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謁見1〜女農商の場合〜その2

本日2話目の投稿です。

「面を・・・・・・上げよ。」


 

 国王が女へと声をかける。決して大きいわけではないのにその声はよく響いた。


「ははっ」


 女は声をかけられて頭を更に低くした後、ゆっくりと頭を上げた。

 やや太めの眉毛と凛々しさを感じられる瞳、それでいて全体的に見ると優しそうな相貌は、多くの人間が美人と評するだろう。


「直答を許す。楽にせよ。」


 その一言で女は再び一礼し、今度は身体を全体的に持ち上げた。

 いわゆる正座の状態である。


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


 王はわずかに目を見開いた後、女を見下ろしている。

 女も王から目を逸らさず声をかけられるのを待っている。

 通常であれば、先の問答の後、王が訪問者の名前と理由とを尋ね、その後やり取りに続いていくのだが、なぜか今日は違った。


 沈黙を見かねたサヨーデ宰相が気を利かせ、女に言葉をかける。


 近衛のノママーニが声をかけても良かったのだが、彼は何故か二人からは目を逸らせていた。



「んんっ、それでは貴方の名前と、今日訪れた理由を申しなさい。」


「はい。私は西の領主のおさめる農村ニシノムラで作物で商いをしております、ムノーヤクと良います。

実は本日は賢人と名高い国王様にそのお知恵を貸して頂けないかと思い、こうして参上した次第であります。」


「・・・・・・なるほど。」


 王は頷いた。


「・・・・・・。」


「それで、ムノーヤクと言いましたか、その借りたい知恵の内容とはどのようなことなのですか。」


「はい、実は今、ニシノムラでは新しい特産となる農作物を模索しているのですが、どれもあまりピンと来ず、、、。既存の作物でも問題はないのですが、最近は仕事が飽和しているため出稼ぎに王都へと出て行く農家の子供が多く、地域としての特産を生み出せれば、そこに人を割くことが出来るかと思いまして。」


「・・・・・・なるほど。」


 サヨーデの問いに女はハキハキと答える。ただその整った眉根は寄っていて、思い悩んでいるのが容易に見てとれた。


「サヨーデよ。ニシノムラというと、領主はウェストであったか?」


「左様でございます。」


 ふむ、と王は己の髭を手を当てた。


「ムノーヤクよ、ウェストのやつは何をしておる?

 此度の件についてあやつはどのような対応を取った

のだ?」


 王の榛色の瞳が鋭く煌めく。領地を任させている以上、領民の声に応えられないのは怠慢である。その場にいる者は領主であるウェストが領民を蔑ろにしているのではないかと考えたのだ。


 ムノーヤクは三人の内心に気付き慌てて両手と共にかぶりを振った。


「いえっ、ウェスト様はご自身の配下の数を大幅に増員してくださいましたし、商家や高齢な働き手しかいない農家への口利きも行なってくださいました!」


「で、あるか・・・・・・。」


 知らず前のめりになっていたのであろう、王は玉座へと深く背中を預けた。

 しかしその目は鋭さを失ってはいない。


 サヨーデは肩を撫で下ろし、ノママーニはナァルフォード王とムノーヤクに交互に目をやっている。

その様子は成り行きを見守っているようでもあり、何かを確認しているようでもあった。


「はい、それでウェスト様とも相談させて頂いたのですが、いい案が浮かばず、、、。」


 そういうと、ムノーヤクは胸の前で手を握りしめると悲しげに目を伏せた。


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「桃・・・・・・いや、メロンか・・・・・・。」


「は?」


 謁見の間をしばし静寂が支配した後、王がポソリと呟いた。

 サヨーデは聞き逃すまいと王の方へと顔を向ける。


「・・・・・・。」


「っ!それはもしかして果実を栽培せよということでしょうか!」


 ナァルフォードの言葉にムノーヤクは弾かれたように身体を起こした。


「!!・・・・・・チェリーっ!!!」


 王は只事ならぬ様子で玉座の肘おきを握りしめた。

その様子を見てサヨーデは声を上げる。


「おおっ!王の言の葉下ろしが出た!!」




 説明しよう!言の葉下ろしとはナァルフォードの治世に置いて度々登場する行為であり、数々の問題に直面した時、王の呟くように紡がれた言の葉がその問題を瞬く間に解決するという奇跡の御技である!!!

 後世においては一種の神降しのような行為ではないか、ナァルフォードは天啓でもって問題解決を図ってきたのではないかと実しやかに囁かれている!!!


「確かに果実は盲点で御座いました!春の終わりを迎える今、夏にとれる果実を育てることができればそれはまさに特産と言える!王よっ!名案で御座いますぞ!!」


 サヨーデが興奮から常日頃のすまし顔をかなぐり捨ててまくしたてる。

 

「ニシノムラは活用していない盆地がまだ沢山あります。それらを開発し、果実の製作に充てろということでしょうか」


 ムノーヤクも目の前に現れた活路に興奮を隠せない。喜色満面のままに胸の前で握りしめていた手を無意識のままに更に強く自身に押し付けた。


「ぬかったわっ!!!スイカあああぁ!!!!」


「おおっ!!」


「ああっ!!」


「ええっ!?」


 今や王の目は血走り、尋常ならざる眼力で持ってムノーヤクに何かを伝えようとしている。

 その様子を見てその場にいる三人は三様の反応を見せた。


「王様っ!ありがとうございます!!すぐに西へ戻りウェスト様とお話ししてみます!!」


「待ちなさい。これから開発となれば時間もかかります。・・・・・・ノママーニ卿、手の空いている農兵を選別し、共に作業にあたらせなさい!」


 サヨーデが今にも立ち上がり出て行こうとするムノーヤクを押し止め、口を大きく開けているノママーニに指示を出した。


 サヨーデの言葉に慌てて我に帰り頷くノママーニであるが、何故か少し不安そうである。


「えっ?あっ、はい、仰せのままに!!」


「陛下、私も今から財務に掛け合って予算を見積もって参ります。王家の共同開発ということにすれば、他の領地の同じような人間も斡旋することが容易になります、宜しいでしょうか?」


「よきに・・・・・・はからえ。」


「「「ははっ!」」」


 にわかに活気ついた三人を横目に、王は疲れた様子で再び玉座に腰を深く落ち着けた。

高い背もたれに背中を預け、悟りを開いた様子で前を見ている。




 やがて慌ただしくその場を離れた三人を見送り、王は大きく溜息をついた。



「む・・・・・・一体・・・・・・何が・・・・・・?」



 その時の王の心情を知る者はいない。


 



 時が経ち、ニシノムラ産の果実はどれもたわわに実り、肉厚で水分も多く、満足度が高いという理由からその地の名産となった。

 毎年王宮にはとれたての果実が届き、王は何かを思い出すようにそれらを味わっていたというのは、余談である。


果物美味しいですよね。

はてさて、この時、実際は何が起こっていたのか、それは次回の裏謁見をご覧くださいませ。



楽しんでいただけたなら幸いです。

また、評価も頂ければ更に喜びます。

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