友達
その日、フリネラは非番だった。ユーリは休みを取り、ヒュースからの呼び出しに備える。二人で目立たないようにあまり人が来ない植物園で待つ事にした。
「そろそろだな」
手元の時計を見てフリネラが言う。
「はい」
すると足下に魔法陣が現れ、眩しい光で包まれたかと思うと二人の姿は消えた。
「ようこそ。ぼくのじっけんしつへ」
その声に目を開けると薄暗い部屋の中だった。微かに薬草の匂いもする。
目の前に立つ黒いローブを着た男。あの任命式で見た第3番隊の代表。背の高さに加え、特徴的なメイクだったのでよく覚えている。
「ヒュース・フォン・バルロット…」
「ふたりともそんなこわいかおしないで。そこにすわって」
言われた通り、近くにあったイスに座る。
「それで私に用とは何ですか?」
早速、本題に入るフリネラ。
「ああ…」
真剣な眼差しで聞く二人。
「おきゃくさんにはおちゃをださないといけなかったね。ちょっとまってて」
その言葉に拍子抜けするフリネラとユーリ。呼んでおいてその反応。
そんな二人にお構い無しに茶器を用意するヒュース。近くに置いてあった薬草や花を無造作に手で掴み、すり鉢でゴリゴリと潰す。それをお湯の入ったポットにバサバサと突っ込んだ。初めて見るお茶の淹れ方だ。
「はい、どうぞ」と言って出されたお茶は
ー泥水のような色をしていた。
おまけに草まで浮いている。
その色に飲むのを躊躇っていると「だいじょうぶ。どくなんてはいってないから」そういう問題ではない。自分の分を顔色一つ変えずに飲むヒュース。元々無表情だが。
それを見て意を決して飲む二人。
「「美味しい…」」
お茶の苦味の中に柑橘系の爽やかさを感じる。あの材料でどうやったらこの味が出せるのだろうか?
「よかった。あとおかしもよういしてるんだ」まだあるのか。
出てきたお菓子は焼き菓子で見た目はさっきのお茶と違って美味しそうだ。
「これはね、リルがつくってくれたんだ」
「リルさん?」ユーリが聞く。
「うん。リル・シルバ。どうきでおしゃべり。ぼくがおかしをつくったら、いわみたいにかちかちにかたまっていて、それをみたリルがじぶんがつくるからいいってよういしてくれたんだ」ありがとう、リルさん。感謝して頂く。美味しい…。
本当に危険な人物なのだろうか?ウワサと見た目だけで勘違いされているのでは?
そう思いながら食べていると何故か意識が朦朧としてきた。どうやら隣にいるユーリも同じ様子だ。
「何で…?」視界が歪む。
「フリネラ、さん。これ…」
そこで意識を失った。
「おちゃにどくをいれてないからって、おかしにもはいってないとはかぎらない。ゆだんしたね。でもどくじゃないからあんしんして」眠る二人に向かって言うヒュース。実はリルが作っている途中で材料を取りに行っている間に睡眠薬を入れたのだ。
チラリとユーリの方を見る。
「きみはじゃま」
そう言って手を振るとその場から消えた。
「あらためて、ようこそ。フェリージェさん」嬉しそうに笑うヒュース。
あの任命式の宣誓のとき、隣にいたフリネラから二つの魂の存在を感じた。すると頭に声が響く。
『そいつからイシュミルの力を感じる』
魔王ルシウスだ。
『イシュミル?あの?』
『そうだ。忌々しいあの女神。我が深手を負い、眠りについている間に自身の分身フェリージェに剣を授けた。我を追い詰めるほどの力。今はその娘になっている』
『おもしろそうなはなし』
『じっけんとやらの良い材料になるだろう。後は殺せ。まあ、殺さなくともどうせじっけんで死ぬだろうがな』
じっとフリネラを見下ろすヒュース。
「さて、はじめようか」
フリネラを抱えると奥の実験台に降ろす。
台には至る所に血が染み込んでおり、壊れている箇所もあった。
手と足を固定する。
「まずはたましいをひきはがしてふたつにわける。ひとつはまじゅうにいれてペットにする。いろいろじっけんしよう。もうひとつはしんだにんげんにいれてにんぎょうにする。のこったからだはひょうほんにしよう」
そう言ってフリネラの胸に手を当てると
「っ!?」
眠っていたはずのフリネラがヒュースの手を掴んでいた。
「そういう事だったのか」
「てをうごかせないようにしたのに」
さすがのヒュースも驚く。
見ると固定していたはずの器具が破壊されていた。
「私は大きな獣を素手で倒す力を持っている。このくらい簡単だ」自慢ではないがここでも役に立つとは。
「すいみんやくだっていれたのに」
「それならユーリの薬で中和した」
それは睡眠薬入りのお菓子を食べたとき
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『何で…?』
『フリネラ、さん。これ…』
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このときユーリはフリネラにこっそり薬を渡していたのだ。何か仕掛けてくる。そう思ったユーリはありとあらゆる事態を想定して準備をしていたのだ。邪魔な自分がこの場から消される事も。そしてヒュースの企みを知るためにフリネラはワザと引っ掛かったフリをした。
「だまされたのか。つまらない」
「先に騙してきたのはそちらだろう?」
「だましてない。ちゃんとてがみにかいた」
『きみのことをきいてきょうみをもった。
きみのことをしりたい。はなしたい。おしえてほしい。さわりたい。きみのからだのすみずみまで。しらべつくしたい。みせてくれ。おねがい』
あれはこういう事だったのか…。
「あの手紙は挑戦状ではないという事か」
勘違いにようやく気付くフリネラ。
「ちがうよ…」
実験に失敗したヒュースはガッカリとしている。まるで欲しいおもちゃが手に入らなかった子供のようだ。
危険な目にはあったのだが何故か憎めない。
「おい、ヒュース」
「なに?」
「私の事を知りたいのだろう?」
「うん」
「私と話したいのだろう?」
「うん」
「だったら友達として付き合わないか?」
「とも、だち?」
「そうだ。魂に聞くんじゃない。心に聞くんだ。声で」
「こころ…こえ」
「どうだ?」
手を差し出す。
「うん。ともだち」
ヒュースが握り返す。
これで身の安全は確保された。
しかし、第2番隊での安全は確保されなかった。どこからかヒュースとの接触がバレてしまったようだ。しかも鬼副隊長の耳に。
「バカかお前ら!あれほど近付くなと言っただろうが!!」
二人とも正座をさせられ、木刀でバシバシと叩かれる。
「まあまあ、二人が無事で良かったじゃないか」優しいテオールママ。
「お前がそんな調子だからこんな無謀なヤツが出てくるんだ!」厳しいキースパパ。
怒り爆発のキースをテオールが先ほどから宥めている。
「大丈夫です、副隊長。ヒュースとは友達として付き合う事になりました」そこに油を注ぐフリネラ。
「友達だと!?ふざけるな!!」
「つ、付き合う…?」
「わー!また隊長が倒れました!」
「テオール、お前貧血か?」
後日、ヒュースからお詫びとして二人にプレゼントが届いた。『こころをこめてつくったからだいじにしてね』とのメッセージ付きの藁人形だったー。




