幕間〜ノママーニとリーン〜その3
楽しんで頂ければ幸いです。
次回は本編か、違う幕間のつもりです。
「はあー、まさかお前が人を好きになるとはなあ。」
俺の話を聞いたジェイドはニヤニヤと嫌らしく笑いながら俺を肘でつついてきた。
なんだお前は、どこの親友キャラだよ。
「うるせー茶化すな。これ逃したら多分もう好きな人出来ないから死活問題なんだよ。」
俺はエールのお代わりを傾けながら表情を歪めた。それをみてジェイドは目を丸くして俺に問いかけた。
「なんだよ、大袈裟だな。てかぞっこんじゃないか。」
くそっ、驚いた顔もイケメンだな、こいつ。理由を答えてやりたいが、能力のことは人に知られたくない。
俺は肩をすくめるだけに止めた。
「それで、恋愛相談ってわけか?」
「ええー、恋バナですかー!ノママーニさんの恋バナ私も聞きたいです。」
カウンターに手をついてこちらの話を聞いていたミレーネちゃんまでも身を乗り出してきた。その拍子にそこそこ大きめな胸がカウンターに乗り、ジェイドは鼻の下を伸ばした。
(ふふ。)
ジェイド!!ミレーネちゃん確信犯やぞ!!お前の視線の行方、操られてるぞ!!てか俺の恋バナを駆け引きのだしにすな!
俺は思わず親友に伝えたくなったが僅かなところで踏みとどまった。
あぶねー、相談とかなしにしていつものテンションになるとこだった。とりあえずジェイドとミレーネちゃんのことは置いておこう。
「いや、実は今好きな人と文通してるんだけどさ、正直もう書くことがなくて、いや勿論相手の話を広げてってのも、考えたんだけど、それにも限界があるっていうか、ずっとそれ続けてるとこの人話題ないのかなって思われるんじゃないかと。」
俺は矢継ぎ早に思っている不安をジェイドへとぶちまけた。チラチラと胸を見ながら俺の話に耳を傾けていたジェイドだったが、俺が話終わると身体を俺の方に向けて考えるように目を伏せた。
ミレーネちゃんがその横顔を見て、ほうっ、と頬を赤らめた。
(よっしゃ!見惚れてる!)
お前もかっ!!いや他所でやれよ。こっちは真剣なんだよ!
恋愛脳達に青筋を浮かべそうになりながらも、俺はジェイドの言葉を待った。
カップを持つ手に力が篭った。
正直、俺に友人は少ない。特に恋愛ごとの相談なんて出来るのはこいつくらいだ。
頼む!俺に一筋の光明を見せてくれ!!
「そうだなあ。」
ややあって、ジェイドはようやく口を開いた。
俺は前のめりになって、一言一句聞き漏らさないように耳に意識を集中させた。
酒場の周りの喧騒が、今は腹立たしく感じた。
「とりあえず、会いに行けよ。」
「はっ?」
「いや、だから話すこと思いつかないんだろ?だったら共通の話題探すしかないだろ。」
「いや、でもそれは流石に敷居が高くないか?」
ジェイドは当たり前のようにそんなことを言うが、ちょっと俺には正直ハードルが高い。大体俺の知っている場所といえば、この酒場が訓練所、後は少しいかがわしい店くらいだ。
「えっ、じゃあオーセ、お前このままずっと文通だけすんの?」
何言ってるんだこいつ、みたいな表情と共に投げられた言葉に、俺は何も言えなくなってしまった。
「いや、でも。」
「最初に話した時は大丈夫だったんだろ?じゃあ問題ないさ。ミレーネちゃん、エールお代わりね。」
ジェイドはカップに残ったエールを飲み干すと、ミレーネちゃんに差し出した。
返事と共に受け取り、彼女は奥に消えていく。
そしてすぐに、なんならちょっと駆け足でこちらへと戻ってきた。
いや、恋バナに集中し過ぎだろ!仕事しろよ!いや、仕事はしてるか。
お代わりを受け取って、口をつけたジェイドは俺のことを指さした。
「オーセ、俺が断言してやる。大丈夫だ、嫌な相手とわざわざ文通するような女性はこの世にいない。」
そりゃそうだ。そりゃあそうだけどさあ。
未だにうじうじと答えを出さないでいる俺を見かねて、ジェイドはミレーネちゃんへと話しかけた。
「ミレーネちゃん、どっかおすすめの場所とかお店ある?お洒落でちょっといい感じの。」
「えー!連れてってくれるんですかあ?」
「ミレーネちゃんとはまた今度ね。こいつに教えてやってよ。」
ジェイドの言葉に僅かに残念そうに口を尖らせながらも、ミレーネちゃんは人差し指を唇に当てて考えてくれた。
ジェイドよ。俺も断言してやる。この子はかなりあざといぞ。
やがて、思いついたのかミレーネちゃんはあっ、と声を上げた。
「そういえばこないだ来たお客さんが貴族街の中に雰囲気のいいカフェがあるって言ってましたあ!」
「えっ、誘われたの?ミレーネちゃん、それ、誘われたの??」
「えへへー、どうでしょうー?」
焦り出すジェイドに悪戯っぽく笑いかけながら、ミレーネちゃんは手を後ろに回した。
いや、だからあざといて。そしてジェイドよ、焦り過ぎだ。だが、すまん。ミレーネちゃんそのカフェ行ってるぞ。
二人のやりとりを眺めながら、俺はミレーネちゃんの言葉を反芻した。
カフェか。たしかに貴族街にはそういう店が多い。いろんなコンセプトの店もあるというし、何かを見ながらだったりなら、話題に詰まることもないかもしれない。
悪くない、と俺は真剣に店をどうするか考え出した。誘うことにびびっていると言えばそうだが、このままだとどうにもならんのも確かだ。
俺が真剣に考え込んでいると、くすりと誰かの笑い声が聞こえた。
顔を上げると、ジェイドがいつの間にかこちらをみて笑っている。
「なんだよ。」
「いや、真剣だなと思って。なんか嬉しいよ。」
そういって改めて笑ったジェイドの顔は、男の俺が見ても見惚れるほど、イケメンだった。
「とりあえず、カフェ、行ってみる。俺、カフェ、誘う、頑張る。」
「おう!どう突っ込んでいいかわからんが、頑張れ!」
考えただけで緊張して片言になってしまった俺を励ますように、ジェイドは俺の背中叩いた。
「頑張ってくださいー!私も応援してますう。」
「ところでミレーネちゃん、さっきの話なんだけど、行ったの?」
「ええー。」
全く、こいつらは。
だが二人を見てるとなんだか緊張がほぐれて来たような気がする。
「ありがとう、二人とも。よっしゃ!」
礼をいってカップの中身を勢いよく胃の中に注ぎ込んだ。そんな俺を見て二人は顔を見合わせ、笑うのだった。
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