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第18話 炎のルドルフ、その呼び名に偽りはないのだ

 やっぱり、おっちゃんもルドルフさんもスゴい人だったんだな。

 まあ、わたしは最初に出会った時から分かってたけどね。なんちゃって。てへっ。


 でも、そんな名剣をオブジェにして飾っておくだけなんてもったいないじゃないか。ルドルフさんも、同じ火の属性なんだったら使えばいいのに。


「俺は元々槍使いだからな。でもまあ、せっかくなんでミヒャエルの店の開店祝いにと、あの台座に飾って持っていったんだが」


 ——恥ずかしいから、持って帰れ。


 と突き返されちゃったのか。おっちゃん、なんか妙なこだわりがあるんだな。


「そうですね。いくら言っても、頑に眼鏡を掛けようとはしないし。見てるこっちがハラハラすることがありますよ」


 おや、そうなのかマティアスくん。すると、あの異様な目付きの悪さ、いや鋭さは目が悪かっただけなのか。


「髭を蓄えて貫禄を出したいくせに、眼鏡を掛けるのは老け込んだ気がして負けだと思っているようですね」


「うむ、ミヒャエルの負けず嫌いは昔からだ。俺との模擬戦にも一切手を抜かなかったしな」


 頭の中で少年ルドルフくんを手玉に取る、料理人姿のおっちゃんが思い浮かぶ。

 しかも「まだまだだな」などと勝ち誇った笑顔を浮かべているのだ。

 くーっ、おっちゃん、想像の中でも偉そうだな、おい。




 マティアスくんに呼び掛けられて、わたしは夢想の世界から帰還する。

 みんなの少年時代に思いを馳せていたら、思いのほか楽しかったんで時を忘れてしまったよ。


 ルドルフさんは、お仕事、午後の部があるのか。騎士団長さんは忙しいな。お疲れさまです。

 マティアスくんも用事があるのか。当たり前だ。彼らは立派な社会人。しっかり、社会に貢献しているのだ。

 では就活中のわたしも、そろそろ退散するとしよう。




 騎士団の庁舎、とでも呼べばいいのかな。会社じゃないから社屋じゃないよね。

 ともかく騎士団関連のお屋敷風の建物の前。マティアスくんも、お向かいの建物へと消えていった。


 わたしは、去ってゆくマティアスくんの後ろ姿を見ながら考える。

 そして、がばっと振り返ると騎士団屋敷を見上げて頷いた。


 その刹那、わたしを呼ぶ声にはっとする。


「お嬢ちゃん、危ないから、ちょいと退いててくんなっ」


 荷馬車のおじさんでした。往来の真ん中で、なにやってんだ、わたし。

 ごめんなさいね、よっこらしょ、と。

 荷馬車のおじさんと、笑顔で会釈を交わし、わたしは再び騎士団屋敷を見上げる。


 今回の勝負。やはり、あの方が勝敗のカギを握っているような気がする。

 ふっふっふ。されば、今一度会っておかねばなるまい。




 翌朝、わたしは戦闘服、もとい制服に着替えると、果たし状を握り締め『炎の剣亭』を目指す。

 手袋を叩き付けたらかっこいいかと思ったけど、季節柄見当たらなかったので諦めた。

 もっとも、この世界で手袋を相手に叩き付けるのが決闘の申し込みの合図、となるのかは不明だけど。


 部屋を出る前に、久し振りにスマホを取り出して両親や友達と撮った写真を見る。


 ——いってきます。頑張るからね。


 ここに来たばかりの頃は、元の世界のことばかり思い出してスマホの写真ばかり眺めていた。

 お陰で電池はかなり減ってしまった。最近は電池が減ることもない。わたしだってスマホばかり見てはいられないのだ。


 バッグの中には昨晩のうちに研ぎ上げた武器を用意してある。助っ人の手筈も万全。持って行く荷物も整った。

 あとは、おっちゃんに、この果たし状を突きつけて、勝負に持ち込むだけだ。



————————————————————


果たし状


『炎の剣亭』店主 ミヒャエル殿


一筆申しあげます


花の蕾みもふくらみ、日いちにちと暖かさを感じる今日このごろ


あなた様は、いかがお過ごしでしょう


さて、このたび、私は就職活動を始めました


中でも、あなた様の『炎の剣亭』には、多大なる関心を寄せております


つきましては、私の雇用を賭けて、勝負をしていただきたく存じます


時は、本日、このあとすぐ


所は、貴店『炎の剣亭』にて


よろしくお願い申しあげます


           かしこ


        ホズミ・ミヅキ


————————————————————



 わたしは胸の高鳴りを押さえて、おっちゃんの待ち受ける『炎の剣亭』に歩みを進めるのでありました。

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