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第63話 カフェ『炎の剣亭』、

「ああ、そこ開けましょうか。巻き上げ扉の調子も見たいですし」


 なんだって? マティアスくん!

 ここって開くの?!

 開けて、開けて!


「ええ、開きますよ。暖かい季節になったら、ここは開けてお店をやっています」


 そう言うと、マティアスくんは壁の前にしゃがみ込んで、出入り口の時と同様に早口で呪文を唱えた。

 どこかで、カチャリカチャリと解錠を知らせる軽やかな音が響く。


「鍵で開けても良いのですが、僕には呪文の方が簡単なので」


 マティアスくんの指し示す、厨房脇の壁には、幾つかの鍵がぶら下がっている。

 そう言えば、おっちゃんから出入り口の鍵を託された時は、あの中から外して手渡されたのでした。


 他の鍵は、倉庫とか、裏口とか、そしてこの正面の巻き上げ扉と称される場所に使われるものなのでしょう、きっと。

 おっちゃんは面倒がって、日頃はいちいち鍵を掛けたりはしていないようですけど。


 さて、鍵を開けたら、次はどうするんだい?

 この壁が、どんな風に開くんだろ? 興味は尽きない。


 わたしは口を開けた山の中腹から飛び出す戦闘機とか、プールの底から迫り上がってくるロボットなんかにロマンを感じるタイプなのだ。


 立ち上がったマティアスくんは壁の角へといくと、わたしが掃除する時、いつも気になっていた突起を操作し始める。

 組み木細工のようにカチャカチャと、マティアスくんの手によって形を変えたそれは、どう見てもハンドルのようにしか見えない。


 そして、そのハンドルを……? 回すの? 回すんだよね、やっぱり!

 いえ、ハンドルだから回すのは当たり前なのですけど、そこは手動なんですね。

 なんとなくマティアスくんのことだから、魔力を送ると自動で動くものかと思ってたよ。


 スゴい魔法の使い手に限って、なんでも魔法で片付けちゃうのはつまらないって思ってる節があるので、これもまた、そういったものの一つなんだろうか。

 なーんてことを考えながら、マティアスくんを見ていたんだけれど、その壁の開き方といったら、わたしの想像の遥か斜め上をゆくカラクリが仕掛けてあったのだ。

 

 マティアスくんがハンドルを回すと、ガタガタと重々しい音と共に壁の一部が消えてゆく。

 いや、消えているのではない。天井付近に向かって、徐々に壁が飲み込まれてゆくのだ。


 こ、これは?!


 シャッター?! シャッターだよね!! これって!!


 木造ながら、壁が二重になっているってのを聞いた時には、元いた世界にも、そんなのあったなーくらいなもんだったんだけど。

 何を隠そう、わたしたちの住んでいた家も、その二重構造の壁とやらの仕組みを取り入れていたのだ。

 お家を建てた時に、父ちゃんが自慢毛を撫でながら、小さかったわたしに語っていたのを懐かしく思い出す。


 だからそこまでは、驚かなかった。木造の洋風建築すげー、とは思ったけど。


 でも、シャッターには驚いた。


 友達のお家の雨戸がシャッター式だというのを聞いて、今時の一般住宅にはシャッターがあるのか、と少し羨ましく思ったことなども思い出す。


 なにしろシャッターと言えば、商店街。わたしにとって、商店街のシャッターは不思議な装置だったのだ。

 夜になって、閉店するとシャッターが降りて「ウチには何もあらしまへんでー」みたいな顔してるのに、次の朝ともなれば、いきなりシャッターが上がって「じゃーん、ウチはホントは八百屋なんやでー」みたいなところが、子ども心に不思議だったシャッター。

 それが、お家にあるなんてリッチ——みたいな。


 で、ここ『炎の剣亭』にもシャッターは、おった。

 どんな仕組みで、どんな風に動いているのか、とか細かいことはいいのだ。


 大切なのは『炎の剣亭』が、シャッターのお陰で、とてつもなく開放感に溢れたお店となったことなのだ。


 これで憧れのオープンカフェができるじゃないか!!


「うん、今年も問題なく動きますね。無事にお昼の営業もできそうです」


 うんうん、良かった良かった。

 マティアスくんのお陰だよ。


「でも、この仕組みを考えたのはミヒャエル先輩なんですよ。なんでも、お隣の国では、こういったお店が割とあるそうです」


 ほうほう、おっちゃん、頑固だ頑固だと思ってたけど、以外に頭が柔らかいんだな。

 きっと、お姫様のお供で、お隣の国にいった時にでも情報を仕入れてきたのでしょう。


 そうと分かれば、さっそくテーブルとイスを店先に出してみよう。


 わたしは、よいしょとイスを持ち上げる。

 で、でも……、これは重い。


 見た目のオシャレさに反して、『炎の剣亭』のインテリアは頑丈だ。

 つまり、重いのだ。


 これでは、おっちゃんが帰って来る前に、お試し開業できないじゃないか。

 うーん、困った。


 わたしは、店内に整然と並んでいるテーブルとイスを眺め、ため息をつくのでした。

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