謁見〜料理長の場合〜その3
お待たせいたしました!!
ちょっと仕事が忙しくて不定期がちですが、他の作品もエタりはしないのでご安心ください!
それでは、楽しんで頂ければ幸いです!!
ぞろぞろと室内に給仕達が現れて、料理を乗せたカートを並べていった。
カッポウの瞳は好奇の色で染まっており、先程まで不安な感情はもはや消え失せていた。
そこには部下を探す料理長の姿はなかった。今の彼の姿はただ一人の料理を探求する男のそれであった。
「ほほう。」
「これは何とも。」
ナァルフォードとサヨーデは並べられた料理の数々に唸り声を上げた。
それは素人目に見ても、細部に至るまで細かく計算されたフォルムでもって皿に乗せられていた。
ノママーニも遠目ながらに感嘆の表情を浮かべている。
「これは・・・・・・何という美しい造形だ!」
料理長が上下左右から舐め回す様に料理を眺めていく。
「ほほう、これはこうなっているのか、であるならばこちらは・・・・・・おお!何と!!」
感嘆の声を上げ続ける料理長を前に、ナァルフォードとサヨーデは視線を交わし合った。
それは、目論みがうまくいったことを喜ぶようでもあり、また別のことを伝えているかのようでもあった。
しかし、ノママーニだけは何とも言えない表情を浮かべていた。
「では料理長。毒見も兼ねて、食べてみてはくれないか。」
サヨーデが手を差し出し、それにカッポウは答えるよりも先に必要な食器を手に持っていた。
「はっ!では、不肖カッポウめが、毒見を仕ります。」
カッポウはそういうと嬉々として料理に手を伸ばし始めた。
並べられたものを順番に食べようと、端の位置につき、ナイフとフォークでもって切り分けて口に運んだ。
一皿目、二皿目、そして三皿目、と時に鼻から香りを楽しみ、時にためつすがめつフォルムを楽しみ、時に舌先で感触を確かめながら毒見を進めていった。
「・・・・・・どうなのだ?」
ナァルフォードは気になって仕方がないというふうに身体を前に乗り出した。
「はっ、いえ。」
カッポウはそれに歯切れ悪く答えた。心なしか、表情も曇り気味である。
「私達も食して見ましょう、陛下。」
サヨーデが指示を出し、二つの皿に料理をそれぞれ盛り付けられた。
受け取り、片方をナァルフォードへと差し出した。
給仕からフォークを受け取るナァルフォードは、料理を眺めながら首をかしげた。
「一件して見た目は普通だが・・・・・・。どれ。」
言いながら、料理の一つ、海老の身に野菜のソースらしきものがかけられたものを口に入れた。
「・・・・・・これは!!」
「なんと!」
ナァルフォードとサヨーデが同時に目を見開き、互いに顔を見合わせた。
その後、料理長へと視線を向ける。
二人の視線を受けた料理長はややのけぞりながらも、頷いた。
ノママーニは緊張からか息を呑んだ。
「・・・・・・味が、せん。」
「ええ、香りも見た目も一級なのに味覚という部分において何の刺激もない。」
「そうなのです。正確には素材の味はありますし、塩気もうっすらとあるのですが、基本的には味付けがなされておりません。」
「全ての料理が、そうか?」
「はい、全てでございます。」
「で、あるか・・・・・・。」
ナァルフォードはため息を吐くと皿を給仕に返し、深々と椅子に背中を預けた。
「・・・・・・カッポウ。この料理を食べて、あなたはどう思いましたか?」
