔法珠を見せる。

「フンッ!」

その場を立ち去るネイリン。

「本当にモノの価値を知らない貴族のお嬢様だ。食べ物もなく泥水を啜るような貧しい暮らしなど想像もつかないだろうな、あの頭では。さて、後はどうするのかな。フェリージェ(・・・・・・)さん?」


「ハアッ!」

「ギィエッ!」

「うっ!」

ミハエラが攻撃するが歯が立たない。

「ハアッ!」

今度はフリネラが剣を振るうが飛んで避けられてしまう。

「火の精霊よ、我に力を。火炎球!」

これも避けられてしまう。

「当たらないか」

「飛ばれると厄介だな」

「おい、さっきみたいにその剣を変形できないのか?」

「無理だ。あれ以上使うと死んでしまう」

「役に立たないな。では、お前を囮にして僕が倒す」

「何を考えている!?私をエサにするつもりか!」

「もうそれしかないだろう。あの()のような力が使えないのなら」

「だからといって…」

そうだー。

「…ミハエラ、確かお前殿下の従兄弟だったよな?前に自慢していただろう」

よく第2番隊に来ては偵察も兼ねて自慢話をしていた。いかに自分がすごいかと。

「そうだが。けど自慢はしていない。今それが何の関係がある?」

「だったらできるかもしれない」

「何をだ?」

ミハエラが問い掛けたときアヴォーグがこちらを目掛けて真っ直ぐ飛んできた。

「フンッ!」

フリネラが剣でアヴォーグの片目を深く突き刺す。

「ギィエェェッ!!」

目を刺されたアヴォーグは地面に落ち、バタバタと暴れている。

「これで少しは時間を稼げるか。お前、何故フェリージェ…私が『赤い獅子』と呼ばれているか知っているか?」

「それは髪の色が赤いからと瞳が金色だからだろう?次々と敵を狩る姿と圧倒的な強さはまるで獅子のようだと。気に入らないが」

「理由はそれだけではない」

フリネラはそう言って制服のボタンを外し始める。

「おっ、女が男の前で堂々と服を脱ぐな!」

頬を赤く染め、焦るミハエラ。

「これを見ろ」

それに構わず襟元を開けて見せるフリネラ。

「…それは?」

フリネラの首の周りには複雑な模様の刺青が彫られていた。

「これは『封印の首輪』といって獅子の力を封じ込めておく為のものだ。そしてこれは皇族の人間でないと解けない。その血筋が流れているミハエラ、お前なら解けるかもしれない」

「僕に?もし解けなかったら…」

「二人で仲良く鳥のエサになるだろうな。だが、やってみる価値はある」

「分かった。だけどもし失敗したとしても文句は言うなよ」

「ああ。では始める。ミハエラ、聖水は持っているな?」

「もちろん持っている」


この帝国では皇族は始まりの神、ガルディアの子孫であるとされている。その為、第1番隊は皇族に仕えるのは神に仕えるという思想を持っており宗教色が濃い。第1番隊の女性は全員シスターであり、戦闘には出ない。代わりに修行は厳しく、なれる者も少ないのだ。そんなシスターが祈りを捧げた聖水。

「その聖水で剣を清めろ」

言われた通りに聖水を剣に掛ける。

「剣をこちらに向けて私の言う事を同じように続けて言え」

聖水で清めた剣をフリネラに向ける。

「我が名はミハエラ・フォン・ハイリッヒ。始まりの神、ガルディアの血を継ぐ者である」

続けてミハエラが言う。

「我が名はミハエラ・フォン・ハイリッヒ。始まりの神、ガルディアの血を継ぐ者である」

『神より賜りし我が偉大な祖国に仇なす悪しき者に正義の鉄槌を。今、ここに戦いの神イシュミルの眷属・フィンネルの目覚めを願いたもう』

言いおえると同時にフリネラの首輪が消え、周りが一気に火で包まれる。

「フリネラ!」

火が収まるとそこには燃え盛る炎のような真っ赤な毛色をした獅子がいた。

「フリネラ…なのか?」

『行くぞ、ミハエラ。乗れ』

恐る恐る背中に乗る。

「ギィエッ…!ギィエエエッ!!」

ちょうどアヴォーグが錯乱状態から復活したところだった。

『しっかり掴まれよ』

血を撒き散らしながらこちらに飛んでくるアヴォーグ。

『こちらも行くぞ。まずは翼を斬り落とせ』

走り出すフィンネル。

「えぇいっ!」

ズシャアッ!

「ギィエエエッ!!」

上手く片方の翼を斬る事ができた。

『よし。良くやった』

「当たり前だ。僕を誰だと思っている?」

顔に付いた返り血を拭く。

しかしアヴォーグは片方の翼だけでも飛んで攻撃を仕掛けようとしてくる。

「上から来るぞ!」

『分かっている』

フィンネルは地面を蹴り上げ、飛ぶと口から炎を吐いた。

暴れるアヴォーグ。

それを前足で叩き落とす。

「お前、飛べるんだな…」

『それよりとどめだ。首を狙え』

「わっ!」

下に降りるときフィンネルからフリネラに戻ってしまった。

ドスンッ!

