映画の様に劇的でハッピーエンド
幼き頃に父を亡くした婚約者が、修道院へと出される末弟を愛していると、泣き出した。丁度良いので、
「実は愛する人がいる」
打ち明けた。彼女に手を出さぬ事で分かっていたのだろう。
「婚約破棄なら、映画の様に劇的でハッピーエンドに」
願いを叶える為、末弟に気持ちを聞く。
「兄上。すみません。リリーと僕は」
「いい、皆まで言うな」
よし、ならば密かに進めてきた計画を実行する。
少女の様な顔、国一番の美少年誉れ高い末弟を、何かと噂が高い『男子修道院』に向かわせない為に。
愛らしい末弟と今の様に日々、共に過ごせる為に。
チャンスを逃す事はしない。
イベントが必須条件。パーティー会場で『アレ』が相応しい。
先ずは愛する人を説得しなくては。
出逢った時から花を贈り手紙を贈り、通い詰め、最近ようよう、逢う事を許された麗しき彼女を。
秘密の部屋にて、求婚を贈る。
「いけません、気の迷いで、ほだされただけなのですから」
青ざめた顔も美しい。毅然と断られる。
「私は本気だ。愛しい人よ。愛している」
「でも、殿下のお立場に、リリーが」
「所詮ナロッパ国の第六王子故、王籍から離れる事など造作もない、幸せが欲しい。リリーも然り」
愛しの人に天使の様に愛らしい末弟と、妹の様な、リリー。皆、幸せにしたい。
「私の夢なのだ。父上には既に了承済みだ」
渋っていた彼女だが話が既に決定済な事を知り、法的には大丈夫ですの? と話を詰めてきた。
「教会にも問い合わせたが、今なら、何ら問題はないとの話だ、愛している、愛している。手を取っておくれ」
「そこまでお話が。ああ、いけないのに。でも、こんなに熱烈アプローチされたら。そう、それにリリーの為なら。許されますかしら」
よろめいたねマダム。
愛しているよ。
パーティー会場。
高らかに婚約破棄を言い渡す。リリーは受け入れ、彼女を支える末弟の姿。ほとぼりがさめたら新たに婚約を執り結ぶ段取りである。
「私は彼女との婚姻の為、臣下に下る」
「殿下、そのご令嬢とは」
大臣のひとりが問う。
控えていた彼女を迎えに行き壇上で寄り添う。
「そのお方様は」
ざわめく人々。
夫亡き後、賢明に公爵家を支えた彼女。
この場においても威風堂々と立つ彼女。
口説き落とすのにどれ程手間を要したか。
「お母様」
リリーが淑女を忘れ小さく声を上げる。
私は彼女の義父となる。ひいては末弟の義父でもある。
「リリー。許しておくれ」
そう夢が叶う。私は傍らに立つ愛しの人の肩を引き寄せた。