第五話 ~すごい魔法を覚えてしまった~
自室に帰った私は、早速本を開いた。
「まずは初級からよね~」
何事にも順序がある。今すぐに覚えられるとは思っていない。
まずは一通り読んでみよう。
魔法はよくあるジャンルに分けられていた。
攻撃として火、水、風、土、回復として光だ。
気になる点として闇魔法もあるらしい。
そしてこれまたよくあるタイプで、初級から魔法を習得し徐々に上級になっていくようだ。
そのジャンルをマスターすると、達人級、そして最上位は名人級になれるらしい。
さらに、初級から使えるもので上に行けば行くほど威力が上がる物と、上位からしか使えない物の2つのタイプがあるようだ。
(目標は名人級ね!)
そう考えながら、神話級および伝説級魔法について書かれた最後の本を手に取った。
そこには一般魔法といい、ジャンルに入らない魔法がずらりと書かれていた。
こちらは呪文に加えて、魔法陣を用意する必要があるらしい。
少し読むと、お約束の結界魔法や転移魔法もあった。
「転移魔法!私も使えるようになりたいな~!」
テレポートなんて異世界ファンタジーの醍醐味ではないか。
でもそう甘くはない。
「でも神話級かぁ、流石に無理だよね~そりゃあ」
勇者設定ならともかく、私は乙女ゲームのただの悪役令嬢。
そんなものが使えるわけがない。
そうして読み進めていくと、最後の見開き2ページに気になるものが書いてあった。
[【異世界から物体を呼び出す魔法】コールファンタジー]、そして[【イメージしたものを作成できる魔法】メイクイメージ]とある。
「はい?!異世界!?!?!?」
流石に驚きしかない。
この世界で『異世界』という単語を見ることがあるなんて。
「さすがは伝説級、何でもありね・・・」
書かれている内容を詳しく見ると、両方とも過程は至ってシンプルだった。
呪文を唱えたあと、呼び出すものか作成したいものを強く念じて、いでよ!というだけのようだ。
2つの違いは魔法陣と呪文が違うくらいであとはほぼ一緒だ。
1度に呼び出せるものは1つで、1日1回までのようだ。
「・・・試してみようかしら。」
本にはご丁寧に魔法陣と呪文も書いてある。
できるはずがないと思いつつも、好奇心が勝ってしまった。
本によると、神話級と伝説級は素質、そして膨大な魔力が必要らしい。
魔力がどれくらいあるのか、いやそもそもあるのかも知らないし、素質なんて分かりっこない。
ならばやるだけやってみようじゃないか。
部屋を片付け、紙を9枚並べる。
その上にペンで魔法陣を書いていく。
まずは呼び出す方だ。
書き終わったら、早速本の通りに呪文を読んでいく。
「万物よいでよ 次元を開き、その姿をよこしたまえ コールファンタジー」
呪文を唱え終わると、突然魔法陣が光り始めた。
「ひ、光った・・・」
びっくりしながらも、私は目を閉じて念じることにした。
(オレンジジュース、オレンジジュース、オレンジジュース)
私はオレンジジュースが大好きだったので、紙パックのオレンジジュースを念じてみた。
「いでよ!」
魔法陣から『ボン!』と激しい音が響き、紫色の煙が大量に噴き出して部屋を覆った。
「コホッ、コホッ、換気しなきゃ……」
私は急いで窓を開け、煙がなくなるのを待った。
3分くらい経ち、煙がだいぶ薄くなったころ、魔法陣にあるものを見て私は固まってしまった。
先ほど思ったオレンジジュースが目の前にあるではないか。
「う、、、そ、、、成功しちゃった、、、。」
ただの悪役令嬢が伝説級魔法を成功させてしまった。しかも一発で。
「や、やったーーー!!!魔法よ!私も魔法が使えるんだわ!!」
そう叫んだ時、部屋の扉が勢いよく開いた。
「ロザリアお嬢様!大丈夫ですか!」
きっと煙が出ているのをみて急いで駆けつけてきたのだろう。
フローラだけでなく、屋敷中の使用人たちが集まってきた。
騎士団まで何事だーときている。
しまった。迂闊だった。
「大丈夫よ、ちょっと魔法を使っただけなので・・・」
「ま、魔法ですか!?ロザリアお嬢様が?」フローラが驚いて聞いてくる。
「ええ、ちょっと気になって試してみたの。」
『あの王女様が魔法をお使いになられるとは……』
『これは女王様もお喜びになられるぞ!』
などと口々に声が聞こえる。
どうやら私が魔法を使えるとは誰も思っていなかったようだ。
「あの、とにかく大丈夫ですから、みなさんお騒がせしました。」
こんなに大事になるとは思っていなかったし、何より、異世界から召喚した紙パックのオレンジジュースがここにある。
見られるわけにはいかない。
そう思って、部屋からすぐに追い出した。
「はあ~びっくりした~。」
いくら魔法が使えるといっても、伝説級が使えるなんてことはしばらく黙っておいた方がいいだろう。
そう心に決めると、慌てて部屋を片付け、証拠を隠滅した。