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第二王女ケイティ

もの心付いた頃には既にわかっていた。


この世は不条理である事に。


同じ父を持ちながら、


同じ生を受けながら、


命は平等ではなかった。



陽の当たる輝かしい道を異母兄姉たちは歩き、

平民の妾から生まれた私は日陰の道を這わされた。


だけど奇跡は異母兄姉の実母、前王妃が亡くなった事により起きる。


ずっと市井で暮らす私の事を気にかけていた父王が、私を王女として迎え入れたのだ。

それについて最後まで反対していたという異母姉も既に他国の王太子妃として嫁いでいた為にそれほどの発言権はない。


異母兄は綺麗事の好きな男で、長く苦労したであろう私を敬意を以て妹として受け入れると言ったそうだ。

偉そうに。

何様のつもり?

あ、この国の王太子サマか。

くだらない。


だけど私はそれらの感情を全て呑み込んで王女として振る舞った。

死に物狂いで学び、マナーを身につけ、所作を体に叩き込んだ。


もう二度と、人から蔑まれずに済むように。

上から見下されるのではなく、私が皆を見下すのよ。


そしてそれはこの先も続いてゆかねばならない。

貴婦人にとっては嫁ぎ先が、伴侶となる夫が人生を左右する。


例え父王が亡くなっても、兄の代に治世が変わっても、私の人生を輝かしいものにしてくれる伴侶が私には何よりも必要だった。


だけどいくら王女といえど所詮は庶子である私を正妻にと望む高位男性はいなかった。

ずっと年の離れた侯爵位の後妻か、良くて他国の王族の側妃の一人か。


ましてや15歳で王族入りした私の年齢に釣り合う高位貴族の青年達は既に婚約者がいる者がほとんどだ。


どうして私ばかり……

このまま諦めるしかないのか……

と思っていた時に、晴天の霹靂と言っても良い出会いをした。


王族は入学する慣いがあるという魔法学園の入学式で、彼と出逢った。


王弟であり、我が国の筆頭公爵家、ジェルマン公爵ランベール=ド=クルシオ=アルマンド=ワードの嫡男。


ランベール=ド=クルシオ=レイブン=ワード。


王位継承権第3位であり、私の同年のイトコにあたる人物だ。


長身で体格も良く、尚且つ顔が良い。


その上、私が欲する身分も申し分ない男なのだ。


この男だ。私に相応しいのは彼しかいない。


勿論、彼にも婚約者がいた。

だけど聞けばかなり風変わりな令嬢というではないか。

しかも伯爵家の娘。

何故そんな令嬢と婚約を結んだのか理解に苦しむ。


まぁだけどその方が都合がいい。


珍妙な婚約者よりも、女として身分も容姿も知性も申し分ない私が言い寄れば、あっという間にこちらに鞍替えしてくるのは目に見えていた。


私は早速アプローチをした。


………が、全然靡かない。


何故?ちょっと待って、アレよ?あの婚約者と比べたら断然私の方がいい女でしょう?


