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第44話 お姫様の秘密は内緒なのだ【後編】

 どうやら壁の向こうからやってきた、同じ年頃の騎士様に姫様は興味津々。

 同じ城内とはいえ訓練場や詰所など、わざわざ日頃過ごしているお部屋から出てまでおっちゃんに会いに来たそうだ。


「会いに来た、というよりは、からかいに来た。という風でしたが。僕としては仕事中にいちゃつきやがって、リア充爆発しろ。といったところでしょうか」


「ああ、確かに当時、何回か姫様の専属護衛の連中が、彼女がいなくなったと城の中を探しまわっていたが、あれはミヒャエルのところに遊びにいっていただけだったのか」


 王室直轄の護衛騎士というだけでもたいへんそうなのに、お姫様にちょっかい掛けられたんじゃあ、おっちゃんの迷惑そうな顔が目に浮かぶようだ。

 さすがにお姫様が相手じゃ、わたしの時みたいに適当にあしらえないものね。


「しかしですね、ふと気がつくと、いつの頃からかミヒャエル先輩の目がマチルダ様を追っているように思えたのです」


「そりゃあ、護衛騎士が護衛対象を注視するのは当たり前の話ではないか。職務に忠実なミヒャエルならば尚更だ」


「でも、マチルダ様を見つめている先輩の目は、日に日に優しくなっていったんですよ。信じられないことに」


「うーむ。それは確かににわかには信じられん話だ。仕事中のあいつが優しい目になるなど考えられんだろう」


「僕だって始めは我が目を疑いましたよ。あの朴念仁を絵に描いた様な先輩がですよ、女性に対して優し気な視線を送るなんて」


 あー、やっぱりおっちゃんは、昔から朴念仁だったんだ。でも、そんなおっちゃんがお姫様だけには優しくなったんでしょ。

 しかも、お姫様の方から好意を示してるんだよね。身分の差こそあれ、他にはなんの問題もないじゃない。


 そしてそのあとは、国の命運を握る大魔獣の討伐を見事成し遂げ、お姫様本人のご指名で専属の護衛騎士になったんだよね。

 残す展開は、お姫様と結ばれてハッピーエンドを迎えるだけじゃないか。


 やっぱり身分か? 身分の差か? でもおっちゃん、辺境の弱小貴族の出とはいえ、その腕を頼りに騎士団の団長までに登り詰めた男だぞ。

 あの王様だったら、世継ぎの王子様もちゃんといるみたいだし、許してくれそうなもんだけどな。


「そうなのです。ミヒャエル先輩はマチルダ様の専属騎士として、まさに影のように彼女に寄り添う存在となったのです」


「そうだな、ミヒャエルのやつがマチルダ様の専属騎士となった時は、友として俺の鼻も高かったもんだ」


 いつも、おっちゃんとお姫様が一緒なんだったら、さらに二人の仲は深まるばかり。

 これはもう、ますます『めでたし、めでたし』となる絵しか浮かんで来ないぞ。

 この幸せ者めっ。なんか、わたしまでクラクラしてくるよ。


「あの街道の大魔獣討伐も、マチルダ様のために頑張った、との噂が宮廷魔導士の間にまで流れてきたこともありましたしね」


「おお、マチルダ様は隣国に行けなくなったことを随分嘆いておられたからな。あいつも、それを察したんだろう」


「先輩のお陰で隣国と安全に行き来できるようになって、マチルダ様は毎週のようにお忍びで遊びに行っていましたね」


「そうだった、そうだった。あいつもその度に出動していたからな。しかも騎士と悟られぬよう軽装備で。苦労が忍ばれるよ」


 ふんふん。でも、そのあとはどうなったんだっけ?

 おっちゃんは、騎士団長に任命されて、大出世したんだよね。

 マチルダ姫様の方は、確か……。


 ああ、なんだか、またクラクラしてきた。


 あーっ、だからもーっ! いったい、さっきから何なんだ、もやもやとした、この気持ちはっ?


「でも結局、ミヒャエル先輩と、マチルダ様は結ばれることなく……」


 そうそう、おっちゃんは、お姫様と結ばれることなく……。


 結ばれることなく……?


 そうだよ、おっちゃんは、お姫様とは結ばれなかったんだよっ——。


 だから、『炎の剣亭』のおっちゃんな訳で——。


 恋愛なんかと無縁そうに見えるおっちゃんにも、実は想いを寄せる人がいて——。


 わたしは『炎の剣亭』で働きたくて——。


 おっちゃんの想いはドコへいってしまったんだ——。


 でも『炎の剣亭』の、お台所事情は最悪で——。


 お姫様はおっちゃんのこと、好きだったんじゃないのか——?


 わたしの頭の中には、様々な思いが怒濤のように押し寄せる。

 聞いたことが、思ったことが、頭の中でぐるぐると渦を巻く

 ああ、キャベツの千切りがわたしを取り囲み、そしてわたしを切り刻む。


「ミヅキ様!」


 ネーナさんが、わたしを呼んでいるような気がする。

 けれど、それを最後にわたしの意識は、講堂での朝礼で倒れる美少女のように、パッタリと途切れてしまったのでした。

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