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第119話 萌えよ、ファイヤーボール! なのだ その一

 心の中にある火を絶やすな。

 イメージしたファイヤーボールに、心の火を焼べ続けろ。


 リンゴよりも、一回りばかり大きくしたまん丸なシールド。酸素を送り込むための空気穴付き。

 その中で、赤々と燃えているのは、わたしの作り出した小ぶりなファイヤーボール。


 小ぶりだからって、バカにしちゃあいけないよ。

 これでも、渾身のファイヤーボールなのだ。


 気合いを入れて魔力を送り込んだせいか、イメージの中のファイヤーボールはますます赤々と燃え盛る。


 おー、これはもう火の玉を超えて、炎の玉と呼んでも良いのではないか。

 いや、呼んでしまおう。おっちゃんなんかに言わせればまだまだかもしれないけれど、わたしだけは、これはもう炎の玉と呼んであげよう。


 よしよし、だいぶ育ってきたね。

 もう少しだけ、頑張ってみようかな。


 わたしは、心に思い浮かべたリンゴ大のファイヤーボールを、もう少しだけ大きく、つまりは憧れのメロンの大きさにしてみる。


 むー、しまった。

 メロンの大きさにした途端、火の勢いが弱まってしまったぞ。


 炎の玉に昇格したかと思えたけれど、またもや火の玉に逆戻り。

 心の中で思い浮かべているファイヤーボールは、大きさを増した代わりに、水で薄めたお茶のように色あいが淡くなってしまった。


 気合いか?! 気合いが足りないのか?!


 ほほう、この局面で、わたしにケンカを売るとはいい度胸じゃないか。

 良かろう、買ってやる、このケンカ。表へ出るがいい。決着をつけようじゃないか。

 あ、やっぱりダメ。その中にいて。シールドの外へ出ちゃったら消えちゃうかもしれないから。


 心の中に浮かんでいる、思った通りにはならないファイヤーボールを相手に、わたしは一人奮闘する。


 ここはひとつ、竹筒の出番かな。

 昔、テレビかなにかで見た時代劇。お風呂は、薪を燃やして沸かしていた。

 ちょうどわたしが、『炎の剣亭』で煮炊きをする時には、竃を使っているように。


 お風呂が(ぬる)くなったら、新たに薪を焼べ、節をくり抜いた竹筒をふうふうと吹いて酸素を送り込み、火の勢いを盛り返していたのだ。


 火の玉を覆うシールドは、酸素の供給が遮断されないように、小さな丸い穴を開けてある。

 そこへ竹筒を差し込んで、ふうふうと吹いてみるイメージで、新鮮な酸素を大量に送り込むのだ。


 ふーっ、ふーっ!

 どうかな?


 おー、心なしか、勢いが盛り返してきたよ。

 火の色だって、赤みを取り戻し始めている気がする。


 もう一度、ふーっ、ふーっ!

 まだまだかな?


 おおー、さっきよりも調子いいみたいだぞ。

 火の勢いもメラメラと……、ならないね。


 あれ? 急に弱くなっていくじゃないか?

 いったい、どうしたっていうんだ。


 頑張れ、わたしのファイヤーボール。


 ……ダメだ。

 ふーふーと息を吹きかけた瞬間は、パッと火の勢いが強まるけれど、すぐに元に戻ってしまう。


 むむー、なんでだろう?


 しばし、あれこれと逡巡していたわたしは、ふと思いつく。


 燃料かな。


 そう言えば、始めにファイヤーボールを発動した時から火を大きくするイメージばかりで、燃料を足すイメージをしていないや。


 よし、まずは手始めに、なにか燃えやすいものをイメージしよう。


 わたしは、この世界にはない古新聞の束を思い浮かべる。


 そのまんま放り込んだんじゃ逆効果だから、面倒だけど、一枚ずつ千切って手頃な大きさにしたものを次々に焼べる。


 よしよし、やっぱり古新聞は良く燃えるなー。


 この世界では、紙は高価なものらしいけれど、今は心の中のイメージの話しなのだ。ケチケチせずに、盛大に燃やしてしまおう。


 おー、火の勢いがだいぶ回復してきたよ。大きさもそのまんまだし。


 次は、木炭でも入れてみようかな。

 そうだ、既に火の点いた状態で入れてみたらどうだろう。

 キャンプのバーキューの時みたいに、うまいこと火起こしをした炭。


 わたしはアウトドアが苦手、というより、あんまり経験がないのだけれど、うちの父ちゃんがそういうのが得意だった。

 キャンプ場でバーベキューなんかした時には、父ちゃんの手慣れた火起こしのようすを見ているのが楽しかったっけ。


 その時の赤々と火の回った炭を、ファイヤーボールの真ん中に出現させる。


 おおー、良く燃える、良く燃える。


 あの火の上に網をかけて、その上でお肉を焼いたら遠赤外線効果で、外はカリッと、中はジューシーな肉料理が仕上がるに違いない。

 それをシンプルに塩と胡椒だけで味付けして、できればスダチなんかもキュッと絞ったら、さぞや美味しいものが……。


 いやいやいや、今はそんなことを考えている時じゃない。


 ごきゅっと唾を飲み込んだわたしは、気を取り直して自分の作り出した火の玉に意識を戻す。

 メロン大の、とても立派なファイヤーボールが、そこにはあった。


 うおー、我ながら良い出来だ。


 でも……。


 ここまで来たら、いっそのことスイカっくらいの大きさになるまで挑戦してみたい。


 思い浮かべるのは、昔、おばあちゃん家でご馳走になった大きなスイカ。

 井戸水で良く冷やしたスイカを真っ二つにすれば、中から覗くのは美味しそうな真っ赤な果肉。

 つぶつぶと、ところどころに見える種の黒い色も、またプリティー。夏の風物詩、スイカ。


 うむ、この際だ。さらに頑張ってみようではないか。


 わたしは、ぐぐっとファイヤーボールも、それを覆っているシールドも大きくなるようにイメージした。

 今度は、炎の色も薄まることことなく、勢いもそのままに火の玉はスイカのように膨れ上がる。


 うーん、スイカってこのくらいの大きさだっけ?


 うんうん、このくらいの大きさだったと思うよ。

 おばあちゃん家で食べたのは、確か、これっくらいだった。

 あれは美味しかったなー。ちょちょっと塩を振ったりしてね……。




「ホズミッ!」


 むー、誰だ、わたしを呼んでいるのは?

 今、いいところなんだ。おばあちゃんとの思い出、スイカに思いを馳せている最中なんだよ。



「おいっ! ホズミッ!」


 尚も声は、わたしを呼び続ける。


 だから、今はおばあちゃんとの思い出……じゃないや、わたし史上初のスイカ大ファイヤーボールに挑戦してるって言ってるでしょ。ジャマをしないでほしいなー。


 わたしは、そっと閉じていた目を開くと、声のする方向へ視線を向けるのでした。

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