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謁見〜ドワーフとエルフの場合〜その2

間違えて追放の方に投稿してしまいました。すいません。


楽しんで頂ける幸いです。


本日二千年魔王も更新しておりますので、そちらも、是非、

 

 とん、とん。

 ナァルフォードが人差し指で己の肘おきを叩いていた。

 それは何かを思案しているようでもあり、ただ無秩序にリズムを刻んでいるようにも見える。


 その場にいるものの表情は皆、一様に暗い。

 ノママーニに至っては、己の中の感情を制御出来ずにいるようだった。

 額に、汗が浮かんでいる。



「戦争は不味いですね。ドワーフもエルフも、数の多い部族だし、この大陸全土に人が散らばっている。戦争なんてことになってしまえば、大陸中が戦火の海に沈んでしまいます。」


 考えるだけで恐ろしい、とサヨーデはその端正で鋭い顔を嫌そうに歪めた。

 しかし、それでいて思考は止めない。


 後ろに撫でつけられた銀の髪をそっと整え、思考の海に身を委ねるように、考えに没頭し始めた。



 そしてそれは、タタキスギーとコウマンチェキーも同様であった。

 いくら現状いがみ合っているとはいえ、エルフとドワーフは元々は生みの親が同じ妖精族。その中でも最古の妖精と言っても良いほど、歴史のある民族だ。

 争いによってどちらかの種族に優劣がつくようなことになってはならない、と長を務める二人は考えていた。


 結果として、現在まで何事もなく事を運んで来たが、それももはやいよいよというところまで正直来ていた。


 それもその筈である。同じ胎から生み出されたこの二つの種族、親である神が、敢えて似ているところがないように作ったのだ。


 故に、ドワーフは火を愛し、酒を愛し、山を愛したが、かたやエルフは、水を愛して、果汁を愛し、森を愛した、というわけだった。


 それが元で過去いくども争いに発展してきたわけだが、アールカ王国によって大陸が統一されてから、二つの部族は話し合いによって互いを尊重し合い問題を解決してきたのだった。

 その力の均衡を崩すような事態に陥らせてはならない。


 一同はその思いはあるものの、解決案が出てこない。


 サヨーデは今こそ自らの手腕が問われているのだ、と感じた。


 ――とん――



 減酒法でも作るか、はたまたエルフ達の思想を変えるために子供の頃から思想教育を施すか、どちらにせよそれは一時凌ぎにしかならない。


 ――とん、とん――


 根本から、両者が手を取り合える未来を作るために一体どのような策を取ればいいのか。


――とん、と、と、とん――



 サヨーデはふと、音のする方を見た。そこには彼が敬愛してやまないナァルフォードが座っている。


「陛下・・・・・・?」


「打開策・・・・・・ボイパは、有りだな。」


「は?」


「ボイパ、ですか?」


 サヨーデ、タタキスギー、コウマンチェキーの三名は驚きから目を見開き、呆気に取られた。


 ノママーニだけが、目を閉じて黙していた。


 三者の視線を一身に受けるナァルフォードは、視線を中空に向けたまま、口だけを動かす。


「ドゥッドゥッ、ツー。ドゥッドゥッ、ツー・・・・・・足りぬな。」


 ナァルフォードは喉の奥で音を鳴らした後、歯の隙間と舌とを使い、器用に音を奏でた。


 三人は戸惑いから、顔を見合わせた。

 

「足りない、とは。それが今回の件と何の関係が?」


 恐る恐るサヨーデがナァルフォードに問いかけた。だがナァルフォードはいくつかの音を奏でながら一向に答えない。


 サヨーデはナァルフォードの意図を図るべく思案し、そしてはっとして同じように戸惑っているドワーフとエルフを呼びかけた。


「タタキスギー、コウマンチェキー!私達も、一緒にやりますよ。」


「はっ?」


「ええっ!」


「・・・・・・まじか。」


「いいから、やるのです。陛下がならしているのはベースのリズムです。さあ、乗っかりますよ!トゥントゥクトゥントゥクトゥントゥクトゥン。トゥントゥクトゥントゥクトゥントゥクトゥン・・・・・・」


