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裏謁見〜ドワーフとエルフの場合〜その1

楽しんで頂ければ幸いです。


 謁見の日、俺は訪れた二人の男を、厳しい表情で見つめていた。

 緊迫した空気が流れているが、恐らく俺が感じている気持ちは他の人とは違った。


 ドワーフと、エルフだ!!うおおおおお!初めて見た!すげえ!すげえすげえすげえ!!これぞ王道これぞ幻想!ビバ!!ファンタジーーーー!!!


 そう、謁見に訪れたのはエルフとドワーフの男だったのだ。

 うっかりすると緩んでしまいそうな表情をきつく眉を寄せることでなんとか堪え、俺は二人の様子をうかがっていた。



「面を・・・・・・上げよ。」


(うーん、早く終わらせないと。)


 うん?また陛下の様子がおかしい??


「己の素性を述べよ。」


(わしにはこんなことをしている時間はないのだ。ああ、一分一秒でも時間が惜しい。)


 いやいや、やめたれ。仮にもわざわざ謁見に来てるんだから!こんなことって言わないでください!それにほら、ドワーフとエルフですよ!髭と耳!見てください!!


 俺は聞こえないとわかっていても陛下に思念をぶつけずにはいられなかった。


(これが噂の賢王様か。なるほど、たしかに言葉に重みがあるな。よし、ここは私が奴よりも先手をとって・・・・・・むっ?)


(へえ、こりゃあ初めてお会いしたが、中々どうして人間にしては迫力があるな。っし、ここは俺がこいつより先に話しかけて・・・・・・ぬっ?)


 おーおー、こりゃ本当に仲が悪そうだ。


 俺の目の前で二人が同時に口を開こうとして、互いに睨み合った。


「俺が先に言う。モヤシは後にしろ。」


(ふん、でしゃばりおって。)


「いいえ、私が先です。酒樽は酒樽らしく大人しく黙ってそこに在りなさい。」


(この脳味噌酒大人は自分のことしか頭に無いようですね。)


「上等じゃねえかっ!この陰鬱ツラがっ!」


「貴方こそ、身の程を知りなさい、万年アル中ゴリラがっ!」


「ああ!?」


「おお!?」


「やめなさい!王の御前です!」


(はあ、やっぱりこうなってしまいますか。これは、今日も長引きそうですね。)


 目の前で唐突に展開される口論に宰相様どうやら頭を悩ませているみたいだ。たしかに、この調子だと長引くかも知れないな。


「ちっ。」


「貴方のせいですよ。」


「はあ?お前が勝手に突っかかってきてんじゃねえか。」


「それは貴方があまりにも愚かだからです。」


「あ″ぁ?」


「やめなさいと言っているでしょう!!早く名乗って要件を言いなさい!」


(気が重い。しかもどんな厄介な要件を言いにきたんだか。)


「「はっ!」」


((く、お前のせいだぞっ!))


 なんだかあまりにもイメージ通りで戸惑うな。それにしても、実際にすぐ争う奴らが近くにいると、なんというか、いるだけで疲れる。


(おお、これはいいんじゃないだろうか。)


 ん?陛下??


 俺が陛下の思考に気を取られている間も、謁見は進んでいく。



「俺はソゥレ・タタキスギーと言います。ドワーフの長で、鍛治協会の長も兼任しております。」


(わしの作った・・・・・・。)


 いや、だから陛下?


「私はエルフ族の長でミークダース・コウマンチェキーと申します。野鳥狩猟協会の長を務めさせて頂いております。国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく。お目にかかれて恐悦至極に存じます。」


(ふふふ、わしの作った曲がいつかアールカチューブで流れる日が来るかも知れんな。)


 曲!?えっ、この人そんなことしてたの?いや仕事疎かにして趣味に走ってるよ!


