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天然な悪魔と正義の天使

「おっ。次はヒュースの試合か」

試合をおえたフリネラが戻ってきた。

「お疲れ様です。スゴい試合でしたね。色々な意味で…」

ユーリが話し掛ける。最後は小声だ。

「ああ、少し疲れたな。お嬢様のお相手は」

お嬢様ことネイリンはカツラの一件から「カツリン」と裏で呼ばれていた。日頃から良く思われていなかったらしい。さきほど第3番隊の女性隊員達の近くを通ったら話し声が聞こえた。第3番隊はローブを羽織っているのですぐに分かる。

こちらを散々「ゴリラ」呼ばわりしたのだ。少しはこの不快感を味わうと良い。


「始まりますよ」

ユーリの声で意識を試合に戻す。

「第12試合。第1番隊ルーベル・フォン・ハント対第3番隊魔法院ヒュース・フォン・バルロット」

ルーベルは自信満々の顔。対してヒュースはやはり無表情。

「お前があのルシウスの落とし子か。暗いし青白い顔してるな。おまけにヒョロヒョロ。俺の勝ちだな」バカにするルーベル。

「えーと…。きみのなまえ、なんだっけ?」

「ルーベル・フォン・ハントだ!ハント伯爵家の長男だぞ。ちゃんと覚えておけ!」

「ふーん。ぼくのいえ、こうしゃく(公爵)」

「ぐっ…!」

悪意はないがダメージを与える天然ぶり。

「それにぼく、きょうみのないひとのなまえっておぼえられないんだよね」

「バカにしやがって!」

先にバカにしたのはお前だろう。


「どうせ、魔法が他よりちょっと使える剣も握った事のないお坊ちゃんだろう?」

「あるよ」

「強がるなって。おもちゃみたいな剣で遊んだくらいのレベルじゃないか?ハハハハッ!」

「いいよ。そこまでいうならみせてあげる。おいで、ガデス」

そう言うと、ヒュースの近くの空間が歪み、ズズズ…と巨大な黒い鎌が出てきた。柄の上部には髑髏の装飾がしてある。

「ガデスメルディニュウス。けんではないけどおなじいのちをかるもの。これはね、むかししょけいだいでつかったはをざいりょうにしてつくられたものなんだ。ざいにんのさけびとちをすって、ねんがこもっているさいこうのいっぴん。もちぬしはのろわれるらしいけどだいかんげい」

嬉しそうに(見える)鎌を撫でるヒュース。

「悪趣味だな。やはりお前は悪魔だ!」

剣を構えるルーベル。

「このぶきのよさがわからないなんてざんねんだよ。それにぼくはにんげん。もしかしてめがわるいの?」

ヒュースが鎌を持つと悪魔というより死神に見える。どちらも失礼か。


「うるさい、成敗してやる。ハッ!」

斬りかかるルーベル。

それを鎌で受け流し、ルーベルの頭上を軽々と越えるヒュース。

「クソッ!」

再び攻撃を仕掛けるがそれもかわされる。

何度挑んでも同じ。

「卑怯だぞ!逃げてばかりの腰抜けめ」

「きみ、あたまもわるいの?」

「何だと!?」

「ぼくがただにげているだけだとおもってるの?」

「その通りじゃないか」

「そう。じゃあこれは?」

ヒュースが片手を上に挙げる。

「!?」

同時にルーベルの片腕が動く。

「何で勝手に動くんだ!?」

「ほら」

また、二人とも同じポーズになる。

「ほら、ほら」

まるでルーベルは操り人形のように動く。

「どうして!?」

「こっけいだね。まだわからないんだ。これならどう?雨の神マジェンラよ。この地に恵みの手を差し伸べたまえ。その慈悲深き涙は水晶となりて大自然に降り注がん。虹の衣を纏いてその美しき姿をこの空に輝かしく映し出せ。あ〜、降る量は短めで」

