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第12話 また、拾う神あり。なのだ

「ええ、冒険者くらいですなんですが……」


 冒険者?! スゴい。異世界っぽい。なにそれ。いいじゃん。


「あんな危険な仕事、ミヅキさんにさせられません。それだけは、あきらめてください」


 なんだ、全力で否定されてしまったよ。マティアスくんがそうまで言うなら、あきらめよう。

 うーん、なんだか魔導士になるのも難しいんだね。まあ、機会があったら魔法を教えてもらうとするよ。

 ちなみに魔力を高める訓練とは、何をどう考えても、元いた世界における筋トレとしか思えない内容でした。


 でも、そうするとキミはすごいな、マティアスくん。その年齢で宮廷魔導士だなんて。

 いったい、どれほどの努力をしたというんだ、キミは。尊敬しちゃうよ、ホントに。


「うちは、地方の貧乏な貴族ですが、魔力の扱いに長けている一族でしてね。僕も13の年で合格してから、もう何年も経ちます」


 おー、そんな話を昨日したな。ん? 13歳で宮廷魔導士になって、それから何年も経つ? マティアスくんって、お年はいかほど?


「僕ですか? 今年で20歳になります」


 ひえーっ、わたしより年上じゃん。いや、年上じゃないですか。

 うっかりとした、これまでの無礼な態度の数々。お許しください、マティアス様。


「気にしないでください。これでミヅキさんが態度を変えるようなら、逆に怒りますよ」


 そう言ってマティアスくんは、引きつった表情のわたしに、いつもと変わらぬ笑顔で、にっこりと微笑んだのだった。




 わたしたちは、貴族街と下町の丁度境目にあたりにある雇用相談所から、比較的お城に近い場所に位置する宿舎に向かって歩いていた。

 あれから、様々な求人情報を確認したのだけれど、わたしに出来そうな仕事も、やりたいと思うような仕事も見つけられなかったのだ。


 帰る道すがら、後学のために過去の聖人様の偉業などを、マティアスくんに聞いてみた。


「あるとき現れた聖人様は、軍師を務めたと記録されています」


 今を去ること三百年ほど昔。小さいながらも、周りの列強諸国を退け続けてきたこの国も、遂に力尽きて、国の奥深く、つまりはこの王都の近くにまで攻め込まれたことがあるそうです。

 その聖人様は、見たことのない陣形、聞いたこともない作戦を次々と仕掛け、少しずつ敵軍を押し戻し、元の領地を守ったとされています。

 その後も情報を集めて、自国を含めた周辺の詳細な地図を作り、要所要所に砦を置き、町と町を繋ぐ街道を整えて、国力を上げたと伝えられています。


 うむうむ、勇者ではなく軍師様なんだ。この国に召喚されたのは昔のことだけど、わたしの世界では最近の方なのかしら。時空を超えて、どこかの特殊部隊の司令官コマンダーでも来たんだろうか。

 しかも、立案した戦略を実行するために必要な魔法まで使えたんだよね。聖人様になるには、それ相応の資質が必要な訳だ。わたしには務まらないかな、やっぱり。


 ふーっ。ため息が出ちゃうよ。


 試しに、わたしは、目の前の空間を指二本でスワイプしてみる。

 すると、そこには、わたしのステイタスやら、スキルやらが表示。


 される訳でもなかった。ここは、そういう世界じゃないのだ。


 でも、もし表示されたとしたら、わたしのレベルはLv.1だろうか。

 いやー、この世界に来たばかりで、右も左も分からないし。

 やっぱりレベルは0かな。


 いんや、顔見知りもできたことだし、ここはLv.1ということで。

 でも、Lv.1かー。先は長いなー。


「少し早いですが、夕食を食べて帰りませんか。ご馳走しますよ」


 わたしは、よっぽど気落ちした顔をしていたのだろうか。マティアスくんが夕飯に誘ってくれた。いいヤツだなあ。




 宿舎から徒歩5分。下町に、より近い場所にマティアスくんおススメの、そのお店はひっそりとありました。


『炎の剣亭』


 スゴい名前だ。いや、いい意味で。わたしは好きだな。


 日本で言えば、山の手の高級住宅街であるところの貴族街の中にあって、どことなく庶民的な親しみを感じる店構え。


「ここのマスターとは、昔馴染みでしてね。この時間なら空いてるでしょうし、さあ入りましょう」


 マティアスくんに促され、店に入ろうとしたわたしの目に、なにかの張り紙が映る。

 店の前に張り紙だなんて、ますます庶民的じゃないか。気に入ったぞ。

 で、何が書いてあるんだ。入店上のご注意? とか?


『従業員募集』


 なんだってーっ!?


『給仕 および 厨房作業補佐』


 ふん、ふんっ!


『賄い付き』


 おおーっ!


 その短い文章を、何度も何度も読み直す。


 わたし、ここで働くよっ!!

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