 俺は思わずため息をついた。あっ、宰相様もなんだか頭を抱えている。


 原因は違うけれど、俺はなんだか妙な親近感を覚えた。



(出だしの旋律は如何にするか。こういうのはどうだ?いや、こういうのも有りか。)


 ついに陛下は口元で旋律をボソボソと歌い始めていた。


 どっちも無しだよ!いい加減話聞けよ!!


「それで、要件は何なのですか?」


(やっと本題に入れそうですね。)



 宰相様!一名全く聞く耳を持たなそうな人がおります!!


「はっ。この度は我らの部族とこのドワーフの部族との間に最近起きている不和について、解決策を恥ずかしながらご提案頂きたいと思い、参上仕りました。」


(正直、話すのは纏める力がないと思われるから気が引けるが。もはやここまで悪化しては是非もない。なんとか良い解決策が出さないといけません。)


 おお、意外にちゃんと仕事はしてるのね、このエルフ。中々に部族思いの人じゃないか。


「不和、ですか。」


「はっ!と言いますのも、最近はドワーフの者たちが酒を飲みすぎて、まともに鍛治を行いません。修理に出した鍋などが一週間を待たずに壊れる始末。徐々に我らの部族に不満が溜まり始めております。」


(何故そうなってしまったのか。仲が悪いながらも長い間やってきたはずなのに。)


「ほう?」


(ふむ、これはたしかに問題ですね。)


 そうだよな。たしかに呑兵衛のイメージも強いけど、仕事はちゃんとするイメージだ。仕事をしない呑兵衛なんてただのやべえ奴らだもんな。


「それは違います!原因はこいつらの方でさあ!」


(ここまで来たんだ。若え奴らの為にも、きちんと話を聞いてもらわねえと。)


 おっ、この人もちゃんとしてる?ただの呑兵衛じゃないのか?


「ふむ、聞きましょう。」


(まあ両者言い分があるから二人とも来ているわけでしょうしね。)


「へえ。不和については間違いないですが、不満を抱えているのはうちの奴らの方です。このエルフ達が俺らをあまりに見下しすぎて、最近になって野鳥の値段を倍以上に釣り上げたんでさあ。それが理由で俺らの仲間の間で不満が溜まってるんです。」


(昔からっからいけ好かねえ奴らだったが、最近は特にひでえ。若い奴らも肉を食えてねえから力が入らねえって嘆いている。)


 ふむ、なるほどね。これがドワーフ側の言い分なのね。



「だからそれは何度も説明したでしょう!野鳥の数が減っていて、狩猟にかかる人員のコストが増えているんですよ!」


「はっ、どうだかな。それならうちだって修理を今は研修で若い奴らにやらせてるんだ。次を育てねえといけねえからなっ。」


「だからといって・・・・・・」


「わかりました!!・・・・・・それで、今の状況が続くとどうなるのですか?」


(これはどちらの言い分にも理がありますね。解決策はおいおい考えるとして、現状の心配をしないといけません。)


 おお、宰相様が完全に仕事モードに入った。普段俺に奥さんの話をしている時とは大違いだな。

 

(旋律はとりあえず置いておいて、テンポも意識しないとな。舞踊曲には使えないが、速めのテンポはどうだろう。)


 知らんがな、どっちでも良いよ。って、あっ、このおっさんついに玉座で拍取り出しやがった!!


 トントン、と陛下の取るリズムが響き始めた。

 いや、うるさいから。陛下、今謁見、謁見中!!


 俺は動揺して瞳を所在なく彷徨わせた。

 

 そんな中、気付かない三人の間には緊迫した空気が流れ出していた。


「「戦争に、なるかも知れません。」」



 えっ?・・・・・・やばくね??

 陛下!!陛下!聞いてますか?やばい、やばいですよ!!


(うーん、いや。やはり少しゆっくり目か。これでどうだ?)


 誰かこの人つまみ出せよ!!ああ、まじでどうするのよ!!


 陛下の音以外、しんと静まり返った謁見の間に、俺の心の悲鳴が響き渡るのだった。



                  つづく!

いつも読んで頂きありがとうございます!

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