サヨーデがカッポウへと手に持った皿を突き出した。
そこには一口ずつ食べて残された料理が乗っている。
カッポウは額の汗を拭き取りながらそうですね、と真剣な考え込んだ。
やがて、己の思考を溢していくかのようにポロポロと言葉を紡ぎ始めた。
「この時点での味、これが正解かどうかは正直わかりません。元の料理を知りませんし・・・・・・いや、
でもそんなことがあるか?でも、あいつなら、いや、でもそんな偶然が・・・・・・?」
考えを述べながら徐々に眉を寄せていくカッポウを見て、ナァルフォードとサヨーデの眉も次第に寄せられていった。
「・・・・・・あのー。」
その時、ノママーニが話を遮るように声を出した。
三人の視線が一斉にノママーニの方へ向く。
「どうした。」
ナァルフォードの問いに、ノママーニは新たに給仕が運び込んだカートを指さした。
「デザートのケーキが、届きました。」
見れば、新しいカートの上にはまたしても見事なケーキが盛り付けられていた。
しかし、ナァルフォードとサヨーデは溜め息をついて首を振った。
「全てがこのような味であるならば、それも同じでしょう。もはや食べる必要はありません。」
「そうだな。よし、料理人をここ・・・・・・。」
ここに呼べ、そう口にしようとしたナァルフォードの言葉をカッポウが遮った。
「陛下!そのケーキ、私が味を見ても宜しいでしょうか?」
「うん?変わらんと思うが、好きにせよ。むしろそれがあやつの本懐だ。」
「?・・・・・・では。」
ナァルフォードの言葉に僅かに首を傾げながらもカッポウは大きく頷いた。
そして、皿に盛り付けられたケーキを横に置かれたカトラリーで切り崩し、口に運んだ。
もはや、国王と宰相の興味は薄れており、その場には真剣な眼差しでカッポウを見つめるノママーニと、味わうカッポウの食器の僅かに擦れ合う音だけが響いていた。
「やはり、そういうことか。」
先程までと違い、取り分けた皿の全てを食べ切ったカッポウが息を吐きなぎら食器を置いた。
ついで、新しい皿に二人分のケーキを取り分けると、それを持ってナァルフォードとサヨーデの元へと近づいた。
訝しむ二人を前にして、頭を下げながら皿を差し出した。
「どうか、こちらを。」
皿を目の前に顔を見合わせた二人は、渋々ながらもカッポウから皿を受け取った。
「どうせ変わらんのだろう?」
ナァルフォードは早く終わってしまいとばかりにやる気のない仕草でケーキにフォークを突き刺した。
一口大に押し切り、口へと運ぶ。瞬間、ナァルフォードの雰囲気が変わった。
「うっま!これ、うっま!!!」
「な、陛下が口調を崩されている!?まさか、ほんとうに・・・・・・??」
ナァルフォードの様子に驚愕の表情を浮かべたサヨーデも、続いてケーキを口に放り込んだ。
「うま!いや、なんていうか、うま!!」
そしてナァルフォードと同様にケーキに感嘆の目を向けた。
「口の中で香りと甘さが絡み合い、相乗効果を生み出している!!まさに、デザートの共演であり饗宴、大舞踏会だっ!!!」
「出た!!陛下の料理解説名語録!!」
説明しよう!!料理解説名語録とは、ナァルフォードの治世において何度も見られる、料理評論家がするようなコメントにナァルフォードがハマった結果生み出された多様な言葉の数々である!!!
なお、特に上手いこと言ってるわけではない!!!