「痛い…おいっ!何で急に戻るんだよ!?」

「無理を言うな。正当な皇族の契約でないと長時間は保てないんだ。私もどのくらいかは分からないんだ!」

言い争いをしている場合ではない。速くとどめを刺さねば。

「行くぞ!」

「待て!僕がとどめを刺すんだ」

「どっちでも良いだろう」

結局、二人で首を落とした。

そうするとようやくアヴォーグは動かなくなった。

同時にスッと結界が解ける。

「全く、アヴォーグの襲来に解けない結界と。何だったんだ?」

「知るか。僕はアヴォーグよりお前を倒したかったのに。無駄に疲れた」


『…』

複数の視線を感じ、周りを見ると立ち尽くす各隊長達。

それはそうだろう。

あの光景を見たら誰だってこうなる。

何せあの伝説のフィンネルだ。

「あ、あれは…」

フリネラがどう言おうかと焦っているとそこに何と皇帝陛下が現れた。

「陛下!?」

避難していたのではなかったのか。

「皆の者、陛下の御前ぞ」

宰相の声に皆、頭を垂れ拳を胸に当て膝をつく。

「ミハエラにフリネラよ」

「「はっ!」」

「此度は大義であった」

(わたくし)、ミハエラ。一騎士として陛下をお護りできた事、誇りに思います」

「勿体なきお言葉でございます」

それぞれ陛下の言葉に答える。

「うむ。二人の見事な働きに『聖騎士』としての称号を与える事にする」

「聖騎士…!?」

隊長達がざわつく。

聖騎士とは新人騎士に与えられるような称号ではない。戦で武勲を立てたなど国に大きく貢献した隊長クラスに近い者が与えられるものなのだ。それが新人になどあり得ない。

「陛下、良いのですか?このような者達に…」

後ろに控えていた宰相が声を上げる。

「儂の言う事に何か異論でも?この儂の命を救ったのだぞ」

鋭い声がする。

「いっ、いいえ。とんでもございません!陛下のお言葉の通りに…」

さっきまで影からオロオロとしながら「ああ、ああ…」などと初めて立ち上がろうとする孫の赤ちゃんを見守るようなおじいちゃんみたいだったのに。この声は心の中にしまっておこう。宰相は頭を下げながら思った。

「他の者も異論はないな?」

『はっ!』

隊長達の承認も得られた。

「第1 番隊ミハエラ・フォン・ハイリッヒ。ありがたく拝命致します」

「第2番隊陸軍フリネラ・フォン・テスミール。ありがたく拝命致します」

深く頭を下げる。

「これからの活躍に期待する。そして第1番隊隊長、魔法院院長」

「「はっ!」」

「今回の襲撃、何者かの企みであろう。調査を命じる」

「かしこまりました」

「承知致しました」

「それと今日見た物は『新人騎士二人が力を合わせて獅子奮迅(・・・・)のごとき活躍で魔獣を倒した』という事実のみだ。良いな?」

フィンネルの事は黙っていろという陛下の計らいだ。狙われても困る。私としても正体を隠したいのでありがたい。

これには全員が賛同した。


「チッ。死ななかったじゃない。それにミハエラさんはともかくあの獣が聖騎士ですって!?本当に面白くないわ!役に立たないわね。あの呪物」

「あの呪物とはこれの事ですか?ネイリンさん」

「貴方、それ…!だから死ななかったのね」

「おかげで面白い物が見れました」

「私は全然面白くなかったわ!」

「あなたのような頭空っぽのお嬢様には理解できないでしょうね。本当の復讐という意味を」

「何よ。頭だけが取り柄の貧乏人風情が!」

「黙れ!ゴミクズ」

そう言うとネイリンの足元に穴が開き、悲鳴と共に落ちていった。

「ゴミはゴミ箱へ。当然の事です。さようならクズリンさん」

ふふっと笑いながら消えて行った。


後日行われた閉会式ではミハエラと私は同時優勝という形になった。それに加えて聖騎士の勲章が授与される。大変喜ばしい事なのにミハエラは微妙な顔をしていた。どうやら同時優勝という事が気に入らなかったらしい。でも陛下がおきめになった事だ。文句は言えまい。

その後、第2番隊陸軍でも慰労会が開かれた。

「おめでとうございます。フリネラ」

テオールから花束を渡される。

「ありがとう」

「すごいですね。聖騎士なんて」

ユーリが目を輝かせて言う。

「まだまだだ。これからも精進せねばならぬ」

「今でさえ敵わないのにこれ以上強くなったらどうなるか」

「もう人間じゃないぞ。確かゴリネラだったか?」

「ゴリネラだ。ハハハハッ!」

酒が入っているからか口が軽くなるライネルとルシェルド。

「…お前達、早々に負けてなかったか?まだ訓練が足りなかったようだな。そんなにゴリラがお望みなら代わりにお相手しよう。本当のゴリラでなくて申し訳ないがな」

目がこわい。獣の目だ。

「いっ、いや…」

「逃げろ。ライネル!」

「待て!」

逃げる二人を追いかけるフリネラ。

「楽しそうで良いですね」

「楽しいのか?」

少しずれているようなユーリに見守るテオール。フリネラが暴れて物を壊さない為にだ。

「なかよくていい」

「ヒュースさんいらっしゃったんですか」

「フリネラがよんでくれた」

気付くと隣で料理をモグモグと食べていた。フリネラが「たくさん食べる事も強くなる為に大事だ」と無理矢理押し付けたのだが。

「…きみ、やみのにおいがするね」

「ヒュースさんの藁人形じゃないですか?おかげで助かりました」

ニコニコと答えるユーリ。

「ふーん…」

嫌いなトマトをしっかり避けて食べるヒュースだった。

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