何だその床屋の注文みたいなお願いは。

それにしても高度な魔術だ。

天候を操る魔術はそう簡単にできるものではない。

詠唱がおわると空が曇り、本当に雨が降りだした。だが、暫くすると止んだ。寛大な神様だ。

「これは!」

ルーベルの体には光の反射でキラキラと輝く雨粒の付いた蜘蛛の糸が張ってあった。それはヒュースの指まで続いている。

そう、言っていた通り逃げていたのではない。ルーベルの体に幾つもの蜘蛛の糸を張っていたのだ。

「わかった?そろそろあきたからおわりにするね」

ヒュースが手を動かすとルーベルの握っている剣が糸によって自身の首に向かって刃が近付く。

「うぐっ…!」

このままでは殺されてしまう。

「どうする?」

「こ、降参だ…」

「勝者、ヒュース・フォン・バルロット!」


勝敗がきまるとヒュースはガデスメルディニュウスでルーベルに巻き付いた蜘蛛の糸をブチブチと切る。この糸は頑丈なので普通の剣では切れない。

「じゃあね、テーレベル」

「俺は低レベルではない!ルーベルだ!!」

もう一度言う。ヒュースは真面目に間違っているだけで悪意はない。

「何度もバカにしやがって…」

怒りが頂点に達したルーベルは帰ろうとするヒュースの背後に斬りかかろうとする。


カンッ。


剣が飛ばされる。

「お辞めなさい。勝負はもうついています」

女性の声がする。見ると、目の前に眼鏡を掛けた三つ編みの女性が剣を持って立っていた。着ている制服からすると第4番隊の隊員だ。

「俺はっ!!まだ…」

「それ以上は第1番隊の品格を落とします。仮にも騎士を名乗るならそのような見苦しい真似はしない事です」

「うるさいっ!お前に何が分かる!?」

「私は最初、第2番隊に入る事を希望しておりました。騎士になると一生懸命な兄に憧れて。ですが毎日ボロボロになって帰ってくる兄を見て、力を癒やす為に使おうときめました。兄の為、傷を負った多くの方達の為。幸い、治癒能力は持っておりましたので」

「だから何だ」

「ですから私の騎士像をこれ以上汚さないで頂きたい。貴方に今必要なのは負けを認める勇気と治療です。自分の体をよくご覧なさい」

「え…?」

ルーベルが自分の体を見ると、服は上から下まで切り刻まれたようにボロボロになっており、中から血が流れていた。戦いに夢中で痛さを忘れていたようだ。

「相手の方が手加減されたのでしょう。そうでなければ貴方の体は今頃バラバラになっていたでしょう。さあ、行きますよ」

剣を納めるとルーベルの手を引き治療所に連れていく。

「くちのわるさもなおしてもらったら?ともだちふえるよ?」

「うるさい!!」

ヒュースはとどめの一撃を放った。


「素晴らしい剣さばきだな。第4番隊にしておくのはもったいない」

フリネラが感心したように言う。

一方、テオールは頭を抱えていた。

「どうした?テオール」

「あれ…俺の二番目の妹です」

「そういえば任命式で一緒にいたな。お前の妹だったか」

「あいつ…エミールは小さい頃から正義感が強かったんです」

「良い事ではないか」

「いいえ、強過ぎるんです。曲がった事、卑怯な事、不正は大嫌い。昔、俺に度々嫌がらせとケガを負わせてきたガキ大将の家に行って親子共々ボコボコにしました。精神的にも。どういう教育をしているのかと。その後、エミールの話を知り、やり過ぎだと思った両親が謝罪に伺ったんですがその家族は遠くに引っ越した後でした」

「そ…そうか」

さすがのフリネラもそこまではできない。

「今回もあの勢いだと第1番隊隊長に直訴しに行くつもりかもしれません。止めに行ってきます」

「が、頑張れよ」

フリネラにはそれしか言えなかった。

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