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謁見〜料理長の場合〜その1

お待たせ致しました!


短めですが、楽しんで頂ければ幸いです。


 その日、大アールカ王国王城の厨房にて、争いは起きていた。


「どうしてなんですか!!どうして、私の料理を認めてくれないんですか!」


 瞳に涙を溜めながら手に持った皿を差し出す女の名はパンナコッタだ。激しく動くせいで男性の手のひら程の高さの調理帽がズレている。

 

 方や、厳しい顔で黙り込んでいるのは王宮料理長であるカッポウであり、彼は男性の肘下程の長さの調理帽をピシッと撫でつけた頭の上に乗せている。


 パンナコッタは更に言い募ろうとカッポウへと皿を押し出した。


「カッポウ料理長は私の何が気に食わないんですか!?」


「うるせえ!!」


 見た目通り、ドスの効いた低温な声でカッポウが怒鳴る。それはまるで歴戦の戦士さながらな怒声であった。

 思わずたじろぐパンナコッタだが、なおも引き下がらない。


「手前の料理はな、料理じゃあねえ!てめえのはガキの飯事だ。」


「なっ!酷いです!!私の料理のどこが飯事だって言うんですか!?」


 吐き捨てるように言ったカッポウの言葉にこれまでにない衝撃を受けるパンナコッタだった。

 拳を握りしめて俯いてしまう。


「何かにつけて進化だなんだわからないことばっかり言いやがって!それでどんだけの食材を無駄にした!それは一人前になって何年もして初めてやるもんだ!そんなものが飯事じゃなくてなんだって言うんだ、ええ!?」



 答える声はない。


 言い過ぎたか、そう考えるカッポウの目の前で、絞り出すように声を上げながらパンナコッタが顔を上げていく。


「料理長だって・・・・・・。」


「あん?なんだ。」


 きっ、と瞳に大粒の涙を浮かべながらも、その目はカッポウを睨みつけていた。この先を言ってしまえばもう後戻りは出来ない、そんな内心の葛藤を表すかのように拳は更にキツく握り締められて震えていた。


「・・・・・・料理長の料理だって、古臭い手法に囚われた化石ですよ!!」


「なっ!」


「おいパンナコッタ!そんな言い方はないだろう!」


 パンナコッタの吐き捨てた言葉に周囲の料理人達も思わず窘めようと声を出した。


「・・・・・・そう、思うのか。」


「だってそうでしょう?新しいメニューは殆どない!どれも過去の手法の応用で、少し食材と見た目を変えただけだ!!それに、私のはそれまでのメニューを改変させるやり方とは違う!確かに、技術はないですが全く新しい手法、調理法なんだ!!料理長のような、同じことをただ繰り返す人に、わかるわけない!!」


 料理長は表情を崩さないまま、パンナコッタをじっと見据えている。

 その瞳にはどこが寂しさや、悲しさといった感情も込められているようにも見える。


「言いたいことはそれだけか?」


「えっ?」


「出て行け。明日からもう来なくていい。」


 告げられたのはそんな簡潔な言葉だった。

 何か言おうとパンナコッタは口をパクパクと動かしたが結局何も出てこず、暴言を吐いたはずのカッポウへと視線を向ける。


 だがカッポウはそれ以上口を開くことはなかった。



「っ!!」


 パンナコッタ踵を返し、その場から走り去った。気不味い沈黙と、彼女の持っていた皿が寂しげにその場に残っていた。


「ほら、お前らもいつまでも見てるんじゃねえ。仕事をしろ!」


 カッポウの声で厨房はにわかに活気を取り戻した。バタバタと料理人達が動き回り、すぐにいつもの喧騒が響き始めたのだった。









「という、わけなんです。」


 ナァルフォード、サヨーデ、ノママーニを前に話しているのは、料理長だった。

 ほとほと困り果てた様子で、然りに汗を拭っていた。


「それで、カッポウと申したか。そなたはどうしたいのだ?」


「いえ、私としては彼女には戻ってきて貰いたいと考えております。確かに未熟ですが、センスは抜群に御座います。」


「なるほど。」


「磨けば光るとわかっているものをどうして放っておくことが出来ますでしょうか。」


「で、あるか・・・・・・。」


 重々しいナァルフォードの言葉に、カッポウは必死な様子で答える。


 ふと、サヨーデはカッポウに問いかけた。


「そんなに目をかけているのであらば、なぜ明日から来るななどと言ったのです?」


「はっ、それについてはお恥ずかしい限りですが、それまでやってきたことを否定されて私もつい頭に血が・・・・・・。」


 カッポウは更に額に汗を滲ませてると、慌ててそれを何度も拭った。


「ですが、彼女の発想は本当に素晴らしいのです。そして、どのような発想も技術を学んでこそ活きるというもの。彼女が料理史に残る傑物となるか、それとも凡百の輩として消えていくのか、わたしには後者を選ばせることは出来ません。」


 カッポウの言葉にその場にいた男達は何度も頷いた。

 ナァルフォードに至ってはひどく胸を打たれたのだろう、瞳を輝かせながらも膝を打った。


「その覚悟は素晴らしいことだ。それがわかっているのであれば、もはやそれを直接伝えるのが良かろう。」


「実は、そのそれが・・・・・・。」


 ナァルフォードの後押しする言葉に、カッポウは返答を言い淀んだ。

 それまでの空気が一変し、やや不穏な空気が周囲に広まっていった。


「・・・・・・どうしたのです?」


 サヨーデが訝しみながら尋ねた。

 ノママーニは何故か驚きの表情を浮かべていた。


「いえ、実は、彼女が行方不明になってしまったのです。」



 緊迫した空気が更に強まり、その場には張り詰めた空気とともに静寂が訪れたのだった。

いつも読んで頂きありがとうございます!

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