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プロローグ 神サマからのクレーム

よろしくお願いします!

ーーシュガー、こらシュガー



誰?誰かがわたしを呼ぶ声がする。


ここはどこ?白くてフワフワの雲の上みたいなところね。


天上には目を見張るほどの満天の星。


あぁ、これは夢の中ね。

わたしは今、夢の中にいるんだわ。ステキ♪


沢山の星々の中の、一際明るく光る星がわたしに語りかける。


ーー夢のようで夢でない場所だよ


「え?どういう事ですの?じゃあここはどこ?」


ーー夢と(うつつ)(はざま)。もしくは心理の世界、まぁどちらでもいいよ


「なぜわたしはそんな凄い所にいるのかしら?」


ーーちょっとキミに文句を言いたくてね


「文句?なぜ?わたし、何かしましたか?」


ーー私がちょーっと目を離している隙にあらすじを無視して勝手に成長した


「あらすじ?勝手に?ん?」


ーーシュガー、驚かないで聞いてくれ。

キミが住んでいる世界は私が趣味で書いた小説の中なんだ。

そしてキミはその中の登場人物の一人だ


「……ちょっと待って、小説?」


ーーうん


「わたしが生まれて、生きているこの世界が?」


ーーうん


「現実ではないという事ですの?」


ーー物語の中では現実の世界だよ


「……………………そうですか☆」


ーー深く考えるのを放棄したね


「うふふ。

だってめちゃくちゃなお話なんですもの」


ーーまぁそう思うよね。でも本当なんだ。

キミのお父さんやお母さん、お兄さんも、そしてキミが大好きな婚約者くんも、全て私が考えた登場人物なんだよ


「……ホント?それは本当の事を言ってますの?神サマに誓えます?」


ーー誓うも何も、私がその神だからね


「神サマっ!!??……そうですか☆」


ーーまた考える事を放棄した!

ダメだよシュガー、キミももう17歳なんだから現実を受け入れないと


「でもわたしは現実世界の住人じゃないのでしょう?」


ーーまぁそうだけど


「ちょっと待って、わたしにそんな話をしてくるという事はわたしが神サマが書いたそのお話の主人公なの?」


ーーいや、キミは悪役令嬢だよ


「………悪役?令嬢?何です?ソレ」


ーー文字通り、物語の中で主人公をイジメ、数々の横行を繰り返し、いずれ婚約者に捨てられるという悪役さ


「ちょっと待ってパート2!

この際“悪役”は置いとくとして、

………婚約者に捨てられるって今…仰った?」


ーー言ったよ。


「捨てられるって……?」


ーー主人公をイジメた罪で学園の皆の前で断罪、その上での婚約解消、または破棄だよ


「………………………それではわたしはこの辺で。

さようなら、ご機嫌よぅ~☆」


ーーちょっ、ちょまっ!!現実逃避しないで!


「酷いっ!!神サマ酷いわっ!

どうしてわたしが悪役令嬢なんですの?

今まで悪い事なんてした事もないし、人をイジメた事もないし、悪口を言った事もないのにっ」


ーーそれ、そこだよシュガー


「何がですの?ぐすん……」


ーー悪役令嬢らしく高慢で我儘でイヂワルに育ってないって事。純粋で優しくてひょうきんな子に育っちゃったって事


「まぁ♡ありがとうございます」


ーー褒めてるんじゃなくて文句言ってるの!!

どうするのさ、これからの物語の展開を!!

物語はもう始まっているんだよっ!?


「始まっている?いつからですの?」


ーー主人公ケイティが魔法学園に入学して、運命の相手と出逢った瞬間から


「まぁ!魔法学園ならわたしも明日から通うんですのよ♪

本当は正規の学業修得コースで2年間通いたかったのですが、婚約も決まっていて魔力もそこそこなわたしが2年間も通う必要はないとお父さまに言われましたの。それで泣く泣く一年間だけの卒業資格修得コースのみ通える事になったのです……くすん☆」


ーーいやそれは知ってるよ。だって私がそう設定したんだからね


「まぁ、ホントに酷い神サマですこと!」


ーーだってしょうがないじゃない。

主人公(ヒロイン)とヒーローが愛を育むまでの間、キミの存在は邪魔だったんだから


「主人公とヒーローの愛?それがどうしてわたしに関わりがありますの?」


ーーだってキミの婚約者、レイブン=ワードがヒロインの運命の相手だからね


「……………なんですって?」


ーーだから、キミの婚約者が、学園に入学した時に出会ったヒロインのケイティと、学園で学びながらも色んなトラブルを乗り越えて、愛し合っていく物語なんだよ。わかった?


