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褒めて生きる 1
「ありがとう」
そう言われた。
私が彼女を、家に誘ったときも、そうだった。
感謝の気持ちを、きちんと表してくれる。
それが、気持ちよかった。
特に、家には何もなかった。
テレビゲームも、ボードゲームも何も。
だから、必然的にトランプが登場した。
コンパクトなサイズ。
アレンジできる、柔軟なところ。
トランプは、本当にすばらしい。
彼女を部屋に招き入れたのだが、何度も小声で何か言っていた。
気になったが、スルーした。
私の部屋で、彼女とふたりで、ババ抜きをした。
まだ、彼女はぶつぶつ言っているようだ。
耳を澄ましてみる。
「クッションさん、下で支えてくれて、ありがとうございます」
「照明さん、照らしてくれて、ありがとうございます」
「トランプのハートのキングさん、楽しませてくれて、ありがとうございます」
「トランプさん、スゴイ対応力ですよね」
彼女は、褒める人だった。
関わった全てのものを、軽く褒めてゆく人だった。
「ゆうなちゃん、今日もかわいいね」
「ありがとう」
きっと、10年後も私は、彼女に褒められて、生きている気がする。