思いやり
『ライル皇子殿下!どこですか!?』
城内を探すが見当たらない。もうすぐ講義の為に教師が来る時間だというのに。
第2皇子ライリンネル・ディ・ヴァシリス。
フィオーネ伯爵家のご令嬢、シェンラ妃を母親に持ついたずら好きな皇子だ。フィオーネ伯爵家は音楽一家でライル皇子はピアノが得意、その母親のシェンラ妃の歌声は「芸能の女神メルディオーネ」も嫉妬するだろうと言われるほどの美声。建国記念パーティーでお祝いの歌を披露したところ、陛下に見初められ、その美貌と共に第2王妃として迎えられた。
『また、愚弟が脱走したのですか?』
そこにライル皇子の兄、第1皇子ディヴィエール皇子・ディエル皇子殿下がやってきた。
『これはディエル皇子殿下。本日も…』
『ああ、堅苦しい挨拶はいらないよ。時間の無駄だ。それに僕の名前はディヴィエール・ディ・ヴァシリスだ。ディヴィエール皇子殿下と正しく呼ばないとね。それも分からないで第1番隊隊長を務めているのかい?本当にその力量があるのか疑わしいね』
ここは我慢だ。陛下直属の護衛が仕事だが相手は皇子。ライル皇子の護衛も陛下直々の命令だ。
『失礼致しました。ディヴィエール皇子殿下』
『分かれば良いよ。君の頭でも理解できたようで良かった。では僕は父上に呼ばれているから行くね。君達みたいに遊んでいる暇はないんだ。それでは隠れんぼ頑張ってね、鬼さん。間違えた。鬼人さんか』
クスクス笑いながら去っていく。
生意気な皇子だ。
小さい頃は『遊んで、遊んで』とか『ディエルって呼んでくれないと嫌だ』とか無邪気で可愛らしかったのに、だんだんと憎たらしい性格になってきた。見下すような態度は自分が次期皇帝だと疑わないからだ。シェンラ妃も正妃の座を狙っているのだろう。この様子だとディヴィエール皇子に期待を寄せて色々動いているに違いないと見える。
第1王妃には皇女が二人で皇子はいない。第3王妃にもまだ皇子はいない。だから余計にそう思うのだろう。
今はそんな事を考えている場合ではなかった。ライル皇子を探さなければ。これでは私の責任問題とされてしまうし皇子に危険が及ぶ可能性もある。
『城内でないとすると外か』
外を探していると丁度、庭師がいたので聞いてみた。すると植物園の方に第1番隊の制服を着た、大柄で茶髪の男と歩いていくのを見たと言う。第1番隊の大柄で茶髪の男…。
もしやと思い、植物園の扉を開けるとやはりライル皇子と第1番隊副隊長ルオール・フォン・レニーがいた。
『ライル皇子!それとルオール!何をしているのですか!?』
私の声に驚いた二人が慌てて身を隠す。
『隠れても無駄ですよ。二人とも出てきなさい』
渋々と姿を現す二人。
『ライル皇子、こんな所で何をなさっているのですか?もうすぐお勉強のお時間ですよ。それにルオール、お前もだ!』
『フェリージェ!ルオールを責めないで!』
ライル皇子がルオールを庇うように立つ。
『いいえ、私が言い出した事です。ですからライル皇子は悪くありません』
今度はルオールが庇う。
『どういう事だ?』
『ライル皇子は隊長の誕生日にプレゼントをお渡しして喜ばせたかったそうです。それで普段からよく一緒にいる私に相談をされました。私が相手は女性ですからお花をプレゼントしてはいかがかと提案したのです』
モジモジとするライル皇子。
そうか。今日は私の誕生日か。
『ライル皇子…』
思わず感動してしまう。
どこかの可愛くない皇子とは大違いだ。
『二人で大量の薔薇を持って隊長を驚かせようとしていたのですがバレちゃいましたね』
苦笑いするルオール。
『ライル皇子。フェリージェはそのお気持ちだけでも充分嬉しいです。今までで一番の誕生日になりました。ありがとうございます』
膝をつき、ライル皇子に目線を合わせて手を取る。
すると皇子はボロボロと涙をこぼし始めた。
『どうなさったのですか!?』
突然の事にオロオロとする大人達。
『僕も…いつもお母様とお兄様から守ってくれてありがとう』
気付いていたのか。
