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第八話 一目で全てが変わった件

顔合わせは、こちらの屋敷になった。

そしてお嬢様が色々ごねた結果、俺もその場に同席する事になった。

良いのかなぁ、という気持ちが最後まで拭えないまま、当日を迎えた。


***


「初めまして。エディアス・ロドランだ」

「はじめてお目にかかります、シュティーナ・イリスティラと申します」


顔合わせ。

名乗って、エディアス王子がお嬢様にニコリ、と上品に笑んだ。

お嬢様は頬を染めて、それでも精一杯優雅に礼を取り挨拶をした。


お嬢様の目がウルウルしている。感激している。

エディアス王子が、微笑ましそうにまたニコリとお嬢様に笑顔を見せた。


双方が気に入った、というのが、誰の目から見ても明らかだった。


お嬢様は、わが国の第三王子の婚約者になった。

お嬢様はハッキリと、第三王子に恋をした。


お嬢様の意識は、全て第三王子に関することに切り替わったのだ。


ホッとした。

と同時に、やはり寂しかった。


元から分かっていた事だ。

そういう時間が来ただけだ。


俺は仕事が終わってから自分の部屋に戻って、一人ゆっくりと酒を飲んだ。

そして、自分の将来の事をじっくり考えた。


大丈夫だ、間違いない。

昔立てた通りの未来。それで良い。


「給金を下さるお嬢様が大好きですよ」


いつからか、自分へ言い聞かせるように呪文のように繰り返し、お嬢様にさえ時折そのまま告げた言葉を呟いた。


使用人は主人に尽くし、主人はその行いに給金で報いる。

使用人と主人の正しい関係だ。

お嬢様から俺には、給金が与えられる。気持ちと行動がゼロで良いのだ。


「給金を下さるお嬢様、大好きですよ、ずっと」


***


お嬢様と王子様は無事に婚約し、正式に公表された。


「お勉強がたいへんー」

未だに弱音を吐き続けるけれど、恋する王子様のためと思って頑張る様子は、微笑ましくて応援したくなる。


お茶を運ぶと、机に力尽きたように突っ伏していたお嬢様は顔を上げる。そして再開。


***


「ねぇねぇ、ウィルター。昔、ウィルターは私に、町にお忍びに連れていってくれるって約束したわ」

「・・・」


本日は暗記の手伝いをしていたら、力尽きたお嬢様がふと顔をあげてそう言いだした。

また昔の事を・・・。


「ウィルター」


「しました、かね。ただあれは、俺がまだ警備などよく分かっていない時の約束なので無効です」

「酷い! 駄目よ、約束したもの!」


「そもそも、町に行って何がしたいんですか?」

「・・・今度、エディアス様に自慢するの! それで贈り物を差し上げるの!」


「エディアス王子様への贈り物は町にはありませんよ」

「そうなの? どうして分かるの」


「町の品物は基本的に庶民向けです」

「・・・庶民向けのものを見たいわ! 絶対絶対絶対絶対・・・」


お嬢様が俺に呪いをかける勢いで訴えだした。


***


負けた。折れた。

「良いですか。本当に、本当にちょっとだけですからね!」

「ええ、準備は万端よ!」

意気込むお嬢様を見やる。まぁ、ジュディアの昔の服を借りたので服装は大丈夫そうだ。

ちなみに、お嬢様に気づかれないように護衛を10人依頼している。10人で足りるか不安だがあまり多くてもバレそうだ。


お忍び意欲満々のお嬢様を町に連れ出す。

普通に楽しまれているが、俺としては神経が磨り減る。

「あれは何!?」

「あれは糸やです。染めた糸を売ってます」

「見たいわ!」

「どうぞ」


ワクワクしている様子を見ると、もっと早く連れてきて差し上げた方が良かったのかもしれないな、という気もしてくる。

ただ、今俺がこの年齢になってやっと町に踏み出す勇気が持てたぐらいだからどうしようもなかったかもしれない。


糸を見終わったら、他にすぐ目移りするお嬢様。

「あれは何!?」

「野菜を売っています。でもあの辺りは人が多いのでやめましょう。雑貨ならこっちですし」

「ふぅん」

「絵葉書があります。庶民が好むものですが。ちょっといいペンも置いています」

「ふぅん」


いろいろ見て回ってお嬢様は満足されたようだ。

無事に屋敷に戻ってから、お嬢様はニコリと笑った。


「ねぇ、次ね、私、自分でお金を払ってみたいの!」

「どうして先ほどまでにおっしゃらなかったんですか」

思わずうなるように言ってしまった。


「だって、次も行きたいもの。ね、約束ね」

「お約束はできません」

今日だけで神経をかなり使った。


「お願い、息抜きだから! お勉強頑張るから!」

「・・・」


***


お嬢様は、町にお出かけを息抜きとして励まれるようになった。


あまり危ない事をしていただきたくないんだが、と渋い思いでいたのだが、他の使用人は俺ほど心配はしていないみたいだった。


王子様と結婚されるお嬢様だ、庶民の暮らしを知っている方が良いかもしれない。知らないよりも、知っている方がお嬢様の強みの一つになるからだ。

それに、ご結婚された後はお忍びできないかもしれないし、という事だ。


***


息抜きを必要とするほど、お嬢様にとっては苦痛の勉強をこなされつつ、お嬢様は同世代の方々との交流のために設けられた『未来の星々館』に通われる事になった。

王家の直轄領内に施設がある。詩的な名前がついているのは、若い世代が集まるからだ。

先生がいて、知識や武芸など学んだり、披露したり、切磋琢磨するところらしい。


通うのは9か月間。寮生活になるので、俺もついていく。

婚約者の第三王子様も同じ時期に通われる。


お嬢様は、第三王子様と一緒に過ごす時間がたくさん持てる、とそれはそれは楽しみにしておられる。

良かったな、とご様子を見て素直に微笑ましく思う。

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