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第七話 支えていく件

復帰当日。


お嬢様は俺の姿を見て明らかに挙動不審になった。

声をかけようとして迷い、黙るけど気になる、という感じ。


だからといって俺から話しかけるのは駄目なので、頭を下げてみたりして待つ。


「ウィルター、あの、げんき、だった?」

おずおずとお嬢様がそう俺に聞いた。

顔を見たが、気まずくなって少し視線を下げる。

「はい」

と返事をした声は固くなった。


無言に顔を上げると、お嬢様が泣きそうな顔になっていた。

俺は慌てた。

慌てて、付け足した。

「庭の手伝いを、しました」


お嬢様はさらに泣きそうになった。

慌てて、さらに発言した。礼を取る。

「また戻していただいて、有難うございます。お嬢様にお仕えします、精一杯、尽くします」


実は昨日、俺の部屋にお嬢様付き仲間の一人、マリアがやってきて、俺に指導を入れた。

相当心配だったからだろう。

『こうきかれたらどう答えるの。答えてみなさい』

と、半時間ぐらい俺のところにいて、俺の考えと答え方をまとめさせた。


昨日練習した答え方をしてから、頭を上げてお嬢様を見る。

まだ泣きそうなままだった。


「ウィルターは、私のこと、きらいに、なった?」

「いいえ」


俺はマリアに感謝した。マリアが聞いてきた質問通りだったからだ。


「どうお答えして良いか分かりませんが、きらいになるはずありません。お嬢様が幸せになる事を、心から願っています。本当です」

「本当に? 私を嫌いになったり、していない?」

「はい」


好きだと答えられたら楽なのに。

好きには色んな解釈がある。

恋愛的な好きを混ぜてはいけない。だったらどう答えていいか分からない。


「わたし、あのね、頑張るからね」

とお嬢様が俺に向かって泣きそうになりながら微笑んでみせた。

とても可愛くて、綺麗だなと俺は見惚れた。それからすぐにその感情を隠した。


「私、ウィルターにちゃんと支えてもらえる、立派で完璧なレディになるから、私の傍に、いてくれる?」

「はい。光栄です。約束します」


お嬢様は嬉しそうになった。

俺もお嬢様に微笑んだ。


「えっと、じゃあウィルター、お庭のお仕事、何したか教えて欲しいの。お話してくれる?」

「はい。お嬢様。構いません。ただ、俺はお嬢様のために、その後図書室にお連れしなければと思います。宜しいでしょうか」

これも執事長に指導されていた事だ。お嬢様はお勉強の時間が足りていない。のんびりしていて進行も遅いことと、お嬢様は本があまりお好きではないからだ。


「えぇ? 図書室? どうして」

困ったようにお嬢様が拗ねた。

「教養を身に着けるお手伝いを、頑張ります」

と俺もつい苦笑した。手伝い方なんて分からない。


「ウィルターは勉強が好き? できるの?」

「いいえ、残念ながら。できません」


「ひどーい、私だけお勉強するの嫌だわ」

「はい。お傍で励ましますから」


お嬢様は完全に拗ねた顔になって俺を軽く睨んだ。

「ひどい、ウィルター、絶対バルストかフリュッティ先生の手先になってる」

「手先では無いです。俺はお嬢様の役に立つ人間になりたいからです」


「ずるーい! じゃあ、ウィルターも一緒に勉強してくれる?」

「・・・え。俺・・・?」

この返答は、昨晩のマリアの対策講座には出て来なかった。どうしたら良いのかと周囲の使用人たちに目くばせする。皆、真顔で俺に頷いてきた。『はい』と答えろということか。


「・・・はい」

俺が良く分からないまま答えると、お嬢様は目を丸くしてから喜んだ。

「本当!? 約束ね!」


***


お嬢様はこの会話の後、前のように明るく気さくな態度に戻った。

俺も笑顔で話せるようになって、自分に安堵した。

だけど、自分でも距離に気をつけようとしているし、お嬢様もふと距離を離そうとされるのが分かった。

互いの様子を見ながら気を付けている。


一方、なりゆきで勉強に付き合う事になった俺は、他の様々な事も一緒に体験させられるハメになった。

「だって、ウィルターもしても良いと思うの」

とお嬢様がどこか言葉を選びながらそう言ったのは、多分、俺は兄なのだから同じように教育を受けるべきだ、というお嬢様なりの配慮だろう。

だけど、屋敷に置ける公然の秘密であったとしても、俺を兄だと口に出してはいけない。


お嬢様なりの心遣いを感じつつ、領主様にも了承をいただいたということで俺も勉強に加わる事になった。

その方がお嬢様も励みになるという事だ。


ただ・・・お嬢様、俺より4つも年下だからといううのもあると思うんだが。

物覚えが、あまり宜しくないようだ。

俺は基本が全くない状態で勉強を始めたのに、俺の方が記憶力は良いようだった。


お嬢様が俺ができすぎると拗ねるようになったので、色々周囲と相談した結果、俺は使用人であるけれど、男児が学ぶ学問をさせてもらい、お嬢様は俺が頑張っているのを励みに自分の学問にはげむ・・・というような形に落ち着いた。


そうして、あっという間に年月が経った。


***


「ねぇねぇ、ウィルター!」

「はい、お嬢様」


使用人の身でありながら、領地経営や資金繰りについての書籍を図書室で立ち読みしていた俺のところに、お嬢様がバタバタと走り込んできた。


「ご令嬢が走るとか有り得ませんよ」

「もー、分かってるわよ、意地悪ー。それより大変なの!」


今や12歳になっているお嬢様。ますます女性的に魅力的に成長されているけれど、屋敷の人間への砕けた様子は昔と変わらない。


「お見合い、お見合いをするの!」

「あぁ。はい。おめでとうございます」


お嬢様は、ピョンピョンと飛び跳ねた。

俺は読んでいた書籍を閉じて、それでお嬢様の飛び跳ねる頭を抑えつけた。

「飛び跳ねるなんてあなたはカエルですか」

「お相手、ウィルター知っている!?」

グィ、と本を頭で押しのけ、お嬢様は俺に聞いた。


「えぇ、もちろん」

「そうなの! ねぇ、ウィルターも同席してくれる!?」


「俺はお見合いの席に仕えるのは気が進まないのですが・・・」

16になった俺の容姿は、勝手に磨きがかかっている。

実は、他の話があった時、俺がいることで相手が自信を喪失したらしいんだよな。

そんなのをわざわざ控えさせなくても・・・。


「今回は絶対! ウィルターにも人柄とか見て欲しいもの!」

「今回こそ本命です。問題なんてありません」


相手は、我が国の王子の一人だ。

旦那様は実は手腕が優れているお方だったらしい。


「駄目! ウィルターも同席して! だって!」

お嬢様は俺の服の袖を掴んで少し泣きそうに黙った。

そして、小さく小さく呟いた。

「ウィルターも家族だもの・・・」

「・・・」


俺は困って、お嬢様と一緒についてきた使用人仲間を見た。

だけどお嬢様の声は聞こえなかったようだ。


「ウィルター、私の人生を決める大事に立ち会ってくれないの!?」

「口説き文句が上手くなりましたね、お嬢様」

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