「なんだ、この先程までの料理との差は!!」
フォークを握りしめたままナァルフォードが震えた。サヨーデに至ってはおかわりをしようとして勝手に動く己の手を抑えつけていた。
私の予想ですが、とカッポウはナァルフォードの疑問に答えた。
「この料理を作られたお方は恐らく甘味以外の料理について、味付けを学んで来なかった、もしくは味付けがわからないのではないでしょうか?」
「何!?」
「実をいうと、部下である彼女もそうなのです。見た目や調理の技術はあるのです。ですが、味付けという根本の技術に関しては、本当に未熟というか、予想を超えてくるというか、彼女もまた甘味に関しては文句の付けようがないほどの・・・・・・もしや?」
言いながらカッポウは表情を変えた。驚いた表情を顔に貼り付け、ナァルフォードとサヨーデを交互に見つめ返した。
「陛下、もしかしてこの料理を作ったのは。」
「本人を控えさせているので、ここへ呼びましょうか。」
ナァルフォードは問いには答えず、サヨーデがカッポウへと語りかけた。押さえ付けた手は未だぶるぶると震えていた。
ノママーニはサヨーデの目配せを受け、謁見の間の扉へと近付き、こんこん、と合図を送った。
ややあって扉が開き、パンナコッタがおそるおそる入室してきた。
カッポウの姿が目に入ると、緊張で更に顔を強張らせた。
「やはり、お前か。」
「騙すような真似をして済まなかった。だがどうしてもそなたに料理を食べてもらいたいと彼女が来たのでな、今回のことを思いついたというわけだ。」
したり顔でことの成り行きを話すナァルフォードに、ノママーニを呆れたような視線を向けた。
カッポウは首を振り、立ちすくむパンナコッタへと語りかけた。
「パンナコッタ・・・・・・。」
「料理長!私、正直よくわかりません。どうして料理長は、美味しいものを一杯作れるのに、見栄えや調理方法についてもっと凝ったり、冒険しないのか。たしかに私は普通の料理の味の良し悪しはまだ全然わかりません。でも、料理って、味だけじゃないじゃないですか。伝統的な素朴さも大事ですけど、もっと革新的なものもあっていいと思うんです!」
「だからといって味が悪ければそれも無駄だ。」
訴えかけるパンナコッタに、カッポウは苦々しい表情で吐き捨てた。
「味が美味ければ見た目は悪くとも、ありきたりなものでも食べてもらえる。だが逆はどうだ!現にデザート以外の皿はこんなにも残されている。俺はな、パンナコッタ。飾りつけや調理のセンスは正直なところない。だが味は別だ。誰にも負けない自信がある。」
「だったら教えてくださいよ!もっと私の料理を食べて、何が必要なのか、ちゃんと教えてくださいよ!」
「だがお前の料理を見るたびに俺は自分のセンスの無さを刺激されるんだ。味では勝っている筈なのに、なんだか負けた気持ちになるんだ!!」
カッポウの言葉を皮切りに、後は言い争いとなった。パンナコッタも吹っ切れたのか、カッポウに負けない勢いで思いの丈をぶつけている。
ナァルフォードとサヨーデは二人を見守りつつ、何も答えない。
「私も料理長に教えますから!!料理長も私にちゃんと教えてください!!」
「だが味付けは何度も教えた筈だ!なのに何でこんなに薄味になるんだ!!」
「だって料理長前に言ったじゃないですか!自分がまず美味しいと思えるものを作れって!!」
「んっ?」
「えっ?」
「はっ?」
「・・・・・・えっ?」
言い争いは激しさを増し、互いに引かず意見をぶつけ合っていたが、パンナコッタの発言でその場は凍りついた。
その場にいるノママーニとパンナコッタを除いた全員が呆けたように口を開けて目を見開いた。
カッポウが恐ろしいものを知ったとばかりに震える声でパンナコッタに話しかけた。
「・・・・・・え、お前もしかして・・・・・・この料理を美味しいと思うの?」
「これでも私は料理人です!不味いと思うものを人に出すわけないじゃないですか!!」
憤慨したように反論するパンナコッタの言葉に、再び沈黙がその場を包み込んだ。
「ああ・・・・・・。」
それは誰の声だっただろうか。諦観にも似た納得の声は、周囲に吸い込まれることなく謁見の間に大きく響き渡った。
気まずさがその場に充満していった。互いに目配せを行うパンナコッタ以外の四人だが、しばらくして咳払いと共にカッポウが申し訳なさそうに口を開いた。
「まあ、その、なんだ。今度デザート以外の料理で、お前が不味いと思うように味付けしたものを食べさせてくれ。」
ナァルフォードの在任中は、料理文化においてもまた多大な影響を後世に残した者が現れた、と文献には残っている。
その者達の名はカッポウとパンナコッタ。
二人は互いに協力し合うことで料理史に様々な偉業を残していった。
なお、パンナコッタは甘味以外においては重度の味覚音痴であり、ただし細工や発想においては他の追随を許さないほどの技量であったと、文献には残っている。
また、カッポウは逆に新しい調理方や細工に関してはその感性の無さを度々指摘されていたが、味付けにおいてはナァルフォードから度々料理解説名語録を引き出したとされる程の腕前だったことをここに記しておく。
次回から、裏です!
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