 サヨーデはやや早めのリズムを取り入れた。音が重なり、ナァルフォードが一人で鳴らすよりは、奥行きのあるリズムになっていた。


 呆気に取られていたタタキスギーとコウマンチェキーだったが、コウマンチェキーは我に返ると憤慨の声を上げた。


「バカらしい!我らが真剣に相談しているというのに、何という事だ!」


 ノママーニが、誰にも気付かれていないが大きく頷いていた。


「これで一体何が変わると・・・・・・タタキスギー!貴様もそうおも・・・・・・「シャッ、シャシャッ!」タタキスギー!?」


 ドワーフは、見事にリズムに乗っていた。立ち上がり、手を手刀の形にして、声と同時に前へと突き出している。


「シャッ、シャシャップシュゥー、シャッ、シャシャプシュゥー!!」


 ここへきてコウマンチェキーの仮面は剥がれた。冷静さは消え、心細そうに音を鳴らし続ける三人を見渡した。


 そして。コウマンチェキーは覚悟を決めたように、喉を鳴らして唾を飲み込んだ。



「ウィーヤオウィーヤオウィーヤオウィーヤオ。」


 見事な音色だった。口腔の両サイドを締め付けるようにして出されたその音色は、アコーディオンのような響きを奏で、三者が織りなす音の世界にさらなる彩りを与えた。


 四人が視線を交わし、互いに満足そうに頷き合う。


 ただ一人、ノママーニだけが、遠巻きに彼らを眺めていた。

 だがそのような空間でそんな存在が許される筈もなく、盛り上がりのタイミングで、四人が一斉に彼の方を向いた。


「!」


 ノママーニは咄嗟のことに後退り、身体を固まらせた。


 そこでふとナァルフォードが玉座から立ち上がり、他の面々と同じ高さまで降りてきた。

 当然その間も口から流れ出るリズムは一定だ。


 四人は合わせたように横一列に並び出すとそれぞれが音を奏でながらノママーニへと近付いた。


 そして、ノママーニまで後数歩というところで立ち止まり、演奏を続けた。


 ノママーニは嫌そうに顔を歪め、頑なに歌い出そうとはしなかった。


 そこへ、一人の男が前に出た。タタキスギーだ。


「シャッ、シャシャッシャ、シャッシャッシュー、シャッ、シャシャッシャ、シャッシャッシュー。」


 勢いよく身体を動かしてリズムを刻みながら前に出たタタキスギーは、最後の吐息のところでノママーニへと指を突きつけた。


 ノママーニは首を振って拒否のポーズを取った。


 すると、今度はコウマンチェキーが前に出る。後ろにはサヨーデが鋭い目でノママーニを睨みつけ、ナァルフォードですら、厳しい顔をして彼を眺めていた。


「ウィウィッ、パ、パ、ウィウィッ、パ、パ、ウェ。」


 タタキスギーと同じく最後の語尾でノママーニを指さした。


 四人全員が一斉に静かになり、視線で語りかけるように今度は足を使ってリズムを作り出す。

 


「・・・・・・チャッチャッ。」


 四人の鳴らす足音が大きくなる。その足音に勇気づけられるようにして、ついにノママーニも血走った目で身体を動かし始めた。


「チャッチャッ、フィー。ドゥ、チャッチャッフィー。ドゥクドゥクッチャッ、チャッチャッフィー!!」


 ノママーニの刻むリズムに合わせて再び四人もリズムに乗り始めた。


 手を叩き、足も鳴らす。

 高速で動いたかと思えば、ゆったりとした大きなパーカッションも取り入れた。


 やがて五人の作り出した壮大な音楽は、最高潮の高まりを見せた。

 汗を流して、それぞれの瞳を順々に見つめ合ってタイミングを合わせて行く。


 皆が満面の笑顔を顔に浮かべ、やがてその時は訪れた。


「・・・・・・プシュー!!!」


 ナァルフォードが人差し指を天に掲げると共に締めくくった。

 周囲は異様な熱気に包まれており、そこにいるもの達は皆、満足そうな表情を顔に浮かべていた。


「おう、コウマンチェキー、お前なかなかやるもんだな。」


「ふん、貴様もな、タタキスギー。」


 二人は互いを認めたのだろう、拳を突き出して打ち合わせた。


「なるほど、陛下はこの為に音楽を。感服致しました。」


 息を整えているサヨーデは瞳に光を反射させてナァルフォードを見た。

 他の二人も同じように崇拝の目を国王に向けている。


「ふっ、音楽は種族をこえる、ということですね。」


「ああ、違えねえ。ちっちゃなことで争うなんて、馬鹿らしく思えるな。」


 二人は肩をすくめて微笑みあった。サヨーデも、表情を緩め、二人を促した。


「それがわかったのなら、これからやることももう、おわかりですよね?」


「ああ。」


「面倒をかけました。」


 タタキスギーとコウマンチェキーは憑き物がすっかり落ちたような表情で謁見の間を後にした。


「それでは、陛下。私も仕事をして参ります。」


 続いて、サヨーデがその場を去った。


 ノママーニは、涙を流していた。きっと、それほどまでにこの熱気に感銘を受けたのだろう。


 



その後、ドワーフとエルフから選抜された者達が、ボイパユニットを作り、王国にボイパブームが到来する。

 一旦は下火になるも、ドワーフとエルフは音楽を通じて末長く協力関係を築き上げたのだった。

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