「……………」


ーーキミは一年遅れでのこのこ入学して行って、そこでケイティとレイブンが想い合っている事を知り、二人の仲を引き裂こうと躍起になるイヂワル悪役令嬢なの!ったく、私がちょっと目を離している隙に好き勝手成長してくれちゃって……


「……ブンが?ヒロインと愛し合っている?でもでも、ブンには先週も会いましたが何も変わりはありませんでしたわよ?わたしが入学するのを楽しみしてくれていましたもの」


ーーそりゃ~上手く婚約破棄が出来るまで、悪役令嬢に胸の内を晒すわけにはいかないからさ


「でもブンはそんな性格の悪い人ではありませんわ」


ーーいや結構腹黒だよ?だってそう設定したんだもの


「また設定って……それで?わたしがその設定通りにならなかったからってクレームを言いに来られたのですか?」


ーーまぁそういう事


わたしは今まで聞いた話と、

いつも接している婚約者のレイブンの事を両方思い浮かべてみた。


どうもしっくり来ない。


納得いかないのだ。



「うーん……でも、今さら悪役令嬢と言われましてもネ☆性格もここまで来たら、変えようもありませんし」


ーーいやだから今からでも物語通りに振る舞ってよ。キミがそんな風だから、物語の本筋に微妙なズレが生じて来てるんだ


「うふふ、お断りします☆」


ーーなんで?私の物語なのに!?


「でもわたしの人生です。神サマがどのくらい目を離されたのかはわかりませんが」


ーーほんの2~3分さ、キミ達の世界では10年ほど経ってるようだけど


「ではその神サマの2~3分の間にも、わたしはわたしの人生を歩んで来たんですもの。子どもの頃から婚約者のブンの事が大好きで大好きで、本当に大っ好きなんです!それを悪役令嬢でフラれるから悪い子になって諦めろなんて、納得できるわけがありませんわ!」


ーー……でもどんなにキミが往生際悪く足掻こうとも、物語の強制力は働くよ?無駄な行為はしない方がいいんじゃない?


「何が無駄かは自分で決めまーす!とにかく、もし例え結果が神サマの言う通りになったとしても、その瞬間までわたしはわたしらしく行動させていただきますから」


ーーおかしいなぁ……

なんで神である私の影響力で干渉出来ないんだろう?

キミってホントに特殊だよね。

まぁいいさ。きっと知らないうちに物語の強制力の枠組みに従ってるさ


「さぁそれはどうかしら?そんなのやってみないとわかりませんことよ」


ーーわかった、それも込みで楽しませてもらうよ

シナリオはもう全部書き終えて完結してるんだ

ある意味、キミが入学してからが第二部のスタート、といったところだね


「絶対にブンは主人公(ヒロイン)サマには渡しませんから!」


ーーあっそう、まぁ精々頑張って。無駄だと思うけど


「ぷぷ、感じの悪い神サマですこと。ではわたしはこれで帰ります。明日から学生になるんですもの、たっぷり睡眠を取らないと♪それではご機嫌よう」


わたしは神サマにカーテシーを披露した。


神サマはまだ何か言いたそうな顔をしていたけど、

わたしはそのまま踵を返した。


でも、どっちの方向に帰ればいいのかしら?

なんて思っていたら、目が覚めた。


目の前にはいつもの見慣れた天井がある。


「……やっぱり夢……?」と片付けるにはやけにリアルだった。


わたしの中の何かが告げる。

アレは夢ではなかったと。


夢でなかったのなら………………



「ま、いっか☆」


そんなの学園に行ってみないとわからないし、

実際に婚約者のブンとケイティとかいう主人公(ヒロイン)サマを見てみない事にはわからないから。


それにせっかく楽しみにしていた入学式を台無しにしたくはないもの。


「そう!今日からわたしは魔法学園の生徒よ!学食食べて部活して、休み時間にはお友達とお喋りするのよ!そして制服姿のブンをばっちり拝んで、その感動を擬似写経するんだから!」


わたしはベッドから出て、仁王立ちで拳を突き上げた。


その瞬間に部屋に入って来た子どもの頃からの専属メイド、クレマ(27)に半目になって言われる。



「お嬢様。17歳になられ、ご成婚まであと一年なんですよ。それなのに私はいつまで朝イチに拳を突き上げているお嬢様を見なくてはいけないんでしょうかね?」


「あらら☆多分一生?」


「……婚姻後ワード公爵家にお供するお役目、辞退してもよろしいでしょうか?」


「わーん!クレマ!捨てないで~!」



こんないつもの調子でわたしの一日が始まった。


一年以上も楽しみに待ち侘びていた入学式という今日この日が、

とてつもなく長い一日になる事など、この時のわたしは知る由もなかった。



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