【Café&Bar 走馬灯】
先月サボったので今月の2作目
自分で決めたルールぐらい守らないと...
「貴方は鬱病です。お薬を出しておくので薬局に行ってください。
鬱には陽の光に当たったり、散歩などの運動、序に綺麗な景色を見ると、
気持ちも徐々に良くなると思います。
薬は慣れるのに時間が掛かりますが、頑張りましょう!」
「受付番号9番の方~」
「合計で8500円頂戴いたします。はい。丁度ですね。
今回、処方箋が出ておりますので隣の薬局で薬を貰ってください。
お大事に~」
「こんにちは~。処方箋は此方でお預かりし整理券をお渡ししております。」
「いや~此処は絶景ですね~。」
「はい!ですが此処が絶景なのは昼だけではないんです!
実は此処、夕方になると~なんとこんな風になるんです!」
「うお~これは人気スポットになるのも頷けますね~!この夕日が」
「受付番号4番の方~」
「今回は如何なされたんですか?」
「何か鬱らしくて...」
「あ~そうでしたか...今回、かなりの量の薬が出ておりまして。
此方は夕飯後に1錠ずつの合計9錠を1度に、この薬は辛くなった際に~」
「お大事に~」
「さぁ皆さん!今日を乗り越えれば土曜日!ランチ時に、もうひと頑張り!
そう思わせてくれる1曲をお送りします!それでは皆さん頑張って!それではどうぞ!」
「いらっしゃいませ~」
「すみません。お持ち帰りでメガバーガーのセットを1つ...以上で...」
「かしこまりました。会計1040円になります。」
「...あ、すみません。やっぱり単品でお願いします...」
ブーブーブー
「(元気か?久々にゲームしようや!お前とやりたいゲームを見付けてさ!)」
辿り着いた其処には夕日の鮮やかな赤に染まる黒いお洒落な建物が在った。
「【Café&Bar 走馬灯】...」
扉はとても軽く力加減を見誤る程勢いよく開き、店内に鮮やかな赤が差し込む
カランカランカラン
「いらっしゃいませ。どうぞ此方へ。」
恐らくマスターである、低くそれでいて穏やかな声の持ち主に席を案内されたが、
不思議なことに、この店には案内されたカウンター1席しかなかった。
席に座り顔を見上げると其処には髭まで白く、無表情ではあるがどこか優しく温かい男性と目が合った。
「どうぞ。」
男はマスターが渡そうとしているおしぼりに気付き受け取ると、
冷えた体を癒す柔らかく温かいおしぼりだった。
「この店なんだかとても懐かしい感じがします。」
「はい。この店はお客様に懐かしいを提供しております。」
「懐かしい...を提供...
そう言えば、このおしぼりも何処か懐かしい香りがします。」
「左様でございますか。」
マスターはとても嬉しそうに優しい笑顔を見せる。
「いかがいたしましょう。」
すっと顔が戻り心地の良い声でそう聞いてくる。
「此処にはメニューは無いのですか?」
「はい。こちらにはメニューは存在致しませんが、
何でも準備しておりますので心置きなくご注文してください。」
そういうマスターに男は悪戯をしようと考えた。
「じゃあ、これって有りますか?」
「申し訳ございません。このお店ではお客様自身が飲食したことのある物のみ
準備が出来ております。誤解を招いてしまい申し訳ございません。」
「あ、そうだったんですね。そうですよね世界一高級なウイスキーなんて
置いてないですよね...」
男はとても恥ずかしく思ったが悟られないよう直ぐに注文した。
「じゃあ、商品名は思い出せないんですけど...」
男は必死にその酒の特徴をマスターに伝えた。
「此方でしょうか。」
「そう!それ!!それです!!!あったんですね!」
「はい。こちら終売になっておりますがございます。」
その酒は幼い頃からの友人と終売だからと2人で大切に大切に飲んだウイスキーだった。
「どうぞ。」
マスターがそう言うとテイスティンググラスに、そのウイスキーが入って出てきた。
「うわー!この香り懐かしい!頂きます!」
男は何秒もかけて口の中で味わいそれを飲み下す。
「そう!これこれ!!この味!!!
色んな飲み方をしたけど、『最後はやっぱりストレートだろ!』
っつって、2人で馬鹿みたいに時間をかけて飲んだの懐かしいなぁ!」
その店の内外装、音楽、小物、マスターの人柄、そして香りまでもが、
全て男にとっては懐かしい物であった。
「なんでこの店には席が1つしかないのですか?」
そう聞くとマスターは難しい顔をして
「それはちょっと説明が難しいですね...」
と言った。
「難しいなら大丈夫です。」
男は微笑んで言った。
「まぁこの店には1人のお客さんしか来れないようになっているんです。」
マスターも微笑んで言う。
「お客様、もし良ければ最後に私から1杯サービスさせてください。」
そう言うとマスターは棚の奥から1つのウイスキーを取り出しカウンターに置く。
「良いですけど...これは何ですか?」
「これには私が不思議なおまじないをかけているお酒でございます。」
「へぇ~。いったいどんなおまじないをかけているのですか?」
そう言うと男は店内が重く暗く硬くなったように感じた。
「これには輪廻転生の意と、転生する際には貴方が前世よりももっと素晴らしい人生になるように
と私がまじないを込めております。」
店内の空気は更に強固になる。
パンパンで誰も何も動けないような。
「お客様は、この後いかれるのでしょう?私には分かります。
この店は、そういうお客様の前にしか現れないのです。
どうぞ、いかれる前に1口でも。」
男はその酒を今度は全く味わいもせずにいっきに飲み干す。
「マスター!ご馳走様!今まで飲んだ酒の中で2番目に旨かった!」
その言葉は店内に響くとマスターの表情が明るくなった。
「左様でございますか。それは良かったです。」
男は店内を何周も何周も何周も見渡すと、席を立ち出入口へ向かう。
その足取りはしっかり床を踏みしめ堂々とかつ軽やかに扉に手をかける。
「本当は、また来たいですが、もう来れないのが残念です...!」
「これから先、此処を訪れることがない事を祈っております。」
「マスターご馳走様でした!代金は出世払いで!」
「畏まりました。それでは行ってらっしゃい。」
其処は幻想的な鳥居の手前に在る決心した者の束の間の休息所
林と海に囲まれた鳥居の中に夕日が落ちる。
「TVで見た通りとても綺麗だ...」
「はい。この景色は何度見ても飽きません。」
マスターの声を背に男は鳥居を潜り崖に立つ。
男は振り返り後ろに飛ぶと、もう其処にはマスターの姿も店の姿も無かった。
その拍子に残酷な夕日の赤が大粒の涙を赤く染め上げ煌めいた。
私も鬱になってから何度も死ぬことを考えました。
この話はその時に思いついた話です。
いや~死ぬ前ぐらいこういう所で過ごしたい...
こんなことを書いていると気づけば24時1分
まぁ許容範囲よ許容範囲...