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沈黙の再会

エルベン領地の町を一望できる高台に建てられた領主の館では、一人の男の怒声が屋敷内に響きわたっていた。




「貴様ら兵士は何の為にこの地にいると思っているのだ!?未だ魔族の残党を殲滅する事も出来ずに、あまつさえ領内の墓地で起きた事すら何一つ情報が無いなどとぬかしおって!兵士としての務めを忘れおったか!!」




上質で装飾が施された衣服を着た50代ほどの小太りの男性は、玄関の広間から真っ直ぐに伸びる階段上から扉の側に居る兵士達に怒りをぶつけていた。その男の暴言に兵士達は何度も謝罪を繰り返すのみであった。




「申し訳ありません。今しがた、町の兵士達により墓地へ先行した小隊の後へ続く為の準備を行っているところですので、情報が入り次第早急にご報告を致しますので、申し訳ありませんが、もう暫しお待ち下さい!」




兵士の言葉に苛立ちを露にしている領主のルブルスは舌打ちをした後に再び言葉を発した。




「チッ。無能であっても貴様らはこの領地を守る兵士だ!その事を肝に命じておけ!!本来ならば情報と共に事態の解決を求めるところだが、無能なりに情報位はある程度の把握をしておけ!!」




領主が兵士達に嫌味を告げた瞬間、兵士達が開け放った扉の外から館内に向け言葉が投げ掛けられた。




「過去に一度会った事があったが、その時から私は貴様に対してあまり良い印象は無かったが、どうやら私が正しかったようだなルブルス。」




「何だと!?この地の領主である私の名を軽々しく呼び捨てるとは!!!貴様は一体誰だ!?」




「何だ、暫く会わない内にその容姿も随分と老けたと思っていたが、記憶力すら老いたのか?貴様が何処の領主様であっても死して尚私は貴様に対しての怒りを忘れてはいないが、この身を暴くその前に兵士達が些か邪魔だな?少し気を失っていて貰うとしよう。」




ネロは魔法陣を展開し詠唱した。




「無知なる者達を静寂な幻惑に捕らえよ[ログネーション]!」




ネロが詠唱した瞬間、領内に直径2m程の浮遊する黒い球体が出現した。兵士達が突然現れた球体に視線を向けた瞬間、球体の側面に巨大なひとつ目が開かれた。その目と合ってしまった兵士達は表情を強張らせながら次々に気を失っていった。その光景を目にしたルブルスは状況を理解出来ずにいた。




「な、何が起こっている!?まさかこの魔法は魔族のみあつかえる闇魔法か!?貴様は魔族の生き残りか!?」




ルブルスの問いかけに無言のネロは屋敷内に足を踏入れ羽織る布をからその骸骨の姿を露にした。




「骸骨!?何故骸骨が動いているのだ!?何の魔法だ!?まさか、墓地での騒ぎは貴様の行いか!?」




ネロの姿を見たルブルスは人とも魔族とも言えないネロ姿に動揺した。




「以前貴様と会った時はれっきとした人だったのだが、お前にどうしても聞いておかなければならない事があったため、墓地より生き返りこの場所へ赴いたのだが、魔王討伐の際に仲間の背に魔法の矢を放ったのは、ルブルス貴様だな?」




ネロの言葉に何かを察したルブルスは途端に怯えながら言葉を返した。




「何処か聞き覚えのあるその声とその姿。ま、まさか貴様はあの時王によって処断された勇者か!?」




「ようやく思い出してもらえたようで安心した。だが私の質問への答えにはなってはいないぞ?魔王の元へ向かう前にこの地で合流した貴様が見せた魔法の矢と私の仲間の背に射たれた矢があの最後の瞬間に同様の物に見えたが、魔王と対峙していた時に向かいの棟より矢を放ったのは他ならない貴様だな?」




「勇者ネロ、いかにもあの時に矢を放ったのはこの私だが、その首を現在の王に落とされて20年。人から化け物へとなれはててまで黄泉から我が【天使様】を奪いに来たと言うのか!?だがあの方はけして貴様のような死に損ないには触れさせはしない!!!」




