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勇者フラグ

「…あと三時間か。」

三時間後、この国は魔物の襲撃によって滅びる。いや、正確には二度滅んでいる。そして俺は二度死んでいる。この能力が目覚めたのはこの国についてからだ。祖父の話ではこの能力が目覚めた場所が世界を救うためのはじまりの場所らしい。つまりこの国に勇者がいる。しかし…、三時間でどうしろと言うのか。一回目も二回目も、きっちり三時間前に戻された。これも祖父の話だが、この場合三時間以内に世界を救うための条件を満たす必要があるらしい。その条件こそフラグと呼ばれる。そのフラグを満たすまで俺は何度もリセットされるらしい。一族の呪われた力だと祖父は言っていた。とにかく勇者を探そう。前回ある程度の目星はつけておいた。隅の方にある小さな家が勇者の家のはずだ。たどり着いた俺は直接話をするためにノックした。思ったよりあっさりと勇者が出てきた。まだ若い。成人もしていないだろう。

「あのぅ、君が勇者?」

「あなたもそんなことを言うんですか!」

突然大声を出されてビクッとした。怒鳴られるのは久しぶりだった。

「すみません、何か気にさわること言いました?」

「いきなり勇者とか言われても訳が分からないんですよ!一週間前に急に呼び出されて剣とお金渡されて。挙げ句は魔王を倒すため旅に出ろですよ。どうしろって言うんですか!」

「いやそうはいっても、素質があるとか、勇者の血筋とかじゃないんですか?」

「…占いだそうです。」

「あぁ、占いかー。」

それじゃあなぁと思わざるを得ない。しかし動いてもらわないとこちらもまずいのだ。あと二時間ほどしかない。説得しなくては。

「とりあえず、旅に出てみない?ここを出てしまえば後は何とかなるかも。」

「旅なんてしたことないのに無理ですよ。」

ああもう時間がないのに面倒くさい!

「じゃあ一緒についてくから!それならどうだ?」

「いいんですか!」

「もちろんだ、それより話を聞いてくれ。あと二時間くらいでこの国は魔物に襲われる。」

「えぇ!そんな、早く逃げましょう!」

「いやダメだよ戦わなきゃ。勇者でしょ。」

「でも私戦ったことないんですよ。」

「いいよ!俺も手伝うから!それっぽく剣振っててよ。」

「それなら…、やってみます。」

何とか説得には成功した。これで勝てるはずだ。


「…だめだったか。」

あの後、何とか戦ってみたが多勢に無勢。あっさりやられてしまった。また三時間前。正攻法でやっても無理そうだ。この一回は犠牲にして相手の場所を探ろう。そして次の時に奇襲をかけることにしよう。


「谷にいたのか〜。」

何とか敵の居場所を見つけることができた。勇者を説得してからでも間に合う位置だ。前回と同じように勇者に会い説得に成功した。二回目ともあってスムーズにいった。後は奇襲をかけ一気に叩く!


「駄目か〜。」

考えてみれば、奇襲をかけたところで相手の数が多いんだから無理に決まってる。馬鹿なことをしたな。また三時間前に戻された。…何故三時間前なんだ?勇者を説得したところからではないのか?勇者が間違っている?いや、それは考えにくいか。そもそも勇者ってなんだ。職業とかじゃない。勇ましい者を指す言葉だ。今のところあの勇者から勇ましさは感じられない。…まさか

「自分から立ち上がらせないとダメなのか?」

試してみなくては。


勇者の家の前に着いた。これまでとは違ったやり方をするしかない。勇者をその気にさせるんだ。

「どちら様でしょうか?」

「突然ですまない、君の力が必要だ。」

「えっ何ですか?」

勇者にしゃべる隙を与えてはいけない。

「二時間後この国は魔物に襲われる。俺と一緒に戦ってくれ。」

「そん」

「いいや、言わなくても分かる。戦ってくれるのか、ありがたいさすがは勇者だ。」

「ちょっ」

「ここについてから皆が君の話をしていた。憧れるとか、かっこいいとか、子どもたちは君の真似をしていた。君がいれば彼らを救うことができる。」

もちろん嘘だ。ここに着いてから勇者の家以外寄っていないし、他人と話してすらいない。

「…皆が私のことを?」

「!ああそうだ。彼らを救えるのは君だけだ。」

「…あなたも手伝って、くれますか?」

「もちろんだ、一緒に世界を救おう!」

「はい!」

とりあえずは成功だろうか?だが油断はできない。敵と戦うまでは。


二時間六分後、予定通り魔物が襲撃してきた。俺も必死に戦っているがやはりきつい。勇者にいたっては完全に遊ばれている。これはまた駄目かもしれないな。傷だらけになりながら勇者が立ち上がった。

「私が皆を守るんだ!」

叫びながら魔物に突進し、あっさりかわされる。はじめの一回とは比べ物にならないほど勇敢だ。人間分からないものだな。しかしそろそろきついかな…。

「子どもだけにやらせる訳にはいかないよな。」

「俺だって結構鍛えてるんだぜ。」

隠れていた人々が魔物の前に立ちはだかる。

「みんな…!」

「悪いな。臆病風に吹かれていたが、お前を見ていたらやらなくちゃいけないと思い直した。あそこで倒れているやつ引っ張って少し休んでろ。」

「はい!」

すでに立ち上がる力もなくなっていた俺は勇者に引きずられて誰かの家に隠れた。その後戦闘には遅れてやって来た兵士も加わり、何とか魔物を退けることに成功したのだった。


やり方を変えるとフラグの立ち方が変わるのか。これからも注意が必要だな。勝利フラグが立つまで先に進めないことがこれほど苦痛とは思わなかった。祖父が呪いと言ったのも理解できる。

「すみません、お待たせしました。」

荷物をまとめた勇者がやって来た。いよいよ旅立ちの日だ。

「そういえばまだ名前を聞いていませんでした。なんて言うんですか?」

「俺は矢部だ。」

「ヤヴェさんですね。よろしくお願いします!」

発音が気になったがまぁいい。とにかく安全に旅をしよう。フラグを見落とさないように。

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