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第118話 燃えよ、ファイヤーボール! なのだ その八

 集中、集中。意識を集中。


 いつもだったら、手の平サイズのみかんくらいのファイヤーボールが限界なんだけど、今日はもうちょっと大きなやつを作ってみたい。

 スイカ……とまではいかなくても、メロンくらい? 

 あれ? メロンも高級品だったら、けっこう大きいかな。


 もうちょっと、お手頃なサイズがいいかな。なにがいいだろう。

 そうだ! リンゴ! リンゴくらいの大きさでいこう。


 わたしはまず、リンゴより一回り大きな球体のシールドを頭上に張る。

 風に吹かれても、すぐには消えないようにね。

 もちろん、酸素を送り込むための小さな穴を開けておくのも忘れない。


 その中に漂わせるのは、気化した可燃性のガス。

 でもやっぱり、火事にでもなったら怖いので、それはやめておこう。

 可燃性のガスったって、良く知らないものは、そう上手くはイメージできるものでもないしね。


 もっと身近なもの。なにか、いいものはないかな。

 いつも『炎の剣亭』で竃に火を入れる時に使うのは、木っ端くずよりさらに細かいおがくず。

 薪を積んである倉庫を掃除すると出てくるおがくずを、火を点ける時のため、捨てずに取ってあるのだ。


 まずは、おがくずを竃の底に盛るでしょ。

 そこに、わたしの小さな火種用のファイヤーボールで火を点ける。

 おがくずに火が燃え移ったところで、火の玉を維持したまま、焚き火するときのように薪を焼べていくんだけど、始めは細くて燃えやすい枝切れからね。

 いきなり大きな薪を入れちゃうと、火種のファイヤーボールも消えちゃうからさ。小さなことからコツコツとやるのが、ファイヤーボール着火のコツなのだ。


 あ、今のはダジャレではないです。


 火の勢いが増すと共に、小さかったファイヤーボールも少しだけ大きくなって安定するから、そしたら一安心。

 火元から目を離さず、ファイヤーボールに魔力を送り込むイメージだけは絶やさずに、薪を竃に入れてゆけば火起こしは完了。


 着火のためのファイヤーボールが消えても、竈の火は消えてない。


 この世界にも、火薬とかはあるっぽい。マッチらしきものも近所で使っているのを見かけたことがある。

 それらを使えば、竃の火起こしも楽なんだろうけれど、まわりの誰も、なによりおっちゃんが使っていないのだ。


 これだから魔道士ってヤツは……と思いつつも、おっちゃんの一番弟子を標榜したいわたしは、おっちゃんに倣って魔法で火を操りたいのだ。


 ちなみに、マッチはありそうだけれど、ライターまではないっぽい。

 それらしいのは、マティアスくんの作ってくれた着火用の魔導器だけしか見たことがない。


 あとね、竃で使うと出る大量の灰。

 灰は竃を掃除した時に、袋に詰めて取っておくのだ。

 それらは、たぶん農家さんだと思われる方が、定期的に持っていってくれる。

 『炎の剣亭』では、薪も良い素材を使っているらしくって、灰は高品質な肥料になるそうなのだ。


 なんとエコロジカル。というか、灰でさえ無駄にしないおっちゃん、偉いな。


 お話しが横道に逸れてしまった。

 『炎の剣亭』の竃事情を話したかったのではなかった。


 今回、これまでの研鑽の結果を以て、おっちゃん、ネーナさん、そしてわたし自身をこの窮地から救うべく、いつもより大きなファイヤーボールに初挑戦するのだ。


 着火するための発火現象は、自在に起こせるようになっている。

 より強力なものにするために、なにかを燃やすところをイメージするのが良いのだけれど、なにを燃やそうかなって話しだったよ。


 せっかくなので、さっき見かけた小麦粉がいいかも。

 運が良ければ、机上の空論、粉塵爆発も起こせるかもしれないし。


 あの、あくまでわたしのイメージの中でね。


 よしよし、今回は小麦粉にしよう。

 小麦粉を、よーく乾煎りして……と。

 さっき作った丸いシールドの内部に、ふぁさーっと振りまいて……。


 そして、着火っ!

 よーし、ドッカーンッ!


 ………………。


 とは、ならないね。


 わたしは、そっと頭の上を見上げる。

 そこには、確かにいつもよりは大きなファイヤーボールが浮かんでいた。


 大きさは、目標にしていたリンゴよりも一回り大きなものだったんだけど、火の勢いが今ひとつ足りないように感じる。

 しかも思っていたのと、ちょっと違う。


 小さくても赤々と燃え盛る、まさに真っ赤に熟したリンゴのようなファイヤーボール。

 それを目指したい。もう少し頑張ろう。


 集束、集束、魔力の集束。


 気を散らすな。

 意識を集中させろ。


 もっともっと、自分の持っている魔力を、あの火の玉に集めるのだ。


 ふと、もう一度、頭の上を見上げて、ファイヤーボールのようすを確認する。

 大きさはそのままながら、火の勢いが違う。さっきより格段に燃えている感が強い。


 おー、いい感じだ。

 段々火力が上がっているようだ。

 よしよし、この調子、この調子。


 でも、もう一歩かな。

 もう少しだけ、強そうなものにしたい。


 再度、目標の裏庭中央付近の泉を見据えたのち、今度は目を瞑って意識を集中してみる。


 おおー、この方が集中できる。


 マティアスくんは、危険な攻撃魔法を使う時には、攻撃する対象から視線を外してはいけないと言っていた。

 わたしの使っているのは、竃に火を入れるための魔法。用法要領を、間違いさえしなければ危険はない。


 おっちゃんは、そんな生活魔法であっても、自分が魔法で作り出した火からは目を離すなと言っていた。

 うん、それは正しい。鍋を火にかけたまま、忘れていたりでもしたら火事になっちゃうからね。


 でも、今は、そのどちらでもない。


 こうして、目を瞑っていた方が意識を集中させやすい。イメージを固めやすい。そこへ魔力を送り込みやすい。

 火の玉、火の玉、小さいけれど良く燃えている火の玉。魔法を教えてもらった時から、今までの努力の結晶の火の玉。


 ファイヤーボールに祈りを込めて。

 燃えよ、わたしのファイヤーボール!


 わたしは、頭の上、伸ばした両手の間にできているであろうファイヤーボールを、より大きく強くするべく、ただひたすらに念じ続けるのでした。

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