ルブルスはネロの仲間のイムリスとリーファに矢を放った事を認めたが、同時に口にした天使様と言う言葉にネロは首を傾げた。




「貴様が矢を放った事の確認はとれたが、天使様とは一体何の事だ?」




ネロの問い掛けが聞こえていないのか、ルブルスは焦りをみせながらネロに向けて魔法を放った。




「幾百の光に射たれよ[コルトライ]!」




ルブルスの魔法により、百以上の光の矢がネロに切っ先を向け出現した。




「先程の貴様の言葉が正しければ、私が死んで20年が過ぎたようだが、魔王との戦いで中隊長を任されていただけの事はあり、町の兵士とは違い魔法の腕は健在のようだな?」




「死に損ないなんぞに我が愛するあの方は渡さん!!渡さんぞー!!!」




何かに取り付かれたかの様なルブルスはネロの言葉とは噛み合わない叫び声を上げながら矢をネロに向け一斉に放った。途端にネロは土煙で姿が見えなくなったが、その隙を見てルブルスは二階の奥に続く廊下へ走り去った。暫くしておさまり始めた土煙の中からドルの盾を携えたネロがルブルスの姿が見えない事にため息をもらした。




「あまり私は気が長い方ではないのだが、ここまで話しが噛み合わないと苛立ちを通りこして呆れてしまうな。奴が言っていた天使とやらの意味はわからないが、後を追えば分かるだろう。何より、私から逃げられると思うなよルブルス!何処まで逃げようとも貴様等を私は逃しはしない!!」




呟きと同時にネロは魔法を発動した。




「魔の痕跡を示せ[ルークフォード]!」




ネロの魔法により現れたルブルスの残像が階段から続く廊下の突き当たりの部屋に入っていったのを確認したネロは、残像が入って行った部屋の扉を開いた。その部屋は一階からの吹き抜けとなっている館の書庫となっており、壁を埋め尽くす様に収納された本を見渡しながらネロはルブルスの残像を探した。




(この部屋に入ったのは確実だが、何処かに隠れたか、もしくは書庫内の階段から一階に降りた後玄関へと回ったのか?)




一人思考を凝らしながらネロは書庫内にある階段を使い一階へと降りた。一階部分には二階にある先程ネロが入室した扉の真下に位置する場所に玄関へと向かうための扉が有るだけだった。



(やはり一階の扉から私が居た場所まで回り込んだのか?もしくは、何処かに別のルートがあるかもしれないが?煩わしい限りだな。)




次第に苛立ちを見せ始めたネロは先程と同じ魔法を放とうとした時にふと天井を見上げた。其所には天井から吊り下げられた四つのシャンデリアの中央に天井に描かれた壁画と明らかに雰囲気が違う鋼の扉が取り付けられていた。




(あれは壁画、、ではないな?だがただの装飾品とも思えないが、、)




再び本で埋め尽くされた壁を眺めていると、ネロは先程通った二階の階段の踊場から微かな魔力を感じ一階から再び二階の踊場へと移動した。




(先程は書物に気を取られて気付かなかったが、床に魔法陣が刻まれているようだな。)




ネロは踊場に刻まれた魔法陣の中央に立ち魔力を込めた。その時一階へと降りていた階段がゆっくりと生き物の様に動き出し天井の中央にある扉へと繋がった。その階段を確認したネロは迷う事無く一歩を踏み出した。その瞬間ネロの周りの重量が階段に向けて横方向に変わり、ネロは背後から押されるように顔面から階段に突っ伏してしまった。




「フンガッ!?」




ネロは階段に顔面を打った拍子に上げた声を恥ずかしく感じたのか、数秒間そのまま身動ぎすらできなかった。暫くして起き上がったネロは何事もなかったかのような動作で天井にある扉と同じ向きで階段を歩み始めた。僅かな時間で扉にたどり着いたネロは無言のまま扉を開いた。その扉の中には10m程奥に向かう為の人一人分程の狭い通路があった。




(ルブルス、貴様はどれ程扉が好きなのだ!?あの奥の扉の中にも扉があれば貴様を亡き者にした後にこの館の扉を全て破壊して廻ろう!)




通路の奥の扉は書庫の天井にあった鋼の扉と似通った形だったが、既に何者かが入った形跡を解錠された幾つもの南京錠が示していた。




「この場所に誰かが訪れたのは間違いは無い様だが、この先には一体何があるのか?」




ネロは独り言を呟きつつ扉を開いた。その扉の中には白を基調とした優雅な雰囲気の装飾品が飾られたシンプルな部屋があった。その部屋の中央には一際豪華なつくりのベッドが置かれており、そこにはベッドの端に腰掛けるルブルスとベッドに横たわる人影があった。




「!?貴様、何故この場所が分かった!?」




ネロの姿を視界で捉えたルブルスは驚きを隠せない様子であったが、そんなルブルスの声を他所にネロはベッドに横たわる者から目を離せずにいた。其処には純白のドレスに不釣り合いな枷と鎖により片足を拘束されたかつて勇者達が殺された頃のままの若さで光を失った瞳を虚空に向ける、亡くなったはずの仲間の姿があった。




「何故、何故この場所に居るのだ!?イムリス!」





アンドリューと申します。




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