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魔力外付論

魔力の基礎に関しての一考


  『神遊歴986年5月14日』

 レオナ=コルキス


 魔力とは大気中に含有する原子の一つである。これは『魔術基礎論』にて記載され、また歴代魔術師たちがその生涯と歴史をかけて立証してきた事実である。

 人間は5つ目の肝臓に魔力を貯蔵する機能を有している。これは『王像』たちが語り『医療部隊長像』たちがその腕にかけて立証した真実である。

 非常に優れた魔力量を誇る魔術師たちは、その魔力貯蔵機能を4つ目の肝臓にも有しているとされているが、それは立証されていない事実である。なぜなら、優れた魔術師は必ず国の重鎮として丁重に葬られるため、医者による情報の確証を行われることがないためである。時に人類の発展には大多数の人権の侵害が必要不可欠であると筆者は愚考するが、なぜか国はその行為を是としない。本当に人類のことを考えているのだろうか。

 しかし、魔力貯蔵器官の性能有無は別として、魔力回復機能に関しては『食事』『呼吸』『魔力の込められた水分の摂取』に依存していることは、確証された事実である。同時に、皮膚的接触、魔力操作による外部からの吸収は不可能であるとも立証された。結果として、人類は魔力を多分に含む薬剤や糧食の作成研究が盛んに行われ、その悉くが失敗、あるいは部分的な成功程度にとどまっている。

 理由の究明も並行して行われた。当然、その理由を言語化することも可能である。薬にしても食糧に多くの魔力を含もうとする試みにしても、全ての魔力が大気中に放出されるという結果のためである。問題は、「なぜ魔力は即座に大気中に放出されるのか」という部分を立証できないことである。が、わからないなりの仮説を立てることは可能である。


 魔力とは、大気中に含まれる水分的性質を持ち、おそらく世界全土で均一の濃度として位置される、という要素を持っているのではないのだろうか。

 水蒸気であれば、雨天時や海岸線、川や湖近辺の湿度が高い、といったある程度の特性を持ち、日によって、時期によって湿度が異なるものであるが、魔力はその逆で、いついかなる時であれ均一的な魔力濃度を維持しようという働きを持つ……と考えることは出来ないだろうか。そして、それに対する例外が人間であり、天馬であり、魔力をその身に保管できる生物全てなのではないかと考えられる。また、魔石や魔鉱もその性質外にあるのではないか。


 では、魔力が大気に均一に放出されるという性質を持つ、と仮定して。私たち人間がその魔力を用いるとき、瞬時に回復する手段はないのだろうか。

 ない、とするのがこれまでの答えであり、ある、とするのが私の提唱する『魔力外接論』である。


 先に述べた通り、魔力を回復するための薬剤は作成できない。出来ても、即座に大気中に霧散していくだろう。魔力を多分に含んだ食糧を作成できない。魔力を含んだ食べ物を一時的に生成できても、必ず大気の濃度と均一になるまで外へと排出されていく。

 では、その空気は?確かに大気に魔力は溶け込んでおり、魔力濃度はおおよそ均一になる。仮に薬剤や食料から放出されたすぐの魔力を呼吸で吸収しようとしても、そよ風一つで失敗するだろう。呼吸での魔力自然回復は積極的に行うべきであるが、急速回復は現実的な問題として不可能である。


 本当に、そうだろうか?

 大気中の魔力濃度が同じになり、そよ風一つで霧散するのであれば、発想を変えればよいのだ。最初から大気によって霧散することが難しい状態を作ればよい。

 例えば、空気一つ外に出ようがない密閉空間の中で、魔力濃度を上昇させた場合の魔力回復速度はどうなるだろうか。

 結果は上々であった。魔力の自然回復と比べようもない、非常に速い速度での回復が可能だったのである。代償として酸素濃度が低下し、二時間ほどで呼吸困難に陥りかけたが、そこは大した問題ではないであろう。

 重要なのは、魔力の急回復を行える土台が完成した点である。大気の移動を制限し、外部と内部の魔力濃度を完全に別物として切り離すことが出来る場合において、魔力は貯蓄に相応しいだけの量を延々と使うことが出来るのである。


 もちろんのことであるが、魔力の貯蓄があることが前提である。必要とするのは、魔力をしっかりと溜め込んだ魔石魔鉱である。

 そして、密閉空間を作り出すこと。これは結界魔術を用いて再現可能である。最低でも六段階格の魔術師を一人用意すればよい。

 魔術師が空間を結界で切り離す。百名ほどの魔術師部隊の魔力回復を想定し、“完全半球結界魔術”の使用を想定する。しかし、これが個人であっても使用魔術は“完全半球結界魔術”でなければならない。それ以外の結界魔術はその性質として、大気の移動を阻止する性質を持たないためである。内部と外部を完全に遮断するためにも、“完全半球魔術”を用いることを推奨する。

 最後に。大量の魔石魔鉱から魔力を放出し、結界内を魔力で満たし上げる。そうすれば、魔術師は魔術を使いながら魔力を急速回復させることが出来る、持久戦特化の魔術部隊を作ることが可能である。また、別用途として広範囲魔術を連続使用するという前代未聞の荒行を行うことすらできるだろう。


 この理論には欠点がいくつかある。一つが、魔石容量の問題である。

 魔石に魔力を貯蓄すると言えども限度がある。百名程度の部隊であれば魔石5個もあれば十分に事足りるが、人数が増えれば増えるだけ、希少な魔石を魔力貯蔵に回す必要性が出てくる。元より城砦の防衛施設として用いられることの多い魔石を、ただ魔力を回復させるためだけに用いても良いのであろうか。

 一つに、魔術師自体の希少性である。六段階魔術の使い手ともなれば、魔術を志した1000人の中でも一人くらいが達する境地である。貴族中でも本格的な、魔術師を目指すのは五人に一人。単純計算で五千人に一人である。ここに、平民は含まれていない。数少ない六段階魔術を放てる魔術師を、ただ魔力回復用の結界を張るためだけに用いるのである。これほどの無駄があるだろうか?その分を攻撃魔術に用いる方がよいのではないか?

 最後に、“完全半球結界魔術”事態のもろさである。そもそも六段階魔術における結界魔術は個人結界である。軍そのものを多くの魔術から防ぐための八段階魔術“万軍盾覆結界”を六段階格でも使えないかと研究した結果が、せいぜい一度の中域魔術を相殺できるだけの強度しかない“完全半球結界魔術”である。前提として、この魔術は範囲を覆える代わりに強度を犠牲にしている。破ろうと思えば、剣でわずかに切り傷を入れるだけで破れるのだ。使いどころが非常に重要である。


 結論として、私の提唱する『魔力外接論』は使いこなすことが出来れば非常に有用な手法になるが、使いこなせないのであれば魔力の無駄遣いになりかねないもろ刃の剣であるとここに明記する。なお、筆者である私個人の話をするのであれば、八段階魔術“万軍盾覆結界”を用いて周辺に魔力を充満させた状態でも、八段階魔術なら残り二つ使うことが出来るため、上記の懸念点中二つは解消することが出来る。

 残念なのは、私の魔力を回復させるだけの魔石を手に入れるのは、国が後援でもしない限り不可能な点であるだろう。


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