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小さな勇姿

墓地と隣接する町では未明の事態を知らせる鐘の音が鳴り響いていた。満月が下がり始める深夜にもかかわらず、町中にある家や商店には灯りがともされ、起床した住民達は兵士達の誘導で慌ただしく深夜の町を駆け巡っていた。




「女と子ども、ならびに老人は町から森へ避難せよ!男達は我らと共に町の守りを固めよ!」




兵士の達の呼びかけに従い家族を森へ逃がした男たちは武器や農具を手に兵士達の集う町の中央へと集まり、その数はおよそ二百人程におよんだ。




「兵士様、一体何がおこったのですか?!」

「墓地で爆発があったと聞きましたが、魔族の残党の仕業なのですか?!」

「領主様は何とおっしゃられているのですか?!」



集まった住人達は各々不安を露にしながら兵士達に疑問をなげかけていた。松明に照らされる群衆のざわめきは徐々に大きくなっていったが、兵士の一喝によりざわめきは収まった。




「静まれ!!今しがたまでの現状をこの場の者に伝える!先程墓地より起きた爆発を知る者もいると思うが、既に我らの小隊が事態の究明に出ているが、その後再び墓地よりおそらく魔法による巨大な火柱が上った!未だ先行した小隊の帰還が無い事から今に至っている!これよりこの場に集った皆と共に現場である墓地へ向かう!その先に何があろうとも、この地に生きる者として、ある程度の覚悟をしておくのだ!我々の背には常に領主様と守るべき者達が居る事を忘れるな!!」




兵士の言葉に皆一斉に武器や農具を掲げ声を上げた。その時、住人と向かい合っていた兵士達の背後から横槍を入れるように既に町中に入っていたネロが言葉を発した。




「士気を上げているところ悪いが、貴様らの後方には既に私が居るため、墓地までご足労をかける必要は無くなったと思うのだが?他に用事があるならば道が開けてよいが、多忙な私の為にそこを通してはくれないか?」




背後からの声に背を向けていた兵士達と同様に、勢い立っていた群衆は後退んだ後、墓地の方角から突然現れた黒いボロ布に覆われた死神風なネロの姿を目にした一同はそのまま沈黙した。




「聞こえなかったか?あまり気の長い方ではないのだが?この地の領主【ルブルス】に用があるため先を急いでるんだが?道を開けてはくれないか?」




「き、貴様は何者だ!?先程墓地にて起きた事は貴様が原因か!?」




怯みつつも先程民衆に向け語っていた兵士がネロに問いかけた。その問いかけにネロはため息をこぼしながら応答した。




「人の話しを聞いていなかったのか?あまり時間を無駄にはしたくないのだが、道を開ける気が無いのならしかたがない。墓地に訪れた兵士達はただ一人を除いて既にこの世には居ない。敵対するなら貴様らもあの兵士達と同じ末路を辿る事となるが、どうする?」




ネロの言葉に兵士達は仲間を亡きものにされた事を知り、怒りから怒声を上げた。




「よくも我らの仲間を!?」




兵士達が怒りを露にする中住民達も事態を把握し、森へと逃げた家族を守ろうと再び手にする武器や農具を構え直した。そんな一同を見るネロは何も感じ無いかの様であったが、依然として無防備なネロに一同を率いていた兵士が再び群衆の士気を上げるように言葉を放った。




「同胞を手にかけたこの者を今この場で止めなければ、我らの背後にまでその魔の手が伸びてしまう!目の前に立つ者はたかだか一人!どんな魔法を使おうとも怯む事は何一つない!故に、皆我に続いて突撃せよ!」




その言葉とともに兵士は魔法を詠唱した。




「罪人には幾数の石をもちいて断罪せよ[ストローグ]!」




瞬間、地面に転がる無数の石がネロにぶつけられた。それと同時に兵士達と住人達は武器を掲げてネロに向かって行った。その様子を目にしながらネロは再びため息を吐きながら呆れる様に独り言を呟いた。




「あの程度の魔法で鼓舞されるなど理解に苦しむな?魔王と争っていた頃であれば街の若いゴロツキが使っていたような格下の魔法を兵士が撃ってくるとは。だが、向かってくるならばどんな者であろうとも関係無い!我が復讐を邪魔立てする者に私は容赦はしない!本物の魔法を見せてやろう!!」




ネロは向かって来る二百人程の軍勢に向け魔法陣を展開し詠唱した。



「天地に織り成す風の柱となれ[オーダント]!」




ネロが詠唱した瞬間、軍勢の中心に突如として激しい竜巻が起こり、住人と兵士達を無作為に空中へと巻き上げた。全ての者を巻き上げた後竜巻はかき消え、ネロの目の前に次々と巻き上げられた者達が地面に叩き付けられるように落ちてきた。空中から落とされた者達は皆くぐもった声を上げた。




「これが再三行った忠告を聞き入れなかった貴殿らの行いの結果だ。このまま領主の元に向かっても問題はないが、回復してから後をつけられても不快なだけだ。この場で始末しておこう!」




ネロが再び魔法陣を展開した時建物の陰から小さな影がネロの前に現れた。そこには目に涙を溜め震える手足を大きく開き、まるでネロに対して通せんぼするように立つ10歳程の少年の姿があった。ネロは魔法陣を展開したまま少年に視線をおくっていた。




「お、お父さんを、イジメないで!!」




「、、、、」




手足の震えが少年の言葉も振動させている様なその姿をネロは無言で見つめていると、少年が出てきた陰から少年の母親とおぼしき女性がネロから少年を隠すようにネロに背を向け少年を抱きしめた。その直後、倒れた者達の中から一人の男が地を這いずりながらネロに向けて言葉をはっした。




「お、願い、し、ます!家族に、だけは、手をださないで下さい!私はどう、なってもいい!だが、家族だけは!!」




「お父さんを、イジメたら、だめ!!!」




息子を無言で抱き締める女性は涙を流しながらも覚悟を決めたかのように目と口に力を込め閉じていた。未だネロを見据える少年も同様に堪えきれなくなった大粒の涙を流しながらも震える口でネロに言葉をなげかけ続けていたが、その様子を無言で見続けていたネロは生前の頃の記憶を思い出していた。その記憶は、幼少からの知り合いだったパーティーメンバーだったドルが、妻と子の葬儀で眉間にシワをよせ涙を必死に堪える姿だった。ネロは自身の胸中で疑問を懐いた。




(家族、か。今や心臓の無いこの胸に何故締め付ける様な痛みがあるのだろうか?私は何故こんなにも人の命を奪う事に戸惑いが無くなってしまったのか?この死んだ体が動く事と関係するのだろうか?だが今は、、、)




ネロは視線を目の前の家族へと向けた。そこには涙を流しながら未だ懇願を続ける父親と母親に力強く抱きしめられ涙により言葉が思うように出なくなっていた少年の姿があった。その光景を目にしたネロは少年に呟いた。




「安心しろ。もうお前の父親に何もしない。だが、勇敢と無謀は間違えるな。でなければ、この私の様になってしまうぞ。」




ネロはそう言い残し開かれた道を進んだ。その胸には未だ締め付けるような痛みがあったが、ただの空洞となったその場所の痛みを抑えるすべの無いネロは、その痛みを感じながら領主の館へと歩みをすすめた。

アンドリューと申します。




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