それなのに王女である私の事など全く眼中にないようなのだ。


まぁやり様はいくらでもある。


まずは学園での私の位置付けね。


王女として高貴なる存在なのは当たり前。

でも学園に通う生徒達に幅広く支持されたい。

それにはやはり、市井で苦労した事を売りにすれば良いのだ。


王族に相応しい優雅で気品溢れる雰囲気を持ちつつ、不意に庶民的な親しみやすさも醸し出す。

貴賤のニュアンスを巧みに含ませ、あらゆる層の人心を掴むのよ。


そして思惑通り、学園内で私を支持する生徒が増えて来た。

盲信的に私を崇拝する者もいるほどに。


上手くいったわ。


学園という一見公に見えて閉鎖的な世界の中で、私の王国を造るのだ。


そして私を慕うもの達を使い、噂を広めさせる。

かといって、別にその者達に嘘を吹き込んだ訳ではない。


私がどんなにレイブン様をお慕いしていても彼は婚約者がいる身。決して不実な事は出来ないから涙を呑んで諦めると、悲しそうに(さえず)ればいいのだ。


後は私の言葉に胸を痛めた者たちが方々(ほうぼう)で私の事を悲劇的に語ってくれる。


そうするうちに同情を生む。

そしてその様な困難な道のりを乗り越えて愛し合う者たちが結ばれる……という自分たちの理想を語り出し、勝手に切望し始める。


するとそれがいつしか、あたかも事実のように語られてゆくのだ。


それはもう面白いくらいに。


魅了魔法など持ち入らずとも、人の心理操作などいとも簡単な事だ。


レイブン様は頑なにその噂は事実ではないと語っているが、

彼がそう言えば言うほど、他者は彼を婚約者に義理立てする気の毒な青年…という色眼鏡で見るのだ。

そして彼を気の毒に思い、いつしか彼の婚約者へと不満を募らせてゆく。


場をそこまで整えて、丁度新入生として入学して来たレイブン様の婚約者を迎え撃つ。


学園内では既にレイブン様と私の悲恋は当たり前の真実として受け入れられている。


その事と、多くの生徒から自分が邪魔な存在だと思われている事を知った時、彼の婚約者はどう思うのかしらね?


自分が如何に多くの人間から望まれていない存在か……それを知り、彼女はどうする……?


耐えられず、逃げ出し、そして婚約を継続出来なくなるのではないかしら?


普通の神経の持ち主ならそうよね。


レイブン様は何が気に入らないのか無駄な抵抗をしているようだけど、相手の方から婚約解消を申し入れて来たら諦めざるを得ないのではないかしら。


そしてその時にタイミング良く王家から婚約の打診が来たら、それは当然受けるのでは無いかしら?


王家と伯爵家、天秤に掛けるまでもない筈だわ。


きっと上手く行く。


私はこれまで通り、私を崇拝する生徒達の言の葉に乗り続ければいい。


でもそろそろ父王には公爵家との縁談を希望する事を伝えておいた方がいいのではないかしら。


あちらの婚約が解消となったら直ぐに打診出来るように。


少なからずとも私に負い目を感じている父王ならきっと承諾してくれるわ。


公子となれば相手に不足もないものね。


私は()()()レイブン様と私の噂が広がっている事、その所為であちらの縁談が破談になったら王女として責任を取りたい旨を申し出た。


ワード公子と婚約を結び、ハイト伯爵令嬢には相応の結婚相手を見つけて差し上げると。


だけど、父王は首を縦に振ってはくれなかった。 

それどころか、あの二人が婚約解消に陥るわけがないと私の申し出を一蹴したのだ。


何故よ!……どうして?


その話を聞きつけた異母兄まで私の予測を否定する。


王宮内にも私とレイブン様の噂を流しているにも関わらず。


「あの二人はな、お前が思ってるよりずーっと深く互いを想いあってるんだ。俺はあの二人をずっと見てきたからわかる。特にシュガーの方は噂を聞こうが何をしようが絶対に揺るがないだろう」


「そんなの……わからないではないですか。人は普通見たくない事、知りたくない事から逃げてしまうものです。あの令嬢が耐えられなくなって逃げ出すかもしれないではないですかっ」


「……普通の令嬢なら、な。あるいはそうかもしれない。だけど()()シュガーだからなぁ……」


「っ……もういいですっ!」



どうして!?


何故否定するのよ!?


こうなったら必ず婚約解消に持ち込んでみせるわ。


あの令嬢を追い込んで追い込んで、追い詰めて追い詰めて、レイブン様の元から去らせてみせる……!


幸い天の助けか、

私とレイブン様の逢瀬の場を見たという生徒が何人か現れた。


人は望むものを見るケースもあると聞く。


きっとその幻影を見た者も、私とレイブン様が結ばれる未来を望んでいるのよ。


更に決定的になる様な噂を流して、周りの環境からそれが事実だと持って行かせるわ。


さてどのような噂にすればよいかしら。


口付けを交わしていたというのもいいわね。


抱きしめ合っていたというのも。


年頃の連中だもの。


この手の話は食いつく筈よ。


私はただ、あたかもレイブン様とその様な事があったと印象付ける話し方をすれば良いだけ。


ふふ、結果が楽しみだわ。



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