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幽霊が出るそうな

 1ケ月後、俺はとある不動産屋に居た。

表に面しているテーブルではなくて、奥のテーブルに通されている。


 テーブルの上の紙には

「1LDK40㎡ 寝室6畳 リビング10畳 風呂トイレ別 ベランダ在り 8階建物6階 駅から徒歩7分近くにコンビニ在り」

間取りに内観の写真がある。

そして、その下の家賃が……12,000円。管理費3,000円。

敷金礼金なし。家具必要な物をお使いください。無料で差し上げます。

の文字。


相場の1/10ダヨ。


「……何があったんですね?」


「……」


「言わなきゃいけない内容に期間でしょ」


 俺には確信があった。この値段だ。

普通の事故物件じゃない。しかも最近だ。

そんで、多分自殺。で出る。値段をもう少し上げるにも間に誰か一定期間住んでもらわないと困るはずだ。


「ちゃんと言わなきゃいけないでしょ。さっさと、どうぞ」


「……はい。20代後半の男性の……餓死です」


「餓死?このマンションで?他の部屋の家賃は?」


「12万円から11万5千円です」


「うん。駅からの立地と周りの環境を考えても無難だね。そんで、前の人はどんな人だったの?仕事とか、なるべく詳しく教えて」


「はい。会社名や個人名は言えませんが、4年前の契約時は大手企業の社員でしたが、その後仕事が変わり、死亡時はジムのインストラクターだったそうです」


「全然、餓死と結びつかない……」


「ボディービルダーとして入賞するくらいの実力者だったそうです」


「ボディービルダーで餓死……もしかして大会前に体脂肪を落としすぎたとか?」


「よくご存じで。はい。検死の結果をその様に聞きました」


「そんで、幽霊が出るんだ」


「はい。ボディービルダーの幽霊が、出るんです」


「「・・・・・・」」


お互い微妙な顔になった。笑えない。「死」だもんな。でも、笑っちゃいそうで困る。


「死んでから、どれくらいで発見されたの?」


「大事な大会を無断欠席されたとの事でしたので、大会当日の夜。死亡した2日後です」


「早く見つけてもらってよかったね。……じゃあ、掃除はしてあっても床の張替えとかはしてないとか?」


「……はい」


 それはちょっと嫌だな。


「写真の中に在るかな。その場所。人型とか合ったら嫌だなぁ。まあ、3カ月前の死後2日なら一番寒い時期だから、そんなに酷くはなってないはずだけれど、気密性が高い新しいマンションだからね。暖房炊かなくてもそこそこ寒くなさそうだから、それなりに御遺体に損傷出そう」


「写真は、その場所は無いんですが、こちらの写真、キッチンの後ろ側ですね」


「じゃあ、リビング側からのは?カタログには載せて無くても写真は撮ってあるでしょう」


「はい。撮ったはずなんですが、どうも無くなってしまったようで……」


「なんか意味ありげで怖い」


「はい……」


「行ってみますか?」


少しだけ迷った。


「行きます。けれど周辺で6万円以下の物件も一応見せて下さい」


「分かりました。少々お待ちください」


「直ぐに内覧できるのが2件ありましたので、そちらも行きましょう。駅の反対側になりますが、徒歩15分と、5分の物件です」


 うーん。5万3千円管理費5千円が和室6畳キッチン2畳にユニットバス。築38年。


 こちらは……5万5千円で管理費込み。ワンルームでユニットバス。ミニキッチンで・・・25㎡・・・2畳で3・3だから、全部で8畳か。玄関、キッチン、ユニットバスで4畳くらい取られたら生活空間は4畳くらいしかないな。


「やっぱり。5万円台だと狭くなりますね」


「そうですね。狭いし駅からも遠くなりますね。学生も多い街なので、それなりに需要もあるんです。今は引っ越しも落ち着いて残った物件の家賃が少し下がるところも出てくるので、賃貸物件を探すには良い時期だと思いますよ」


「では、先にくだんの部屋に行きますか」


「いえ、一番後にして下さいよ。遅い時間でどう感じるのか知りたいです」


「……分かりました」


あ、不承不承だ。もう夕方なので、最後の部屋に行く時間は、しっかり暗くなっているだろう。


そこで何を感じるかは……


「ちなみに、え~っと、誰さんでしたっけ」


「申し訳ありません。名刺をお渡ししておりませんでしたね。 わたくし、小林と申します。遅くなりまして失礼いたしました」


「いえ、名札を見たんですが忘れてしまって。では小林さんは、あの部屋でそれを見たことはありますか?」


「私はありません。若手を一人何泊かさせようとしましたが、翌日から出社しなくなりました」


「え?それって、行方不明・・・」


「いえいえ。新人いじめのブラック企業だと辞めてしまいました。泊ったかは不明です。しかし、その後社員4人で泊まらせた時は、その場所に居た全員が目撃をしました。後日改めて一人ずつ確認しても、口を揃えて同じ人物像を言いました」


「俺は霊感とかないけれど、見るのかなぁ?」


「どうでしょう。先ほどの件で4人中2人は霊感はなく幽霊は初めて見たそうですから、見る可能性は高いと思います」


「そうか。霊感がない人でも見えちゃうくらい強いってことかな?その4人はその後に霊障とかはなかったの?」


「特にはありませんが、いえ、皆一様にマッチョな人がテレビに出たりするとテンションが下がるようになりましたね」


「そうか……じゃあ害はないんじゃないの?」


「幽霊が確実に出るという時点で「害」なのです」


「うん。そうだね」


 小林さんは神経質そうに眼鏡をクイっと指先で上げた。


「それでは、急いで周りましょうか」


あ、内心が駄々洩れ。


「ゆっくりでいいよ。暗くなった時のその物件の雰囲気が知りたいし」


「はい。わかりました」


少し目を細くして同意してくれた。うん。嫌がっているねー

でも、一緒に行ってもらいますからね。


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