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第66話 初級魔導士わたし爆誕! なのだ

 ふいー、ふいー、ふいー。


 マティアスくんの指導で、適度に走って、適度に歩いて、自分でも良くわかっていないのだけれど、どうやら魔力的に整っているらしいのだ、今のわたしときたら。


 次にやるのは、この動きは全身をほぐすためのストレッチかな、ってな運動。


 仕上げにやったのは、両手を前に持ってきて、その高さのまま右へ、ぐいーん。

 同時に右足を上げたら、腰を捻って、膝を左へ持ってゆく……と。


 日頃使わない筋肉が、ほぐされていくようで心地良い。

 でも、この運動をしていると「ヨロシクねっ」と口にしたくなるのは、どうしたものか。


 身体もほぐれ、全身を熱い血潮が駆け巡っているのがわかる。

 深く深呼吸をすれば、大量の空気が体内を満たしていくのだ。


「今、ミヅキさんの身体の中を血と共に駆け巡っているのは魔力。大きく吸い込んだのは魔素なのです」


 マ、マソ!?

 それって酸素とか、二酸化炭素なんかと同じようなもの!?

 で、魔素ってこと!?

 そんな怪し気なものが、この世界では大気中に漂っているの!?


「ええ、この世界には目には見えませんが、魔力の素となる、魔素というものがあるのです」


 なんでも、ここ王都では薄いみたいだけど、辺境の地にゆくと魔素濃度は上がるらしい。

 なんだろ。田舎へいくと、空気が澄んでいて美味しい。みたいなものかな。

 自然が豊かな土地へいくと、濃くなるみたいなので、その解釈もあながち間違ってはいないようだね。


 そして、驚愕の情報がもたらされる。

 わたしの元いた世界では、魔素が大量にあるらしいという調査結果が残っているというのだ。


「そうなんです。ですからお呼びした聖人様たちは、どなたも高い魔力を持っていたのではないかと」


 どうやら誰も使いこなせないし、そもそも、誰にも知られてはいないけれど、元の世界には魔力の素が潤沢にあるらしい。

 それじゃあ、ここで魔法を覚えて、元の世界に戻ったら、わたしは『魔法少女』になれるってこと?


 むふー、と興奮しかけたけど、元の世界には帰ることはできないのでした。


「僕たち高位の魔導士や、騎士である先輩やルドルフさんたちでも、あのレベルになると魔力や魔素を測ることもできます。慣れですかね」


 慣れじゃないでしょ。異能力だよ、それ。


「でも、そのお陰で、こうして初心者の方にも魔力の扱いを教えて差し上げられるのです」


 ほえー、そうか。運動後のこの感触。これを感じるのが大切なんだね。


 わたしは目を閉じ、吸い込んだ魔素をお腹に貯めて、それを練り上げるイメージを作る。

 昔、テレビで見た、気功士とやらのオカルティックな言葉を思い出しながら。


 ふいに、マティアスくんがわたしの手を取った。

 びっくりして閉じていた目を開けると、彼は驚いたような表情をしている。


「まだ教えていないのに、さすがですね、ミヅキさん。そうしたら、その魔力を血を巡らせるようなイメージで全身に流してみましょう」


 わたしは言われた通り、体内中の赤血球が酸素と共に魔素とやらを、えっほえっほと運んでいる姿を想像する。


「僕も今、身体中に魔力を走らせていますよ。その一部をミヅキさんにお渡しするので、意識を集中して感じ取ってみてください」


 そう言うとマティアスくんは、取っていたわたしの手を、目の高さまで上げた。

 それまで、どちらかと言えば冷たかった彼の手が少しずつ暖かくなり、その温もりは手ばかりではなく、全身に広がるような気さえし始める。


「その感覚は、錯覚などではありません。それこそが、僕がお渡しした魔力なのです」


 ほー、なんだろう、この優しい感覚は。

 まるで冬の寒い日に、兄ちゃんがそっと自分のしていたマフラーを、わたしの首にかけてくれたかのような感じ。

 わたしに兄ちゃんはいないけどさ。


「今度は逆に僕の方へ、この手を通じて魔力を流してみてください。ゆっくりでいいですよ」


 わたしは意識を集中して、マティアスくんに魔力を渡すところを想像する。

 そうだな、マフラーを掛けてもらったから、お礼にわたしの手袋を貸してあげよう。


 わたしは空想上の手袋を外すと、マティアスくんの手に、それをはめてあげる。


 おっ、マティアスくんときたら以外に手が大きいな。

 わたしの小さな手袋じゃ、はめてあげるのに一苦労だよ。


 苦心サンタンの末、彼に手袋をはめてあげたわたしは、想像上の額の汗をぬぐう。


 ふいー、疲れたぜ。

 どうだいマティアスくん、わたしの魔力は届いたかい?


 空想の世界から戻ってみると、マティアスくんは、さっきよりもさらに驚いた顔をしていた。


「素晴らしいですよ、ミヅキさん。この膨大な魔力を、こうも圧縮して僕に渡すなんて」


 むふー、魔法少女にはなれなかったけど、初級魔導士わたし爆誕! くらいにはなれたのでした。


 ふふふふふっ。

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