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第61話 あゝ、憧憬の

 『炎の剣亭』に戻ってきたわたしたち。


 そう言えば、マティアスくんは、自分のお買い物はしたのかな。


「師匠のところには、特にコレというお目当てがなくても尋ねてゆきたいのです」


 うん、分かる。分かるよ。


「遊びにいって、師匠のお話を聞くだけでも楽しいじゃないですか」


 おお、それにも激しく同意します。


「それに、今回は掘り出し物を見事に手にいれることができました」


 ああ、コーヒー。わたしの大好きなコーヒー。


「僕としては、師匠とミヅキさんを、引き合わせることができただけでも嬉しいんですよ」


 ふふふっ。マティアスくんときたら、わたしに自慢のお師匠様を紹介したかったのね。


 なにも言わずに微笑んでいた彼は、さっそく厨房へと足を向けた。


 コーヒーやお茶を淹れるためのお湯を湧かす、小さな炉を作りたいって言ってたもんね。

 炉という言葉から、茶道なんかで見かけたことのある小さな囲炉裏を想像してたんだけど、どうやらちょっと違うみたいだ。


 そうですよね。この狭い厨房……、あれ? 狭くないな、以外に。


 ああ、そうか。いつもは、おっちゃんと二人で厨房に並んでるから狭く感じてるのか。


 とは言え、囲炉裏を作れる程の広さはないと思ってはいたんだけど。

 マティアスくんの説明を聞く限り、やっぱり囲炉裏っぽいものではないらしい。


 お湯を沸かす、ケトルを乗せられるくらいの大きさ。

 わたしでも持ち運びができるくらいの軽量。

 で、スイッチを押すだけで使えるお手軽さ。


 ふむふむ。


 魔力を貯めておく、電池みたいなものを入れておいて、燃料も不要。

 でもって、その魔力を循環させながら、熱を発するような魔法陣を描いて……。


 なにその、卓上クッキングヒーター。しかもIH。

 この世界じゃオーパーツみたいな魔道具を次々に考えつくマティアスくんは、実は密かに転生者とかだったりするんじゃないだろうね。


「僕は生まれも育ちも、この国ですよ。まあ、生まれたのはもっと北の方ですけど。育ちは、ここ王都と言っても過言ではないです」


 あー、田舎生まれとか、そういうんじゃなくて……。

 まー、いいや。


 ちなみに、その魔力を貯めとくっていう、電池みたいな装置は補充とか交換とかはいらんのかね?


「魔力を含ませた魔石を材料に作ろうと思っています。お湯を沸かす程度のものなので、魔力の消費量は少ないでしょうけど」


 取り替えも、当分の間は必要なさそうなのね。

 万が一の場合は、マティアスくんが自ら魔力の補充をしてくれるって言うし。


「でも、ミヒャエル先輩に頼めば、あっと言う間に魔力補充も済んでしまいそうですけどね」


 おや? そうなの?

 そう言えば、おっちゃんときたら、魔法まで使える魔法剣士だったっけ。


「あの先輩が勝手に設置してしまった、こんなモノにまで魔力の補充をおとなしくやってくれるとも思えませんが」


 おー、そんな大切なことを失念しておったよ。

 まずは、おっちゃんにコーヒーの良さを認めてもらわないと。


 ぐーたらなおっちゃんは、やる時はやる、頼れる人なのだが、敵に回せばこの上なくヤッカイでメンドクサイ人なのだ。


「慣れたらミヅキさんにもできると思いますよ、魔力の補充。というより魔力操作」


 おや? そうなの?

 そう言えば、わたしときたら召喚者特有の大魔力持ちって設定だったけ。

 すっかり忘れてたよ。だって今のところ、我ながらポンコツなんだもん。


「ミヅキさん、ときたま魔力が溢れてますよ。やっぱり聖女様の素質があるんですね」


 うー、気を使ってくれてありがとう、マティアスくん。


「ミヒャエルさんを、なんとかする魔法なんかもあると良いのに」


 おっちゃんを攻略する魔法があったら、ぜひ使ってみたいよ。


「ははっ、あの先輩をなんとかする魔法なんてありませんよ。それにミヅキさん、既になんとかしているように見えますけど」


 んー、そうなのかな。

 でも、元気づけてくれて、ホントにありがとう。かたじけない。

 おっちゃんを、頑張って陥落させるよ、このコーヒーを使って。


 わたしは、改めて『炎の剣亭』の店内を見回すと、そう決意を固めるのでした。

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