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第9話 人生至る処に、

 昨日は、あのまま泣きながら眠ってしまったせいだろうか。

 なんか妙な夢を見てしまった。もういないはずの父と母と、わたしの三人で過ごしている夢。


 夢のご多分に漏れず、目を覚ました途端、細かいことは忘れてしまって憶えてはいないんだけれど。

 残っていたのは、ほんのりとした懐かしさだけ。


 わたしには両親がいません。二人とも半年くらい前に、事故に巻き込まれ亡くなってしまったのです。

 両親の他には家族はなく、また唯一の親戚であったおばあちゃんも何年か前になくしていたわたしは天涯孤独な身の上となったのでした。

 それでも周りの人たちに助けられて、有り難いことに学校をやめることもなく以前と同じよう、そのまま家で暮らしてましたよ。


 以前と同じ? 帰っても誰もいないんだよ。同じじゃない。誰も待っていない家に帰るのは辛いものさ。


 でもだからといって、あの世界の中で、わたしは一人ぼっちなんかじゃなかった。


 あまり多くはなかったけれど、わたしには友達がいたんだよ。


 隣の席の優しいほんわか美少女、タカナシさん。

 全然タイプが違うのに、妙に気が合ってお互いの苦手科目を教え合ったりして、彼女とお話しするのは楽しかった。


 びっくりするくらい趣味の合った、モリナガさん。

 いろんなものの好みが一致して、でも同じくらい違っている部分があった。でもそこがいい。


 部活仲間のユキジルシちゃん。

 彼女とは廃部寸前の部を頑張って立て直したっけ。結局、他の部に統合されちゃって、その部はなくなっちゃったけれど。


 もう会うことの叶わない、彼女たちの顔が、声が、次々と浮かんで来ては消えてゆく。


 というか、スマホで友達と撮った写真を見ているのだ。あの妙な軽トラに跳ねられた時に、学校指定の大きなバッグに入っていたスマホは、わたしと一緒にこの世界に召喚されたのだ。

 だからと言って、元の世界とメールや電話ができる訳でもなく、ネットに通じていることもない。撮ってあった写真を眺めることくらいが精一杯だ。

 それでも、この異世界と、元の世界を繋ぐ唯一の絆として、こうして写真を見ることができる。見てしまう。それもまた、電池切れするまでのことなんだけれども。


 でもそうなったら今度こそ、わたしは今、この異世界で一人ぼっちなんだな。


 そう思うと、また涙が出て来た。このまま寝てしまえ。




 そう思ったのも束の間。部屋に入ってきた何者かの手によって部屋のカーテンが次々と開け放される。

 ベッドサイドのカーテンも開けられて、朝の眩しい光が盛大にわたしに降り注がれた。


 眩しい。

 誰だよ、起こさないでくれ。傷心のわたしは、もう余生をベッドの中で過ごすんだ。


「そろそろ起きられたらいかがですか、ミヅキ様」


 あれ? ネーナさん? なんでここにいるの?

 わたし聖女じゃなかったんだよ。聖女失格しちゃったんだよ。


「私が、ミヅキ様付きの侍女であることは変わりありませんもの。それより早く起きてくださいませ」


 キツネに摘まれたような気分で、わたしはむっくりと起き上がる。

 鏡を見なくても分かる。涙と鼻水とよだれで、きっとひどい顔だ。

 恥ずかしさで顔を隠しながら、それでも朝の挨拶は欠かせない。


「おはようございます」




 かくして、わたしは、またもや庭を眺めながら、優雅にモーニングティーなど頂いている。

 ちなみに、今日は洗い上がってきたばかりの元々着ていた服を着ている。やっぱり慣れた服は着心地がいい。

 そうして呑気にお茶を飲んでいるだけのように見えて、しかし、その心の内はかなり複雑だ。


 聖女ではなかったわたしは、いったい何時いつまで、ここにいられるんだろう。

 ネーナさんだって、上司からの命令があれば、わたしの許を離れることになるだろう。

 最悪、今日この日に、このお城から追い出されてしまうかもしれないのだ。


 そしたら、取り敢えずどこかに部屋を借りて、アルバイト探して……。

 待て? 部屋を借りるにはお金がいるのだぞ。いっしょに飛ばされてきたバッグの中には財布もあるけど、あれに入っているは日本の円だ。

 こちらの世界の通貨など、これっぽっちも持ち合わせちゃいない。今のわたしは、正しく天涯孤独の無一文だ。

 定職にも就いてないし、保証人だっていないんだぞ。どうすんだよ。


 ホームレスか。ホームレスになるのか。一人っきりの、この異世界で。


 ああ、また涙が溢れそうだ。

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[一言] 主人公(の心の声)がウザくて可愛くない
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