実はライル皇子は母親のシェンラ妃と兄のディヴィエール皇子から嫌がらせを受けていた。それは命に関わる事もあった。
何故ならライル皇子は陛下の本当の子供ではない。陛下の弟、ミッシェル殿下の子供だからだ。
その事に気付いたのは夜の見回りをしていたとき。シェンラ妃がミッシェル殿下の手を引いて自分の部屋に招き入れているところを見てしまった。これは不味い。信用のおける部下と侍女に二人の動向を探るように命じると衝撃の事実を掴んだ。
元々、シェンラ妃は夜会で見掛けたミッシェル殿下に惚れていたらしく、対してミッシェル殿下は大の女好き。色々な令嬢と関係があったらしい。殿下にとっては新しい遊び相手ができたくらいの感覚だろう。毎晩のようにシェンラ妃の相手をしていた。そこで侍女に映像も記録できる魔法珠を部屋に分からないように仕掛けさせた。暫くしてから魔法珠を回収し記録を見てみると驚く会話が撮れていた。
『貴方の子供ができたの』
『兄貴の子供じゃないのか?』
『最近、陛下のお相手はしてないわ』
『だったら今夜からでも誘ってみたらどうだ?お前なら簡単に落とせるだろう。兄貴の子供として産むんだ。後は邪魔になったら消せば良い』
『できるかしら?』
『香に幻覚作用のある物を用意させる。大丈夫だ。命に別状はない。それを使うんだ』
これは決定的な証拠だ。
急いで宰相に報告をする。だが、魔法珠は壊され『命が惜しければ黙っていろ。コソコソ動いていたネズミ共も見殺しにしたくはないだろう?』と言われた。やられた。先に手を回されていたとは。おそらく宰相も家族を人質に取られているのだろう。
こうなったら産まれてくる皇子を守るしかない。
注意深く様子を見ていると、始めは可愛がっていたが兄の方が出来が良く、次期皇帝に相応しいと周りから言われると兄の方を特別に可愛がり、弟は特別学業などに才能が感じられなかった為、相手にしなくなった。時には虐待とも取れる行為もあった。それを見て笑う兄。優越感を感じていたのだろう。その兄は遊んでやると言って危ない目に遭わせる事もあったが見張っていたので未然に防げた。
こうしてありとあらゆる危険から守ってきた。
『さあ、これで拭いて下さい。ここまで無事に成長なさいました。皇子は強いお方です。例え、フェリージェがいなくなろうとも真っ直ぐな心をお持ちになって障害を乗り越えていって下さい』
いつ口封じに消されるか分からない。まあ、簡単に殺されはしないが他の関係者に危険が及ぶ可能性がある。そうなると周りには皇子を守れる者がいなくなってしまう。ハンカチを渡して言うと皇子は抱きついてきた。
『やだっ!フェリージェは僕のお嫁さんになるんだ。だからいなくならないで!』
いきなりのお嫁さん宣言にビックリする二人。
『いやっ。待って下さい!』
そう言って急いで薔薇を1本摘んで渡してくるルオール。
『私はこれです…!』
『ああ、ありがとう…』
『ずるいぞ、ルオール』
意味に気付いた皇子は5本摘んできた。
『僕はこれ!』
『ありがとうございます…』
そこから二人による薔薇の争奪戦が始まった。皇子も皇子だが子供相手に大人気ないぞルオール。
そうしている間に私の手には抱えきれないほどの大量の薔薇が集まった。
『これはどうしたら良いんだ?』
『『あー…』』
ようやく止まった二人の争い。
結局、植物園の管理人には荒らしてしまった事を叱られ、講義はサボってしまったので教師からお説教をされた。三人仲良く揃って。
ジリリリ…。
目覚まし時計の音で目が覚める。
「夢か…」
懐かしい夢だった。
「そういえば薔薇の本数で競っていたが何の意味があるんだ?」
不思議に思い、書庫に寄って調べた。
1本は『ひとめぼれ、あなたしかいない』
5本は『あなたに出会えて本当に良かった』
「私もですよ…皇子。最後までお護りしたかった」
あの日に私は死んでしまったから。
そっと本を閉じた。
今日は薔薇を8本持ってお墓参りをしてから詰所に寄ろう。
『あなたの思いやりに感謝します』




